2021年度介護報酬改定でハラスメント対策が強化される
2021年度介護報酬改定の概要
2021年度介護報酬改定の概要は以下の通りです。
団塊の世代のすべてが75歳以上となる2025年に向けて、「地域包括ケアシステムの推進」や「介護人材の確保・介護現場の革新」を図ることなどを主なねらいとしています。
あわせて、適切なハラスメント対策を講じることも求められています。
- 感染症や災害への対応力強化:感染症や災害があっても安定的かつ継続的にサービスを提供する
- 地域包括ケアシステムの推進:住み慣れた地域で継続的にサービスを受けられる体制を整える
- 自立支援・重度化防止の取り組みの推進:科学的根拠に基づく効果が期待できる質の高いサービスを提供する
- 介護人材の確保・介護現場の革新:介護職員の処遇改善や職場環境の改善を行う
- 制度の安定性・持続可能性の確保:必要なサービスは確保しつつ適正化や重点化を図る
- ハラスメント対策の強化:ハラスメントへの対策強化が運営基準に盛り込まれた
そのほか、介護保険施設におけるリスクマネジメントの強化や高齢者虐待防止の推進、基本報酬の見直しなども考慮されています。
介護人材確保のために処遇や環境の改善を目指す
2021年度介護報酬改定のうち、特に介護職員の人材確保に注目してみましょう。
厚生労働省の発表によると、2025年度末に必要な介護職員は約245万人といわれています。2016年度では約190万人しか確保できていないため、毎年6万人程度の新たな介護職員を増やしていかなければいけません。

しかし、人手不足を解消するためには様々な課題があります。介護職員の仕事内容に対して厳しいイメージを持っている方も多いでしょう。
介護職員の仕事は、ときには入浴介助や排泄介助などの心身ともにタフさを求められるものですが、他の職種と比べて給料が高いわけではありません。
厚生労働省が発表した「平成2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、介護職員の月給は32万5,550円でした。
看護職員は38万3,560円で、理学療法士や作業療法士などは36万4,040円ですので、他の職種に比べて低い水準であることがわかります。
そのうえ、介護施設利用者やその家族からハラスメントを受けて、肉体的にも精神的にもつらくなり、退職してしまう方も少なくありません。
介護職員の需要が高まっている一方で、定着率は低く、慢性的な人手不足が起こっているといえるでしょう。
介護現場ではハラスメントが常態化
利用者や利用者の家族からのハラスメントが課題
とりわけ、昨今では介護現場におけるハラスメントが深刻化しています。介護職員が介護施設利用者やその家族に体を触られたり、暴言を吐かれたりすることが起きているのです。
株三菱総合研究所が2019年に発表した「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」によると、介護老人福祉施設では71%の介護職員がハラスメントを受けたことがあると回答しました。

続いて多いのが、認知症対応型通所介護の64%、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の61%です。
例えば、ハラスメントの内容はコップを投げつけるなどの「身体的暴力」や大声を発するなどの「精神的暴力」、また必要もなく手や腕をさわるなどの「セクシャルハラスメント」に分類されます。
介護職員が働く場所ごとにみていくと、入所・入居施設では、身体的暴力および精神的暴力のいずれも高い傾向があり、訪問系サービスは、精神的暴力の割合が高くなっています。
暴力や暴言にはさまざまな原因が考えられますが、なかには認知症や精神疾患の症状としてそういった行為に及んでいるケースもあるため、本人ですら自分でコントロールできていないこともあるでしょう。
介護職員をハラスメント被害から守るためには、介護施設利用者の自尊心を傷つけないようにしながらも、物理的に距離を取ることが必要な場合もあるでしょう。
また、介護施設利用者だけでなく、利用者の家族からもハラスメントを受ける場合もあるため、ハラスメント被害への対策は急務といえます。
ハラスメントを受けて「仕事を辞めたい」と思った職員も少なくない
実際にハラスメントを受けて仕事を辞めたいと思った職員の割合をみていきましょう。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護では、37%もの職員がハラスメントを受けて仕事を辞めたいと思ったことがあると回答しています。
なかには、ハラスメントを受けて怪我したり病気になってしまったケースもあり、深刻な状況だといえるでしょう。
なお、介護施設利用者や利用者の家族などからのハラスメントが発生する原因と考えられるものとしては以下が挙げられます。
- サービスへの過剰な期待
- サービスの範囲に関する理解不足
- 認知症といった病気あるいは障がい
- 性格や生活歴
介護施設管理者も、利用者や家族との相互的な確認を行ったり、相談しやすい組織体制の整備をしたりして、ハラスメントの未然防止や解決に向けた取り組みを図っています。
運営基準の見直しやテクノロジーの活用でハラスメント対策へ
ハラスメント対策を事業主に義務付ける
セクシュアルハラスメントについては、2020年から男女雇用機会均等法において事業主に対して義務付けている雇用管理上の措置義務の対象に含まれることが明確化されました。
そのことにより、日頃から職員の意識啓発や周知徹底を図るとともに、相談しやすい相談窓口になっているかチェックを行う事業者も増えることが期待されます。
また、職場内のパワーハラスメントについては、法律による事業主の雇用管理上の措置義務の対象ではないものの、事業主が雇用管理上行うことが望ましい取り組みとして防止対策を記載しています。具体的には以下の通りです。
- 相談や苦情に応じて適切に対応するために必要な体制を整備する
- 相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者および行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずる
- 相談者や行為者などのプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したことを理由として不利益な取扱いを行わない
介護職員の肉体的・精神的な負担を軽減させる取り組みは実行し続けなければいけません。
テクノロジーを活用して労働環境の改善へ
一方、昨今では介護職員の肉体的・精神的な負担を軽減させるためにテクノロジーを活用しようとする動きがみられるようになりました。
例えば、タイミングを見計らうのが困難な排尿をサポートするテクノロジーがあります。下腹部に装着した超音波センサーで膀胱の大きさを測定できるのです。必要なタイミングで排尿できるようになると、本人や介護職員の負担を大きく軽減できます。
このデバイスを常時装着していると、24時間のモニタリングが可能です。2週間ほどモニタリングを続ければ、正確な排尿リズムを掴めるでしょう。介護職員は、最適なタイミングで排尿ケアを実施できるわけです。
排尿に関する不快さが軽減されれば、利用者としてもイラつく気持ちを抑えられるかもしません。
介護職員だけでなく、お互いにとって、テクノロジーの活用はメリットがあるわけです。
利用者・介護者ともに心に余裕が生まれると、ハラスメント防止にもつながるでしょう。
今回は、2021年度の介護報酬改定に関連するハラスメント問題について考えてました。安心して働ける環境整備を図り、離職の防止につなげていきたいものです。
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2020年9月7日 制定