今月7日、兵庫県加東市で認知症の妻(79)の首を絞めて殺害したとして、夫(82)が逮捕されました。
妻は2年前から認知症を患っており、排泄介助のほか食事介助が必要な状態だったといいます。
長男が同居していたものの、介護は専ら夫が一人で担当。
夫は捜査関係者に対して「精も根も尽きた」と話しているそうです。
高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の末に起きた殺人事件。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、要介護者等からみた主な介護者の続柄は、同居の配偶者が25.7%、子が20.9%、子の配偶者が15.2%となっています。
| 同居の配偶者(25.7%) | |
| 同居の子(20.9%) | |
| 同居の子の配偶者(15.2%) | |
| 同居の父母(0.3%) | |
| 同居のその他の親族(2.0%) | |
| 別居の家族等(9.8%) | |
| 事業者(13.3%) | |
| その他(0.7%) | |
| 不詳(12.1%) |
要介護者等と同居している主な介護者の年齢をみると、男性では64.9%、女性では61.0%が60歳以上となっており、「老老介護」の世帯が相当数存在するとわかります。

下記のグラフの通り、同居している主な介護者が1日のうち介護に要している時間を見ると、「要介護3」以上では「ほとんど終日」の割合が急増します。終日に渡り休みなく介護するとなれば、ストレスは相当なものになると容易に想像できます。

「施設から在宅へ」。
国の介護政策の大きな流れです。
急速な高齢化の進展により、介護保険財政がひっ迫していることから、国は在宅医療・介護を推進しています。
団塊世代を中心に高齢者人口は今後も増え続ける見込み。
それにつれて「老老介護」の世帯も増え、いわゆる「介護殺人」と呼ばれるこのような痛ましい事件が頻発する可能性も指摘されています。
「54.8%」ものケアマネージャーが殺人や無理心中が「起きてもおかしくない」と回答
在宅医療・介護において重要な役割を担うのがケアマネージャー(介護支援専門員)。
ケアマネージャーは、ケアプランの作成だけでなく、病院や訪問介護事業者ほか介護サービス提供者との連絡調整を行います。
すなわち“在宅医療・介護のプロ”と呼ぶべき存在です。
そんなケアマネージャーを対象に、ケアマネジメント・オンラインと毎日新聞社が共同で行った「介護者の“介護疲れ”」に関するアンケート調査の結果を見ると、「介護殺人」は決して特殊なものではないとわかります。
「介護者が心身共に疲労困憊して追い詰められていると感じたことはありますか」という質問に対し「ある」と回答したケアマネージャーは93.0%にも達しました。
| ある(93.0%) | |
| ない(7.0%) |
「追い詰められている」と感じた介護者の年齢は60代が61.1%、70代が52.0%。高齢者の割合が高いことに気づくはずです。

さらに同調査を見ていくと、「昨今、介護疲れによる事件が相次いでいますが、自分が担当したケースで殺人や心中事件が起きてもおかしくないと感じたことがありますか」という設問に対し「ある」と54.8%のケアマネージャーが回答しています。
「介護殺人」はいつ起きてもおかしくない、そう感じさせるデータです。
| ある(54.8%) | |
| ない(45.2%) |
認知症かつ要介護状態になると「介護等放棄(ネグレクト)」により死に至るケースも
兵庫県加東市の事件では、妻が認知症を患っており、「おむつをしてくれないので、シーツごと取り換えないといけない」と逮捕前、警察官に話していたといいます。実は、要介護者に認知症が見られると、介護者による虐待などが深刻化する傾向があります。
「平成24年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」(厚生労働省)を見ると、「認知症自立度Ⅲ以上(日常生活に支障を来すような症状、行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする状態)」では、「深刻度5」の割合が最も高くなっています。
「深刻度5」とは、「生命・身体・生活に関する重大な危険」と定義されています。具体的には身体的虐待のほか、介護等放棄いわゆる「ネグレクト」が当てはまります。認知症かつ要介護状態であると、介護等放棄の割合が高まり、要介護者に生命の危機が迫ります。

市町村で把握している2012年度の虐待等による死亡事例は26件(27人)。
内訳を見ると「介護者(養護者)による殺人」が10件(10人)、「介護等放棄(ネグレクト)による致死」9件(10人)、「虐待(ネグレクトを除く)による致死」4件(4人)、「心中」1件(1人)、「その他」2件(2人)となっています。
殺人の次に介護等放棄(ネグレクト)による死亡事例が多くなっています。
| 2006 年度 |
2007 年度 |
2008 年度 |
2009 年度 |
2010 年度 |
2011 年度 |
2012 年度 |
||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 虐 待 等 に よ る 死 亡 例 |
件 数 |
31 | 27 | 24 | 31 | 21 | 21 | 26 |
| 人 数 |
32 | 27 | 24 | 32 | 21 | 21 | 27 | |
主に2つの理由から「在宅医療・介護」の流れは早まる!?
今後、「在宅医療・介護」の流れは急速に早まります。
理由は主にふたつあります。
ひとつは国が推進している「地域包括ケアシステム」の存在です。
「地域包括ケアシステム」とは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしく生活できるよう、住まい、医療、介護、生活支援が一体的に提供される社会基盤のこと。
たとえ認知症を患ったとしても、ボランティアや訪問介護などを利用して、在宅で医療、介護を受けられる体制づくりが進みます。
次に「施設数不足」です。厚生労働省によると、特別養護老人ホームの入所待機者は約52万人(2013年度)。国は特別養護老人ホームの増設を進めているものの、事態はすぐに好転しないと予想されます。「施設に入りたくても入れない」。そんな高齢者が増え、「在宅医療・介護」を余儀なくされるケースも増えるでしょう。
在宅介護者をどのように支援していくか。ケアマネージャーが考える支援策とは?
こうした社会状況下、介護者にはどのような支援が必要でしょうか。介護現場を熟知するケアマネージャーの回答にヒントを求めてみましょう。
先の「介護者の“介護疲れ”」アンケートにおいて、「追い詰められた介護者を支援するために特に必要だと考えることはどれですか」という質問に対して、「夜間や緊急時に対応できるサービスの充実」(68.2%)「在宅介護者への経済的支援」(62.3%)「介護者を支援するための新たな法律の整備や態勢づくり」(55.2%)と回答したケアマネージャーが多くいました。

現行の介護保険制度には、「短期入所生活介護(ショートステイ)」ほか、在宅介護者を支援するサービスがあるものの、不十分だと言えそうです。
経済的不安は、介護者が介護サービスを利用しない要因になり得ます。
必要なサービスを受けられず、介護負担を抱え込み、次第に追い込まれていく介護者がいるということでしょう。
無駄な給付は問題ですが、必要な支援が受けられるよう経済的負担を緩和する策も必要かもしれません。
認知症高齢者の増加も心配です。
前述した通り、認知症かつ要介護状態になると、介護等放棄(ネグレクト)に至るケースが増え、死亡事故につながる可能性が高まります。
厚生労働省の資料を見ると2025年の認知症高齢者は約700万人にまで増大する見込み。
高齢者のうち、約5人に1人が認知症になるという推計です。
さまざまな事情から在宅介護を余儀なくされ、要介護者は認知症を患っている……。今後の「在宅医療・介護」はこのような例がスタンダードになるかもしれません。どのように在宅介護者を支援していくか。議論は待ったなしと言えるでしょう。
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2020年9月7日 制定