人材不足の介護業界を狙う悪質業者
再転職を勧める業者も…
深刻な人手不足に悩む介護業界では、人材確保が大きな課題になっています。そのため、多くの介護施設では、求人募集にハローワークなどの公的機関だけでなく、民間事業者を利用しています。
東京社会福祉協議会の調査によれば、人材派遣・紹介会社の利用状況について半数以上の事業所が「はい」と回答している状況です。

また、厚生労働省が2019年に公表した『医療・介護分野における職業紹介事業に関するアンケート調査』によると、介護職員の採用経路として最も多かったのは「民間職業紹介事業者」の28.3%で、以下「公共職業安定所(ハローワーク)」(25.8%)、「直接募集」(10.4%)でした。
背景には、公的機関だけでは人が集まらないという問題があります。同調査によると、公共職業安定所やナースセンターなど無料の機関を利用しない理由として、「なかなか求職者を紹介してもらえないため」が47.5%で最多となりました。
また、「迅速に求職者を確保できないため(採用に至るまでのスピード)」(28.0%)、「多くの求職者からの応募が期待できない」(23.7%)と、公的機関では不十分という回答が上位を占めました。

介護職は、完全な売り手市場であり、有効求人倍率は平均より3倍以上の高水準が続いています。こうした市場を利用した悪質な業者による被害が頻発しているのです。
例えば、ある求職者がAという施設に就職したにもかかわらず、業者は2年以内にBという施設への再転職を勧めるなどのケース。
民間の職業紹介事業者の仲介で就職した人の38.5%は半年以内に離職しており、せっかく採用したのに、人材が定着しないという問題に直面しています。
また、求人に応募してみたところ実際は募集していなかったり、すでに閉鎖した施設などの求人広告を掲載して求職者を集める「おとり求人」という手法も行われるなど、トラブルが後を絶ちません。
紹介手数料が年収の35%という業者も
しかし、公的機関だけでは人材が集まらないので、民間の職業紹介業者を利用せざるを得ません。その際、介護事業者にとって大きな負担になるのが、紹介手数料です。
東京社会福祉協議会の調査によると、高齢者分野の介護事業者が年間で支払っている手数料は平均でで495万円、最高額は5,600万円にも及びます。保育分野が平均298万円、最高額1,000万円なので、その差は歴然です。
慢性的な経営難にあえぐ事業者も少なくなく、特別養護老人ホームでは全体の3割が赤字経営を余儀なくされています。収入に占める給与費の割合は63.6%と高く、人件費が経営を圧迫しています。
ところが、手数料は年々増加し、就職した人の年収の35%という業者もあるほど。多くの介護事業者は人手不足と採用コストで悩みを抱えています
厚労省が注意喚起するポイント
厚労省が設けた2つの基準
こうした現状を是正するため、厚生労働省は「介護分野における適正な有料職業紹介事業者の基準」を通知しました。
設けられた基準は大きく分けて、「必須」基準と「基本」基準の2つ。
「必須」基準は、法令遵守がなされているかをチェックする項目で、必ずクリアしていることを確認するもの。
一方の「基本」基準は、事業者としてクリアしていることが望ましいとされる基準となっています。
「必須」基準
- 手数料関連…取り扱い職種別に手数料を公表している
- 返戻金関連…返戻金制度を設けている
- お祝い金関連…求職申し込みの勧奨にあたり、金銭などの提供をしていない
- 再転職勧奨関連…自らの紹介により転職したものに就職した日から2年間、転職の勧奨を行っていない
- 広告関連…不適切な広告表現・広報活動を行っていない
- 労働条件の明示関連…労働時間そのほかの労働条件を可能な限り速やかに明示している
- 個人情報保護関連…求職者の要配慮個人情報は、本人の同意を得ないで取得していない
- 苦情窓口関連…具体的な苦情窓口を明示している
- 是正指導関連…職業安定法に基づく是正指導を受けていない
「必須」基準では、問題となっている再転職について、2年間は再転職の勧奨を行っていないことが明記され、苦情窓口を設けているか、過去に自治体から是正指導を受けていないかなどの9つの項目が記載されています。
これらの項目が守られていない業者は、法律に抵触している恐れがあります。
一方の「基本」基準は、違法とは呼べないまでも、優良か否かを判断するポイントが記載されています。
例えば、「求人者に可能な限りの就業実態等(残業時間やシフト勤務、育休制度の取得実態等)の情報開示を求め、その内容を適正に伝えていること」などです。
「医療・介護・保育分野適合紹介事業者宣言」事業者を公表
また、厚労省は、同省が運営する「人材サービス総合サイト」にて、2020年7月から職業安定法などの指針を遵守すると宣言した「医療・介護・保育分野適合紹介事業者者」を公表しました。
しかし、「人材サービス総合サイト」では、これまで是正勧告を受けるなどした悪質な事業者の情報は掲載されていません。そのため、全国介護事業者政治連盟は、罰則の強化とともに悪質な事業者の公表も求めています。
介護事業者と職業紹介事業者との間で起こるトラブルを改善しようとする動きは、今後も強まっていくでしょう。
介護職のキャリア形成と定着のために
定着していないOJTの現状
人材確保のもうひとつの問題として挙げられる離職を防ぐために、介護職のキャリア形成を具体的に示す動きも広がっています。
一般社団法人シルバーサービス振興会は、介護人材のキャリア形成と定着のために、介護事業者に対してOJT(「On the Job Training」の略称で、実務における研修やトレーニングのこと)の推進を勧めています。
OJTを計画的に導入し、具体的な評価基準を設けることで、プロフェッショナルな人材を育て、モチベーションが向上すると考えられているからです。
OJTを実施している介護事業者は約8割に及んでいますが、日常的かつ計画性をもって実施している事業者は5割ほどしかありません。

特に重要視されているのが、介護スキルの標準化。
日々の業務を細分化し、その内容を具体的に教える側・教わる側双方に示すことで職員のスキルのばらつきを抑えることができます。
また、スキルが標準化されることで、「評価基準」が明確になり、職員のモチベーションが向上するのです。
キャリアパス制度を推進する山形県の事業モデル例
山形県では、介護職のOJTやキャリア形成の考え方を浸透させようと具体的な事業モデルを掲示しています。
なかでもキャリアパス制度の導入を強く推進。
一般的に、キャリアパスとは、「目指す職位・職責、職務等に到達するための経験の積み方、能力を高めていく順序などを段階的に設定すること」を意味しています。
この制度を実現するためには、事業者が人材育成に対して、明確な基準を設計することが肝心です。
ポイントは、職員がその事業所でどのようにキャリアアップしていくのかを明示すること。客観的かつ具体的な「評価基準」を設けて、成長を実感できるような環境を整備することで、サービスの質も向上し、職員たちのやりがいにも繋がります。
山形県は一連の取り組みのなかで、雇用体系、研修制度、賃金、人事評価に至るまで指針を示し、事業者用マニュアルなども示しています。
介護職が魅力的な職業になれば、人材不足解消の一手にもなります。介護業界全体で、人材育成を考えるべき時が来ているのかもしれません。
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2020年9月7日 制定