訪問介護の基本報酬が軒並み下落
身体介護と生活援助が2~6単位減額
厚生労働省は、2024年1月22日の社会保障審議会で各介護サービスの基本報酬を明らかにしました。
それによると居宅介護支援事業所などの基本報酬が引き上げになった一方で、訪問介護は引き下げになりました。
各項目の引き下げ単位は以下の通りです。
身体介護
- 20分未満:167単位→163単位
- 20分以上30分未満:250単位→244単位
- 30分以上1時間未満:396単位→387単位
- 1時間以上1時間30分未満:579単位→567単位
- 以降30分を増すごとに算定:84単位→82単位
生活援助
- 20分以上45分未満:183単位→179単位
- 45分以上:225単位→220単位
- 身体介護に引き続き生活援助を行った場合:67単位→65単位
通院等乗降介助
- 99単位→97単位
このように、各項目で2~6単位ほど引き下げられました。全体で2%を超える引き下げとなり、その影響が懸念されています。
訪問介護が引き下げになった理由
政府は、2024年度介護報酬改定に向けて介護報酬を全体として1.59%引き上げ、うち0.98%を介護職員の賃上げに充てる方針を決定しています。
そのなかで訪問介護の基本報酬が引き下げになった理由に挙げているのは、訪問介護事業所の利益率の高さにあります。
令和5年度介護事業経営実態調査によると、訪問介護事業者の収支状況は+7.8%。全サービス平均が2.4%なのに対し、利益率が高いことが明らかになっています。逆に収支がマイナスになった特養や老健といったサービスは大幅な引き上げがされています。
政府としては各サービスにおけるバランスを配慮して今回の決定に至ったと考えられます。
訪問介護サービスの現状
倒産した事業者は過去最多に
利益率の高さが指摘される一方で、訪問介護事業所の経営は厳しさを増しているというデータもあります。
東京商工リサーチによると、2023年の訪問介護事業者の倒産件数は67件に上ることが明らかにされています。これまで年間最多だった2019年の58件を抜き、過去最多を記録したことになります。

倒産した事業者の詳細をみると、資本金1千万円未満が9割超、従業員数10人未満が8割超となり、小・零細事業者の倒産が目立っています。そのなかには業歴20年以上の古参事業者も5件含まれていました。
倒産が増加した背景として、東京商工リサーチはヘルパー不足と物価高、競争激化を挙げています。コロナ禍前からヘルパー不足は深刻でしたが、コロナ禍が落ち着くと介護業界と他業界との賃金格差が広がり、人手不足に。そのため人材不足を理由とする倒産も10件と最多を記録しました。
ヘルパー不足は年々深刻に
訪問介護の人材不足は、他サービス事業者よりも深刻さを増しています。
厚生労働省の調査によると、2022年度の訪問ヘルパーの有効求人倍率が過去最高となる15.53倍に上ることを明らかにしています。これは介護職員の3.79倍と比べて4倍以上もの差。それほど訪問ヘルパーが不足しているのです。
その理由として挙げられているのが、責任の重さに対する賃金の低さ。訪問ヘルパーとして訪問介護で働くためには、130時間の「介護職員初任者研修」などの修了が必要。こうした負担や責任の重さに対し、月給は常勤で31万5,170円、非常勤で21万9,390円でした。ただし、これは額面での金額であり、実際の手取り給与はこの8割程度だと考えられます。
また、訪問ヘルパーは非正規雇用の女性が多いともされ、離職率も他職種よりも高くなっています。
さらに近年は、他産業が賃上げに積極的な姿勢を示しており、2024年の春闘でも3~4%程度の賃上げが実現すると見込まれています。そのため、訪問ヘルパーが他産業に流出するリスクが高まっていると指摘する専門家も少なくありません。
今以上に人材不足が深刻になれば、訪問介護サービスの持続的な運営に支障をきたすことは想像にかたくありません。
引き下げによる現場への影響
給与には影響がない?
専門家は、人材不足による倒産も増えるなかで、基本報酬が下がることには弊害が少なくないと指摘しています。日本介護福祉士会の及川ゆりこ会長は「これから在宅介護を充実させていく必要があり、その中で訪問介護は非常に重要なサービスのはず。極めて遺憾」と意見を表明。
基本報酬の引き下げによって、事業者の減収が予想されます。その結果、さらなる経営不振を招き、訪問介護サービスを提供する事業者の減少が予想されます。当然ながらサービスを提供する事業者が少なくなれば、在宅介護を取り巻く状況はさらなる悪化を招きかねません。
一方で、厚生労働省は現在3つある処遇改善加算を一本化し、ヘルパーをはじめとした職員への給与アップを図るとしています。
処遇改善加算は必ず職員への給与に反映されるために設けられた加算制度。そのため、事業所の利益にはつながらないものの、職員の給与アップには大きな影響を及ぼします。

つまり、政府は現状で収益率が約8%と高い水準にあることから、その利益がより職員への給与へ流れるよう誘導するような仕組みを目指していると考えられます。
小規模事業者はM&Aも視野に
訪問介護サービスの倒産件数が増えていますが、その9割以上は小規模事業者であることもわかっています。こうした事業者は高い利益率を事業拡大に活用できていないとも考えられます。
厚生労働省はかねてより介護事業者の大規模化を推進しており、今回の改定でも大規模事業者を優遇するような加算が多くみられます。
こうした流れをふまえると、小規模事業者は、大規模なグループへの事業売却やM&Aなどを視野に入れる段階に入っているのかもしれません。
いずれにしても、訪問介護サービスは在宅介護を推進するうえで不可欠なサービスであることは事実。地方でも過不足なくサービスを提供できるような体制づくりが求められています。
基本報酬引き下げが現場にどのような影響を及ぼすのか、今後の動向を見守る必要があるでしょう。
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2020年9月7日 制定