地域密着型特養の業績が好調な理由
地域密着型特養の約6割が3年連続黒字
今年の2月、福祉医療機構は地域密着型特別養護老人ホームの黒字施設の割合が72.2%に達し、過去3年で最高となったことを公表しました。
中でも、3年連続で黒字となった施設は56.8%に達しています。一方で、3年連続で赤字となった施設は20.8%にとどまっており、多くの施設で安定した収益を得られていることがわかっています。

地域密着型特養とは、2006年度から開始された地域密着型サービスの一つとして設けられた施設です。特養には「広域型」「地域密着型」「地域サポート型」の3つがあり、それぞれ特徴が異なります。各タイプ整理してみましょう。
- 広域型
- 定員30人以上。利用者が住んでいる市町村に制限はない。最も一般的なタイプ。
- 地域密着型
- 2006年に制度化されたタイプで、定員は29人以下。利用者が住んでいる市町村で利用できる。「広域型」などの本体施設から20分以内の場所で運営される「サテライト型」と、本体施設を持たない「単独型」に細分化される。
- 地域サポート型
- 2013年に新設されたタイプで、在宅介護を受けている高齢者を対象に365日24時間、見守りや生活支援サービスを行う。身体介護ではなく、日中の巡回や安否確認、夜間緊急時の看護師派遣などを行う。
コンパクトな施設だからこそ安定した経営が可能に
地域密着型特養は、入居できる利用者が同じ市町村に限定されることから、本来スケールメリットが少ないと考えられていました。
スケールメリットとは、規模が大きくなることで企業などが得られるメリットのことを指し、経営効率や生産性が高まることを意味しています。
広域型特養は、定員に上限がないため規模を拡大することも可能ですが、地域密着型特養は29人以下と定められていることから、規模は一定のまま大きく変わりません。
スケールメリットを受けられない代わりに、規模を大きくする際のリスクもなく、その分安定した経営ができると言えるでしょう。
前述した調査によると、施設が開設してから、利用率95.0%以上になるまでに要した期間は、「1ヵ月超~3ヵ月以内」が24.9%と最多でとなっています。満床率も高く、6割以上の施設が半年以内にほぼ満床となっていることもわかっています。
地域密着型特養は、サービスの対象者が市町村内の住民に限られることから、施設の立地が肝心です。
施設の立地が新規入所者の確保のしやすさに与える影響を尋ねたところ、「確保しやすい立地だと思う」「どちらかといえば確保しやすい立地だと思う」と回答した施設の割合は53.2%に達しています。
以上のことから、対象者を絞ったことと、地域内での立地条件を満たすことで地域密着型特養の経営が安定する可能性が示唆されています。
地域密着型サービスの機能と課題
地域密着型サービスの基本的な考え方
介護保険制度で提供されるサービスの指定・監督する主体は、都道府県(政令市や中核市を含む)と市町村に大きく大別されます。
この区分は2006年度の制度改定によって実現されました。制度設置の背景には、同じ県内でも市町村によって高齢化の進行状況が異なり、それぞれの地域の実情に合わせたサービスの提供が求められていることが挙げられます。
「要介護者の住み慣れた地域での生活を支える」という理念は、そのまま地域包括ケアシステム構築にも活かされています。地域密着型サービスは、地域包括ケアシステムの根幹を成す制度だと言えるでしょう。
これによって、各市町村には地域の独自性を活かしたサービスの提供を実施できる権限が与えられました。
2006年は地域密着型特養や小規模多機能型居宅介護(小多機)を含む6種でしたが、2012年には24時間地域巡回型訪問サービス、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)、2016年には地域密着型通所介護が追加されました。
このように、地域密着型サービスを提供する事業所の種類は年を経るごとに拡大されています。
地域密着型サービスが抱える市町村の課題
しかし、現実的には各自治体の地域密着型サービスには多くの課題があることが明らかにされています。
内閣府の地方分権改革推進本部の調査によると、市区町村の89.5%が地域密着型介護サービスに関して何らかの課題があると考えていると回答しています。

中でも、課題を感じているとされるサービス種別は夜間対応型訪問介護(79%)、看護小規模多機能型居宅介護(76%)、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(72%)など、地域密着型サービスの中でも新しく拡大されたサービスが多くを占めています。
一方で地域密着型特養は、地域密着型サービス制度が初期から整備されており、課題を感じている自治体は少数になっています。
時間をかけて地域に根付いてきたため、安定した経営やサービスの提供が実施できていると考えられます。
各市町村の独自性がサービス発展の鍵を握る
自治体が独自性のある施策を立てられない
地域密着型特養だけでなく、そのほかの地域密着型サービスをより発展させていくためには、各自治体の独自性の高い施策が鍵を握っています。
しかし、ほとんどの自治体で独自性のある施策は行われていません。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの報告によれば、介護保険サービスにおいて独自施策を実施している自治体はわずか4.8%にとどまっています。

介護保険サービスは、国が土台となる制度をつくり、それを各自治体が運営・実施していきます。地域の実情に合わせるために、市区町村にも権限が与えられましたが、実際にはほとんどの自治体が国が定めた制度に沿って運営しているに過ぎません。
これまで地域密着型サービスは見直されるたびに、各自治体でも見直しのチャンスがありましたが、その実態は消極的と言わざるを得ません。
その要因として、人員不足が挙げられていますが、制度に対する理解度の低さも問題となっています。先述の調査によると、市町村の独自施策制度に対して「聞いたことがない」「聞いたことはあるが詳しいことは知らない」と回答した割合は76.5%に上ります。
今後、地域密着型サービスを広く普及していくためには、自治体の積極性を高めていく必要性があります。
地域包括支援センターとの連携で施策から考える
少ないながらも独自の施策で成功を収めた自治体もあります。北海道美瑛町では、事前に介護事業者などからヒアリング調査を行い、どの地域に、どんな介護サービスが求められているかを明確にしていきました。
その調査に基づいて、市街地や過疎地などのゾーニングを実施して、該当地域に必要な施設を設置していきました。
これにより、各地域でのコミュニティ形成にもつながり、同じ町内でも特色の異なる地域支援体制が築かれています。
しかし、人員が不足し、さらに制度への理解度が低い自治体だけでこうした動きを加速していくのは現実的ではありません。そこで、活用したいのが各自治体に設置されている地域包括支援センターです。
地域包括支援センターにはケアマネージャーなどの有資格者が配置されており、制度への理解度も高く、さらに地域のさまざまな課題に接しています。
各自治体に独自策を実施できない事情があるとはいえ、あらゆる人材を活用すれば、まだまだできることは多いはずです。自治体は美瑛町の例を参考に、介護事業者の声を聞き、国だけに依存しない体制づくりを推進していくことが重要です。
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2020年9月7日 制定