膨らみ続ける介護費用が国の財政を圧迫
介護費用は3年連続で10兆円超え
厚生労働省が公表した2020年度の「介護給付費等実態統計」によると、介護保険給付や自己負担分を含めた介護費用は10兆7,783億円で、過去最高となりました。
その内訳は、要介護度1以上が対象の「介護サービス」で前年比2,621億円増の10兆5,078億円、要支援1・2が対象の「介護予防サービス」で前年比67億円増の2,705億円でした。
10兆円を超えるのは3年連続です。
一人あたりにかかる費用の平均も、年々増加しています。過去5年の年次推移(各年4月審査分)をみると、2017年には16万4,000円でしたが、2021年は17万4,900円にまで増加。前年比でも2万3,000円増となりました。

深刻な財源不足と自己負担額の増加
社会の高齢化に伴い、保険給付の総受給者数は、2017年度の604万1,200人から、2021年度は621万9,000人にまで増加しています。介護保険制度が開始されて以降、ほぼ一貫して増加傾向にあるのです。
介護保険の内訳は、国と自治体の税金が50%、40歳以上が支払っている保険料が50%と単純な構成になっています。そのため、介護費用が増加した際の対処法は大きく分けて、「財源を増やす」「給付を減らす」という2つになります。
これまで、国は「財源を増やす」ために、介護保険料の引き上げを行ってきました。
2018~2020年度の平均介護保険料は5,869円で、2000~2002年度の2,911円から倍増しています。
しかし、国民の平均所得から考えても、これ以上介護保険料を引き上げるのは限界ではないかと専門家の指摘もあります。
そこで、近年実施されているのが「給付を減らす」という方法です。
例えば、高所得高齢者の自己負担額が、2015年に2割、2018年に3割に引き上げられました。
直近では2021年8月に、預貯金が多い高齢者などを対象に介護施設での食費などを補助する「補足給付」が削減されました。
計算上では、最大で月6.8万円以上の負担増となっているのです。
介護予防のために利用される総合事業
総合事業の対象拡大も財源不足が関係か
「給付を減らす」ために、国は要支援・要介護状態の高齢者をできる限り減らすことも方針の一つとして打ち出しています。要介護度が高くなると、その分だけ介護給付費が増えるため、要介護度を低く抑えれば、介護給付費を抑制することにつながるからです。

上図のように、要支援・要介護認定者数は右肩上がりで増加しています。
こうした状況を鑑みて誕生したのが、介護度の維持・低下を目的とした「介護予防」という考え方です。
2015年から開始された「総合事業」は、介護予防を促進するためのサービスとして重要視されています。
これまで総合事業の対象者は要支援者でしたが、2021年には要介護度1、2の人にまで対象範囲が拡大されています。
本当に支援が必要な人にサービスが届かないリスクも
介護度の低い人が増えるということは、健康な人が増え、財源にも良い影響があるようにも思えます。
しかし、この対象者拡大には「要介護1、2」の人が適切な介護サービスを受けられなくなるリスクがあるとして、各団体などから批判の声が上がっています。
例えば、「認知症の人と家族の会」は厚労大臣宛に、「要介護者の介護保険外しの道を拓く改正省令は撤回すべき」と緊急声明を出しています。
こうした批判の多くは、総合事業の対象者となることで受け取る介護給付費が減少すると主張しています。
総合事業はおもに4つの区分に分けられています。これまでの制度と同様の「従前相当」、保険給付の基準を緩和した「サービスA」、地域住民のボランティア活動などの「サービスB」、短期集中予防サービスの「サービスC」、移動支援の「サービスD」です。
厚労省は「サービスB」の拡大を推進していますが、自治体ごとでは全国の15%程度しか浸透していません。
そこで国は、これまで「サービスA」と「サービスD」を利用していた「要支援1、2」の人が「要介護度1、2」に上がっても「サービスB」を利用できるように制度を弾力化しました。
しかし、要介護度が上がっても総合事業の対象者に留めておくことは、介護度が上がっても適切なサービスが受けられなくなるリスクをはらんでいるのです。
給付を減らすだけでなく、地域ぐるみのサービスの充実も
2024年にはケアマネジメントに利用者負担の導入を財務省が検討
近年、国では一貫して「給付を減らす」ことに注力しています。特にその主張を強めているのは財政健全化を訴える財務省です。2021年5月には、財務省が再び「ケアマネジメントの利用者負担」に言及しました。
介護給付費の増大を受け、これまで無料で提供されていたケアプランの有料化を狙っているのです。これまでも繰り返し議論がなされており、2019年度には「デメリットが大きい」として、導入が見送られた経緯があります。
財務省は2024年の介護報酬改定に向けて、「ケアプランが適切に行われていない」「介護保険外サービスの適用する基準が不明瞭で、過剰にケアプランに組み込んでいる」と指摘。
ケアプランの見直し強化などの動きが強まっているのも、「給付額を減らす」という財務省の狙いが背景にあります。
しかし、日本介護支援専門員協会の調査によると、ケアマネージャーは介護サービスを適切に適用していることが示されています。
例えば、「介護保険外サービス」の考え方を尋ねたところ、「アセスメントの結果、介護保険外サービスや支援の利用が必要な場合のみ、追加している」が68.3%で最多。
不適切な利用にならないよう、何らかの検討を行っているケアマネージャーがほとんどです。

「通いの場」の充実が焦点に
このように、「給付を減らす」ことばかりが注目されがちですが、総合事業を始めとした健康増進事業が必要なことは事実です。
その一つとして注目されているのが、「通いの場」です。厚生労働省は「健康寿命延伸プラン」のなかで、「介護予防・フレイル対策、認知症予防」を柱の一つとして設け、具体的な数値目標を設定しています。
「通いの場」は、2013年度に4万3,154ヵ所だったのが2019年度に12万8,768ヵ所と全国に広がっており、各自治体で特徴的な取り組みが実施されています。
例えば、宮城県大河原町では、デイサービスの定員空き枠を活用して、住民主体の介護予防教室を実施しています。
リハビリ専門職から、地域包括支援センター職員、デイサービス職員、ボランティアが生活行為向上のアドバイスをするなどの支援を行っています。
地元の協力を得ながら、効率的に高齢者の介護度を抑制・低下する介護予防サービスを拡大させてることは、「給付を減らす」ためだけでなく、高齢者本人の「生きがい」や「自立した生活」の礎となり、QOLの向上にもつながります。
今後はこうした介護予防サービスをいかに早い段階で広めていくかが、現状の介護保険制度を維持するための鍵を握るのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定