
少子高齢化が進む現代日本においては、今、医療・介護分野の制度改正が着々と進んでいます。
例えば介護保険制度では、一定の所得がある人の負担を現行の1割から2割に引き上げたり、医療保険制度では、後期高齢者医療制度における負担軽減措置を廃止したり。
いずれも“痛みを伴う”施策ではありますが、「年金収入しかない高齢者から、まだ搾り取るのか?」「かわいそうじゃないのか?」etc、批判の声が高まりつつあります。
確かに、“かわいそう”と考えられなくもありませんが、一方で、そういった感情論的な考えだけで若い世代に負担を強いることには疑問が残ります。そこで今回は、貯蓄額など具体的なデータをもとに、高齢者の生活を守るための負担増問題について考察してみました。
高齢者をひとくくりにして支援策を模索するのではなく、収入や貯蓄額を踏まえた議論が必要では?

先日、NHKが『老人漂流社会“老後破産”の現実』というテレビ番組を放送しました。
その概要は、金銭面における高齢者支援の必要性について、です。
番組内でフィーチャーされていたのは、今、600万人を超えようかと言われる独居老人。
その約半数が生活保護水準以下の年金収入しかないこと、70万人ほどが生活保護を受けているという現実でした。
確かにそうした高齢者たちは、介護や医療ケアが必要になった際に十分なサービスを受けることが難しいものです。
その上で、10月19日のニュースでもお伝えした通り、公的年金の給付水準が抑制されたとしたら、さらなる追い打ちとして重くのしかかることになるでしょう。
日本は昭和中期~後期にかけて急激なスピードで経済成長を遂げてきました。その高度経済成長期において中心を担ってきた高齢者の皆さんに対して、非道い仕打ちだと考える向きがあることも否めません。
しかしよくよく考えてみると、今の日本が抱える莫大な借金は、そうして過度な成長を続けてきたことによる金属疲労のようなものだとは考えられないでしょうか?そのメンテナンスを行うのは、果たして若い世代の役目なのか、それとも高齢者自身の役目なのか。
経済成長を遂げてきた数十年のことを思うと、その議論が長引くのも不思議ではありません。

上記の表は、収入ではなく貯蓄額に関してのデータです。
これを見ると、貯蓄が300万円以下しかない65歳以上の世帯が13.1%もいることがわかります。
こうした世帯は確かに、NHKが言うところの“老後破産”に近いと言えるかもしれません。
しかし一方で、2000万円以上の貯蓄がある高齢者世帯は39.9%にも上っていることもわかります。
約4割にあたる、こうした貯蓄がある世帯に目を向けずに「高齢者支援を」と叫ぶのは、いささか極論なのかもしれません。
もちろん、貯蓄がない世帯に目を向けずに「高齢者にさらなる負担を」とするのも極論とも言えます。
つまり、今求められている議論というのは、“高齢者”と十把ひとからげにしたものではなく、収入や貯蓄額に応じた支援や負担についての議論なのではないでしょうか。
60歳以上の世帯が抱える資産は合計1000兆円超。“塩漬け”の資産が日本経済を停滞させる!?

高齢者への支援の必要性について、もう少し掘り下げて考えてみましょう。
上記は、高齢者の貯蓄の目的を表にしたものですが、6割以上もの高齢者が「病気・介護の蓄え」として貯蓄していることがわかります。
つまりこれは、その時にならないと市場に出てこないお金とも言えます。
もちろん、有事の際の蓄えは絶対に必要なものではありますが、そのバランスに極端な感じがするのは気のせいでしょうか?

現在、60歳以上の人が蓄えている資産は1000兆円以上とも言われています。
その多くが、高齢者に介護や医療が必要になった時にしか出回らないのですから、経済が停滞するのも無理もありません。
逆に言えば、そのお金を趣味や生活に使ったり、子世代・孫世代のために使ったりすれば、若い世代の負担が減ることになるはずです。
過去のサラリーマン川柳に興味深いものがあったのでご紹介しましょう。
「老後にと 貯金使わぬ 父70」
高齢化は大きな社会問題ですし、介護や医療に対する不安から貯蓄に回されるお金が増えるのは致し方のないことでしょう。
しかし、ことさらに不安だけを煽って、川柳のネタにもされるような“塩漬け”のお金が増えるのでは、経済的観点から良くないともいえるでしょう。
医療保険制度は崩壊寸前!?高齢者世代にも“痛みを伴う”施策が必要なはずなのに、その議論が進まないのはなぜ?

少し幅を拡げて、医療制度の改革について考えてみましょう。
10月18日のニュースで、「後期高齢者医療制度において、これまで所得が低い人や夫や子供の扶養に入っている人に対して実施されていた保険料の負担軽減処置が2016年から段階的に廃止される方針が厚生労働省の社会保障審議会で15日に了承されました」とお伝えしました。
高齢者の負担増として、反対の声が挙がっているのは事実です。
しかし冷静に考えてみると、そもそも日本の医療保険制度というものは、高齢化率は低く、経済成長は右肩上がり…ということを想定して定められたものです。
そう考えると、現状にマッチしないシステムといっても過言ではありません。
経済が成長し、人口が膨れ上がる過程では上手く機能してきましたが、下降線をたどることが判明した段階で手を打たなかった(打てなかった?)行政には、大きな責任があると言えるでしょう。
とはいえ、今後は65歳以上の高齢者が大きな票田となるのは目に見えています。選挙時に政治家が高齢者からの票を得るためには、高齢者世代に痛みを強いるような施策をあえて取ってこなかったという側面もあるかもしれません。
と、勘ぐっても仕方がないので現状に目を向けると、そのシステムを現代風に改変させるための措置として、前出の後期高齢者医療制度の改正は致し方のないこと。このコラムで“痛みを伴う施策”と記しましたが、それは現役世代だけでなく、高齢者世代も同様に考えていかなければならないテーマだと思われますが、さて皆さんはどうお考えですか?
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2020年9月7日 制定