物価上昇が介護事業者に与える影響
前年比で5%以上のコスト増を見込む施設は約5割
ロシアによるウクライナ侵攻や急速な円安、世界的な原材料価格の上昇によって、国内ではガソリンや水道光熱費、食料品などの物価高騰が止まりません。
2022年5月の消費者物価指数は、前年同月比で2.5%の上昇。季節による変動が大きな生鮮食品を除いた消費者物価指数でも2.1%上昇し、消費税の影響以外で物価の上昇率が2%を超えたのは、実に13年ぶりとなりました。
影響の波は介護事業所にも及んでいます。福祉医療機構の調査によると、「原油価格や物価高騰による影響を受けている」と回答した施設は88.5%に上ります。
そのうち、2022年度上半期のコストが前年度比で5%以上の増加見込みと回答した施設は48.9%になりました。

特に影響が大きいと回答のあった項目は、水道光熱費95.6%、車両費(ガソリン代など)と給食費が52.5%となっています。いずれも介護事業所に必要な品目です。
報酬が定められている介護事業者にコスト増は死活問題
原材料費などの高騰を受けて、食品メーカーなどは値上げを敢行していますが、介護事業者はサービスの提供料金が制度によって定められており、コストの増加は大きな問題になります。
全国有料老人ホーム協会が行った緊急アンケート調査によれば、45%が「利用料を引き上げる意向がある」と回答。
「厨房を委託している業者から食材費の高騰で値上げ要請されている」「エアコンなどの使用で値上げせざるをえない」といった声が上がっているそうです。
とはいえ、介護サービスの料金を引き上げることはできないので、そのほかのサービス費を値上げするしかありません。コストが増大すればするほど、さまざまな影響を及ぼす可能性があります。
介護現場から上がる悲鳴の声
介護事業者の実態
介護業界大手のSOMPOケアは、2022年4~5月時点で水道光熱費が前年同月比40%、利用者一人当たりの食材費は10%ほど増加したと報告。そのコストは利益から差し引かれているとしています。
こうした介護事業者の現状を受け、全国介護事業連盟は政府に対して要望書を提出しています。
それによると、コロナ禍の影響で、介護事業者にはかかり増し経費の補助金が出されていますが、現状では陽性者が発生した事業所のみが対象になっていると指摘。物価高騰への対策として、暗にかかり増し経費の適用拡大を訴えています。
政府はすでに用意した支援策を最優先として、追加の支援策については必要に応じて対策すると発言するにとどまっています。コロナ禍に続いての物価高騰で、介護事業者へのダメージは計り知れません。
高齢者の生活苦が介護控えを起こす可能性
介護事業者にとっては高齢者の「介護サービス控え」も大きな懸念の一つです。
内閣府の『令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によると、高齢者の支出項目として、「食費」が59.4%で最も多く、「光熱水道費」と「保健・医療関係の費用」がともに33.1%、「交通費、自動車維持費等の費用」25.7%と続きます。

食費や水道光熱費は、今回の物価上昇によって最も高騰している項目でもあり、高齢者の生活を直撃しています。
また、高齢者は収入の多くを年金に頼っています。上述の調査では、高齢者の収入の種類は公的年金が87.3%にまで及んでおり、仕事についていない高齢者も62.7%に達しています。それに加え、2022年4月から年金は0.4%引き下げられました。

つまり、主な収入源である年金額が下がる一方で、食費や光熱費などの生活費が上がり続けることになります。こうした影響から介護サービスの利用控えなどが起こることは容易に想像できます。
多くの介護事業者はコスト増と利用者減少という二重苦に陥る可能性があり、さらなる経営難に陥るリスクが高まっているのです。
早急な対策が求められている
政府や自治体による対策
政府は、物価高騰への対策として物価・賃金・生活総合対策本部を立ち上げました。そこで打ち出されたのは、2,000円相当の電力節約ポイントを支給するといったものです。
しかし、これだけでは利用者の健康維持のため、エアコンなどを使用する介護事業者にはあまり効果がありません。そこで、低所得者への給付金や地域事業者への支援金などには地方創生臨時交付金の活用を自治体に求めています。
この交付金は、コロナ対策のために都道府県や市町村に対して交付されたもので、自治体が柔軟に活用できるものです。今回の物価高騰を受けて、適用できる範囲を拡大し、交付金の増額も視野に入れています。
自民党のホームページによれば、「子育て世帯生活支援特別給付金による児童一人当たり一律5万円に対して上乗せし10万円等を給付したり、住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金による対象者の要件を緩和したりする」ことができるとされています。
これを受けて、各自治体では介護事業所などに対する支援策を拡充しています。例えば、神戸市では市内にある約1,200ヵ所に及ぶ介護事業所に対し、利用者一人当たり1日30~90円の支援金を支給することを決めました。
つまり、政府は自治体による支援の拡充を促しているのです。
コストを見直すチャンスでもある
一方、物価高騰はコストカットをする機会になると指摘する専門家もいます。
基本的に、事業経営で利益を増やすためには、「収入を上げる」「経費を削減する」という2つの手段しかありません。
しかし、介護サービスの利用料が公的に決められている介護事業所においては、コストカットが利益向上のカギを握ります。しかし、実際にはコストカットに消極的な事業者も少なくありません。
高齢者住宅新聞の記事によれば、食材の仕入を卸業者から農家からの直接買い付けに変更し、商品としては流通しない規格外品なども仕入れることでコストダウンに成功した施設などが紹介されています。
また、ICT化を進めたり、オペレーションを改善するなど、施設内でコストを削減できる項目を検討する機会になるかもしれません。
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2020年9月7日 制定