無給のデジタル推進委員制度ができた背景
デジタル社会実現のため存在意義は大きいが、無給…
政府は「誰ひとり取り残されないデジタル化」の実現を目指しており、さまざまな分野でのデジタル化に取り組んでいます。
その中で、特に普及が必要な世代が高齢者です。総務省の「令和3年情報通信白書」によると、高齢者はスマートフォンやタブレットの利用率が低いことが指摘されています。
「よく利用している」と回答した割合は、18~29歳が96.9%なのに対し、60~69歳は55.5%、70歳以上は24.3%と世代間格差は明らかです。

そこで、デジタル庁では、デジタルに不慣れな人に向けて講座を開くなどして支援する「デジタル推進委員」制度を設けることを決めました。
任期は原則1年で、専門家の研修を経てデジタル庁が認定します。
推進委員になるためには、総務省が2021年度に始めた「デジタル活用支援推進事業」の講師向け講習を受けることや、厚生労働省の「障害者ICTサポート総合推進事業」で活動実績があることなど、これまでにデジタル弱者のための支援事業に携わってきたことが条件になります。
目標となる人数は全国で1万人で、国民運動として広めていく方針です。
ただ、デジタル推進委員は原則無給で、ボランティアに近い活動になり、どれだけの人が集まるのか疑問視する声も上がっています。
デジタル推進委員のモデルは民生・児童委員
デジタル庁の会議資料によると、デジタル推進委員は、当初携帯ショップなどを拠点にすることが検討されていました。
しかし、携帯ショップでは地理的な偏りがあり、さらに高齢者への継続的なフォローアップが難しいという指摘もあり、よりきめ細やかな対応ができる人員が必要になりました。
さらに、高齢者に対するデジタル支援は、現状で知識不足の講師が行っているなどの問題もありました。「マイナンバーカードは引き出しにしまって鍵をかけておいたほうが良い」などの誤った知識を広めていた例もあったようです。
こうした理由から、一定以上の知識を持っており、地域で高齢者からの信頼が厚い人材の活用が求められていたのです。
そこで、デジタル庁は「老人クラブなどの地域活動と連携し、地域で信頼される身近な者による支援を行う仕組みの検討が必要」と結論づけ、「デジタル版民生委員」の制度を設けることを提案していたのです。
これがデジタル推進委員の原型だと考えて間違いないでしょう。なぜなら、その性質が非常によく似ているからです。
民生委員は大正時代から続く制度で、地域の福祉活動に従事する委員のことを指します。
- 人格や見識に優れている
- 地域の実情に通じている
- 社会福祉に熱心であること
上記は民生委員になる条件であり、デジタル推進委員になる条件と似ています。
また、厚生労働省から認可された人が、無報酬で高齢者の見守り活動などを行う点も酷似しています。
しかし、近年は、委員の高齢化が進んでいたり、地域の福祉の問題に関心を寄せなかったりする人たちが増えているため、なり手のない担当区域もあるなど問題が生じています。
デジタル推進委員は本当に浸透するか
民生委員の活動状況にみるデジタル推進委員の可能性
デジタル推進委員の普及を探るためには、モデルとなった民生委員の現況をみると推測できます。
厚生労働省が公表している「令和2年度福祉行政報告例」によると、2020年度中に民生委員が処理した相談・支援件数は470万1,439件で、前年度に比べ66万899件(12.3%)減となっています。
その他の活動件数も1707万5,122件で、前年度比で785万5,313件(31.5%)減。訪問回数は3,134万5,223回で、前年度に比べ451万8,370回(12.6%)減少していました。
これにはコロナ禍の影響が反映されていると考えられますが、原因のひとつに民生委員の高齢化が挙げられます。
東京都の調査によると、民生委員の年齢は60歳代が62.8%を占めており、次いで50歳代が18.5%、70歳代が15.5%と続き、49歳以下は約3%とごく少数に限られています。

活動比率の低下を引き起こしているのは、日本全体の少子高齢化に加え、無給ボランティアという形態が大きいと思われます。
主にこうしたボランティア活動に積極的な世代は60歳以上のシニア世代ですが、そもそもこの世代はデジタルに造詣の深い人材が少ないため、デジタル推進委員にふさわしい人を1万人以上も集めるのは簡単ではないでしょう。
まだまだデジタルを食わず嫌いする高齢者は多い
高齢者がデジタル機器をあまり利用しないのには、そもそも必要性をあまり感じていないという点も見落としてはなりません。
上述の情報通信白書では、スマートフォンやタブレットを「ほとんど利用していない」または「利用してない」と回答した人に対し、利用していない理由について尋ねています。
その結果、70歳以上では「自分の生活には必要ないと思っているから」(52.3%)が最多で、次いで「どのように使えばよいかわからないから」(42.4%)、「必要があれば家族に任せればよいと思っているから」(39.7%)、「情報漏洩や詐欺被害等のトラブルに遭うのではないかと不安だから」(23.2%)と続きます。

また、全年齢を対象にデジタル化が進まない理由を尋ねたところ、最多は「情報セキュリティやプライバシー漏えいへの不安」(52.2%)でした。
この回答を年齢別にみると、20~29歳は44.2%に留まる一方、50~59歳は59.7%、60歳以上は60.5%と年齢が上がるにつれて不安感が高まる傾向が示されています。
つまり、高齢者はデジタルに対し、必要性を感じず、不安感が強いので、活用が進んでいないと考えられます。こうしたハードルを取り除くことがデジタル推進委員に課せられた大きな役割といえるでしょう。
高齢者にデジタルを推進するためのポイント
利用したくなるサービスやコンテンツをそろえる
高齢者がデジタル活用を進めるためには、利用したいと思えるコンテンツやサービスを用意することが重要になります。
近年、マイナンバーカードをデジタル活用の推進に利用しようと、機能拡大が図られています。健康保険証の代わりになるほか、近い将来は運転免許証でも利用される見込みです。
さらに、新規でマイナンバーカードを作成した際には2万円分のポイントが付与されるなど、普及のための取り組みが実施されています。
また、地方都市では、より身近な課題を解決するコンテンツも生まれています。
例えば、まちづくりの柱にデジタル化を据える会津若松市では、学校と家庭をつなぐ「会津っ子プラス」が稼働しています。デジタル庁に寄せられた市民の意見によると、孫の状況を知りたい高齢者がIDを取得しているといいます。
このように、高齢者向けデジタルコンテンツの充実が推進のポイントになります。
あらゆる分野でデジタル活用のメリットを高める
現在、自治体などの行政機関や医療・介護でもデジタル化が進められています。例えば、デジタルを活用して対面窓口をリモート化して簡素化するなどの取り組みをしている自治体もあります。
行政との手続きは生活を営むうえで必要になるので、高齢者がデジタル活用を考えるきっかけになることでしょう。
高齢者と直に接する機会が多い分野で、政府が枠組みを設けたり、助成金を出したりするなどの取り組みを積極的に行えば、高齢者への普及が進むことになります。
こうして、高齢者がデジタル活用に興味を抱けば、正しい知識や使い方を教えるデジタル推進委員が重要な役割を果たします。
無給のボランティアという点で、デジタル推進委員の確保には時間がかかるかもしれませんが、その利便性をアピールできる場を増やしていけば、やりがいが生まれ、デジタル推進委員になりたいと考える人も増えるのではないでしょうか。
そのためにも、高齢者に必要とされるデジタルシステムやサービスを構築することが先決となります。
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2020年9月7日 制定