今月5日、厚生労働省は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等(通称、高齢者虐待防止法)に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」結果を公表しました。
資料によると、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護療養型医療施設などの職員による高齢者虐待が、2014年度には300件認められたそうです。2013年度と比較して35.7%もの増加で、ここ2年間で倍増し、8年連続で過去最多を更新しました。

虐待が起こった理由は「教育、知識、介護技術等に関する問題」が6割超。以下「職員のストレスや感情コントロールの問題」「虐待を行った職員の性格や資質の問題」「倫理観や理念の欠如」などが続いています。

昨年、神奈川県川崎市の介護付き老人ホームで、入所者の男女3人が相次いで転落死する事件が発生。
23歳の男性職員が殺害容疑で逮捕されたことは記憶に新しいでしょう。
今後も虐待件数は増加し続けるのでしょうか。
高齢者虐待対策は待ったなしです。
今回は、高齢者虐待の現状とその解決策について考えていきましょう。
虐待された高齢者のうち7割は認知症。認知症への無理解と無資格者の増加が虐待の引き金に

虐待された高齢者のうち7割以上は認知症でした。このデータから、認知症がある高齢者ほど虐待を受けやすい事実が浮かび上がります。
介護施設が慢性的な人手不足に直面するなか、認知症がどのような病気か理解せずに介護している職員も多くいます。
入所して間もない職員のなかには、高齢者が介護に抵抗したりすると、力ずくで抑え込もうと虐待に走ってしまう恐れがあるといいます。
職員の資質自体に問題があるという声も聞こえてきそうですが、原因の一端は「認知症介護の基本を理解していない」ことにあると推測されます。
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認知症高齢者がどのような行動を取るか知ってさえいれば、虐待をせずに落ち着いて対処できるはずです。
とはいえ、次々と高齢者が施設に流れ込んでくる現状。
「認知症介護の基本」の習得を介護施設だけに任せておくのは心もとないでしょう。
そこで、各都道府県では、質の高い認知症支援の普及を目的に、認知症介護を担当する職員に向け、認知症介護研修を実施しています。
現在、都道府県が実施する認知症介護研修は「認知症介護実践者研修」を含め全部で5種類。「認知症介護実践者研修」はこのなかで最も基礎的な研修です。
しかし、受講要件を見ると、「認知症介護に関して介護福祉士と同等の知識を習得していること」「原則として、認知症高齢者の介護に関する経験が2年程度以上あること」「各施設・事業所において介護・看護のチームリーダーの立場にあるか、近い将来そうなることが具体的に予定されていること」と書かれており、現場経験の浅い介護職員が参加できるものではないとわかります。
これでは、職員教育が各介護施設任せになってしまいます。
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今後、より一層認知症高齢者が増加するなか、国・都道府県・市町村・介護事業者が一体となって、研修制度をつくり人材の底上げを図るべきです。
また、先に見た通り、虐待が起こった理由は、「職員の教育・知識・介護技術等の問題」が6割超を占めます。
自宅で介護するホームヘルパーには「介護職員初任者研修」が義務付けられている一方、介護施設に勤務する職員にはそのような規定はありません。
つまり、介護職員間で知識・技術等にばらつきがあるということです。
現状、人材難に苦しむ施設では、無資格で研修さえ受けていない職員が多いと推察されます。
全国の介護施設では虐待が深刻化…判明している虐待の件数は氷山の一角!?

NPO法人全国抑制廃止研究会が全国の特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護療養型医療施設・グループホームを対象に調査したところ(2015年4月発表。
3万5,000か所余の施設を対象に調査。
有効回答数は9,225か所)、過去3年間で虐待が「明確にあった」と回答したのは461か所。
「明確にあった」と回答した施設での平均虐待件数は1.8件でした。
「3件以上」とした施設は63か所あり、深刻な状況が窺われます。
計算を簡単にするため、大雑把に「平均2件」としても、約920件の虐待件数。
この数字は、厚生労働省が把握している虐待件数(2014年度は300件)をはるかに上回ります。
つまり、現在明るみに出ている虐待は氷山の一角ということ。
介護現場では虐待が日常的に行われている可能性が高いと推測されます。
認知症の高齢者は、虐待を受けても、その事実を訴えることができません。
そのため、虐待が表面化しにくい構造になっています。
また、個室ケアが広がるなか、虐待を受けていても、同僚・上司が気づきにくいという構図もあります。
虐待を減らすには、虐待が実際どれだけ行われているか正確に把握することが大切です。
というのも、現状を掴めないと、効果的な対策を打ち出すことができないからです。
高齢者虐待防止法では、職員が虐待を発見した場合に、市町村に通報するよう義務付けています。
内部通報した職員は、解雇など不利益な取り扱いを受けないよう保護される規定はありますが、チームワークで働く職場であるだけに、通報をためらうのも理解できます。
今後、高齢者虐待防止法の改正も待たれます。
現行の人員配置基準を改正し「要介護者2人に対し1人」にすると虐待は減る?
人手不足だから「(虐待につながりかねない)身体拘束はやむを得ない」という声をときどき耳にします。
この論調からいけば、「人員を増やせば身体拘束は減る」という結論が導き出されます。
現在、国が定める介護施設の人員配置基準は、要介護者3人に対して職員1人。
この数字が適正か否か議論の分かれるところです。
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NPO法人全国抑制廃止研究会の調査によると、多くの施設が現状「要介護者2人に対して職員1人」という体制を取っており、国の人員配置基準を超える自助努力をしているといいます。
こうした努力を重ねている施設では、身体拘束なしでケアをする体制が整っており、虐待は見られないという結論が出ています。
下記「介護職員の有効求人倍率の推移」を見てわかる通り、介護職員の人手不足は歴然。人員配置基準を改正すると、混乱が生じることは想像に難くありません。しかし、虐待を防ぐには、ケア体制の再構築も必要と言えるでしょう。

東京都は、介護職員なら誰でも参加できる「認知症介護基礎研修」を新設
認知症ケアの実態を重く見た東京都は、今年度、「認知症介護基礎研修」を新設。
自治体が現場職員の教育にまで乗り出した格好です。
研修の目的を「認知症ケアの最低限の知識・技術とそれを実践する際の考え方を身に付けさせる」とし、中堅クラス職員が対象だったこれまでの研修とは明確に異なる趣旨を打ち出しています。
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この研修は、都内の介護保険施設・事業所(居宅介護支援事業所は除く)に従事している介護職員なら誰でも受講可能。
研修は、年に4回実施される予定で「認知症の人の理解と対応の基本」「認知症ケアの実践上の留意点」などで構成されています。
このような取り組みが全国に広がれば認知症ケアへの理解は深まるものの、今のところ群馬県など一部自治体に留まっています。
第1回東京都認知症介護基礎研修
| 日時 | 内容 | 講師 | ||
|---|---|---|---|---|
| 2 0 1 6 年 4 月 20 日 |
9:20 ~9:30 |
オリエンテーション | 研修事務局 | |
| 9:30 ~10:00 |
研修の目的と認知症の現状 | 調整中 | ||
| 10:00 ~12:40 |
認知症の人の 理解と対応の 基本 |
認知症の人を 理解するために 必要な 基本的知識 |
今井康明 氏 (株)すずらん 代表取締役 |
|
| 具体的なケアを 提供する時の 判断基準となる 考え方 |
||||
| 認知症ケアの 基礎的技術に 関する知識 |
||||
| 13:40 ~16:40 |
認知症ケアの 実践上の 留意点 |
認知症の人との 基本的な コミュニケーション 不適切なケアの 理解と 回避方法 |
今井康明 氏 (株)すずらん 代表取締役 |
|
| 病態・症状等を 理解した ケアの選択 心理やBPSDの 発生機序を 理解したケアの 選択と工夫 |
||||
| 自事業所の 状況や自身の これまでの ケアの振り返り |
||||
| 16:40 ~17:00 |
修了式 | 研修事務局 | ||
第2回(4月21日)、3回(4月22日)、4回(4月22日)には、それぞれ島田孝一氏(株式会社 Professional Works 代表取締役)、長澤かほる氏(ケアサークル恵愛 居宅介護支援事業所 介護支援専門員)、大嶺ひろ子氏(大泉学園高齢者グループホームまささんの家 ホーム長)が講師を務める予定。
今後、認知症高齢者が急増するなか、虐待防止は喫緊の課題です。このまま放置すれば介護への信頼は崩れます。疲弊する介護現場をどのように支え、介護職員の成長をどのように促すか。当事者任せにせず、国民的関心に高めていくことが大切です。
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2020年9月7日 制定