北海道上士幌町でeスポーツによる介護予防プログラムがスタート
「太鼓の達人」で介護予防に取り組む新プログラムが開始
北海道上士幌町が、2022年8月からeスポーツを活用して、高齢者の介護予防・健康維持を目指す取り組みを開始し、注目を集めています。
上士幌町は酪農を主な産業とする人口4,931人(2022年7月末時点)の町です。
少子高齢化が進み高齢化率は30%を超えていますが、タブレット端末を使った福祉バスの予約システムをいち早く導入するなど、高齢者福祉の分野では先駆的な事業を積極的に行う町として知られています。
今回新たに始まった「かみしほろ『高齢者eスポーツ』プログラム」は、60歳以上で事前に申し込みのあった町民が参加対象。
利用するのは「太鼓の達人」などのリズムゲームで、1コマ=1時間を1日あたり2コマ実施し、定員は6名という体制でスタートしました。同町によると、2023年3月までには、36名の参加を目指すといいます。
高齢者とeスポーツと聞くと、意外性のある組み合わせに感じる方も多いかもしれません。今後どのように取り組みを進め、どの程度の成果・介護予防効果が出るのか、多くの専門家・有識者が期待の目を向けています。
eスポーツとは?
一般社団法人日本eスポーツ連合のホームページによると、eスポーツとはエレクトロニック・スポーツを略した言葉で、「電子機器を用いて行う娯楽・競技・スポーツ」という意味です。
具体的には、コンピューターゲーム・ビデオゲーム(以下、ゲーム)を、スポーツ競技として捉えるときにeスポーツという言葉が使われます。
ゲームの点数などを競い合うことは、ゲーム機器が開発され市場に投入された1980年代から子ども~青年の間で盛んに行われており、数多くの大会が当時から行われていました。
特にブームとなったのは、1990年代に登場した対戦型の格闘ゲーム。勝敗が明確につくので競技となりやすく、このころから欧米では、スポンサーが付いたいわゆる「プロゲーマー」が活躍するようになります。
2000年代には「eスポーツ」という言葉が誕生。2006年には「OCA主催第2回アジア室内競技大会」においてeスポーツが正式種目に認定され、スポーツ競技としての認識が若者を中心に社会に拡大していきました。
その後、日本でもプロゲーマーが次々と誕生し、2018年には日本のeスポーツ界をけん引する「一般社団法人日本eスポーツ連合」が設立されました。
日本におけるeスポーツ人口は年々増えています。一般社団法人日本eスポーツ連合によると、eスポーツのファン数は2018年当時で約382.6万人、2020年には685.9万人となり、わずか2年で300万人近くも増加しました。
同協会は、2024年頃には1,500万人ほどになると予測しています。

ニーズが高まる介護予防は、eスポーツでも効果が期待できる
介護予防に対する意識は高まりつつある
日本の社会保障費が増える中、近年とくに注目されているのが、高齢者における介護予防の重要性です。効果的な介護予防に取り組むことで要介護状態となることを防ぎ、それにより医療・介護の給付費を減らしていこうというわけです。
7段階ある要介護認定のうち、要支援1と要支援2は、介護予防給付の対象となっています(介護予防訪問介護・通所介護は自治体の「介護予防・生活支援サービス事業」に含まれる)。
厚生労働省によると、要支援1、2の認定者数は年々増えており、2000年度当時は約32万人でしたが、2019年度には約187万人まで増えています。約20年間で6倍近くも増えているのです。

現在では市町村自治体も「一般介護予防事業」として各種介護予防のプログラムを実施。各自治体が独自の介護予防の取り組みを進め、要介護となる高齢者を減らそうとしています。
eスポーツは介護予防にどんな効果がある?
eスポーツは特に、認知機能を鍛える効果があると言われています。
ゲームに取り組む際はモニターを見ながらコントローラーを手で操作する必要がありますが、手先を細かく動かすことは脳に刺激を与え、認知症予防につながることは広く知られています。
レクリエーションで手芸や小物づくり、折り紙などに取り組むのと同様の効果が、eスポーツにも期待できるわけです。
しかもeスポーツでは、画面に表示される動きに合わせて自分の手を動かすことになるため、認知機能を鍛えるという点ではより効果的と言えるでしょう。
また、ゲームを趣味として持つことによる認知症予防効果も高いです。国立長寿医療研究センターが行った研究では、自分の好きな趣味を持つことが、認知機能を維持する上で有効であるとの結果が出ています。
さらに、同じ趣味を持つ人同士で交流することは、社会とのつながりを保つことにもつながります。そのような交流がある人は、ない人に比べて認知症発症リスクが46%も低いとの研究結果が、国立長寿医療センターから報告されています。
冒頭で紹介した上士幌町の取り組みは、「週に数回、eスポーツに取り組むために、地域の高齢者が集まる」というプログラムです。上記の点を踏まえると、一定の認知症予防効果が期待できる事業内容と言えるでしょう。
eスポーツを介護予防に活かす先駆的ケースと今後の課題
先駆的に取り組んでいる富山県のケース
eスポーツを高齢者の介護予防の一環として捉え、その普及を進めている自治体は上士幌町以外にもあります。そうした先駆的な自治体の一つが富山県です。
富山県では2019年頃から、有識者が集まる会議で高齢者の趣味としてのeスポーツの有効性に注目が集まり、2020年度には「高齢者向けeスポーツによる介護予防モデル事業」が開始。
2021年度からは、eスポーツの体験事業、高齢者向けのゲーム開発支援事業などのために、県の予算が配分されています。
富山県がeスポーツを介護予防事業に導入した理由の一つが、男性の参加率の低さの改善です。
自治体が介護予防教室などを開催しても、参加するのは女性ばかりで、男性の参加が少ない傾向が強く見られました。そこで、それまでの「高齢者向け体操」のようなマンネリを招きやすいプログラムとは別に、eスポーツの導入を決定。
結果は上々で、eスポーツの体験会には、それまでそのような場には出てこられなかった男性も参加していたといいます。
高齢世代にeスポーツのポジティブなイメージを広めることが課題
eスポーツを高齢者の介護予防策として活用する上で、課題となるのがeスポーツに対する認知度・理解度です。
株式会社NTTデータ経営研究所が行った調査によれば、eスポーツのを理解している人の割合は、男性60代で30.0%、女性60代で18.8%でした。
20代男性が45.4%、20代女性が31.2%であることと比べると、男女とも60代の理解度はかなり低めです。

介護予防にeスポーツを導入していくには、高齢世代にeスポーツのことを認知・理解してもらう活動を進めることも大事といえます。
実際のところ、現在の60代はゲーム経験がある人も多いと予想され、1970年代のインベーダーゲーム、1980年代のファミコンがブームだったときは青年時代です。ゲームで遊んだ人は一定割合いると推測されます。
しかしそのような人でも、「ゲーム=あくまで子ども・若者がするもの」という観念があり、eスポーツという世代を問わず取り組める競技としての理解度は低いのではないでしょうか。正しく認識してもらうための取り組みが別途必要と考えられます。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 0件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定