老人ホームは、高齢者が集まって生活する場所であり、感染症の集団発生リスクが高い場所でもあります。新型コロナウイルスやノロウイルスなどの感染症は、高齢者にとって重症化リスクが高く、死に至るケースも少なくありません。
本記事では、老人ホームにおける感染症対策の重要性について解説します。施設職員だけでなく、ご家族や地域住民も理解しておきたい、集団感染を防ぐための具体的な方法をご紹介します。
新型コロナ、ノロウイルス、インフルエンザ…感染症の現状とは?
新型コロナウイルスが老人ホームへ与える影響
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中で大きな影響を与えています。
全国的に新型コロナウイルスの感染拡大が続いている中、特に老人ホームではその影響が顕著です。
たとえば、千葉市にある特別養護老人ホーム「とどろき一倫荘」では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、面会制限を設けざるを得なくなりました。この施設では、過去2年間で通常の面会が可能だったのはたった1か月程度に過ぎず、感染対策を工夫しながら新たな方法で面会を続ける工夫をしています。例えば、フィルム越しの面会やオンライン面会を活用するなど、家族とのコミュニケーションを維持しようとしています。
感染者数の増加に伴い、東京都内の病院では入院患者が増加しており、特に老人ホームでのクラスター発生が入院患者数の増加に影響しています。病院側は、今後さらなる感染拡大を警戒し、病床を拡充する準備を進めている状況です。
老人ホームでは、新型コロナウイルスへの対応において厳重な感染防止策とともに、家族との接触機会を確保するための工夫が求められています。また、感染拡大の警戒と対策の徹底が、今後も長期にわたって重要であることがうかがえます
インフルエンザの流行、予防策がカギ
インフルエンザは冬季になると流行する傾向がありますが、特に高齢者が集まる老人ホームでは、その影響が深刻になり得ます。高齢者は若年層と比較して免疫力が低下しているため、インフルエンザに感染すると重症化しやすく、時には命に関わる事態にも至ります。
インフルエンザは高熱、咳、喉の痛み、全身の倦怠感などの症状を引き起こします。高齢者ではこれらの症状が悪化しやすく、肺炎などの合併症を引き起こすリスクが高まります。研究によると、施設入所中の高齢者でインフルエンザ罹患した場合、致命率は1.3~6.9%にも上ります。
老人ホームのような集団生活を送る場所では、一人の感染者が多数の感染者を生み出す可能性があるため、予防策が極めて重要です。
ノロウイルスの発生動向、見逃せないリスク
ノロウイルスは非常に感染力が強く、人から人へと容易に伝播します。ごく少量のウイルスでも感染する可能性があり、食品や水、汚染された表面を介して伝播することが知られています。典型的な症状には、急激な嘔吐、下痢、発熱、腹痛が含まれます。
老人ホームでは、居住者が密接に生活しているため、ノロウイルスが一人の居住者から他の多くの人へと急速に広がることがあります。さらに、高齢者は免疫力の低下や基礎疾患の存在により、ノロウイルス感染症による重症化リスクが高いとされています。
集団感染の一般的な原因には、適切な手洗いの実施が不十分であること、汚染された食品や水の摂取、感染者との密接な接触が含まれます。
老人ホームにおけるクラスターの実態は?
新型コロナのクラスターが相次いで発生
介護施設における新型コロナウイルス感染症のクラスター発生は、重大な問題です。
2022年から2023年において、全国の高齢者施設では新型コロナウイルスのクラスターの発生が相次いで報告されました。
高齢者施設におけるクラスター発生の主な要因としては、施設内での密接な接触が避けられない環境、基礎疾患を有する高齢者の存在、および適切な感染予防対策の欠如が挙げられます。
施設におけるクラスターを防ぐためには、感染症予防対策の徹底が不可欠です。
具体的には、職員および入所者への定期的な検査の実施、マスクの着用、手洗いの徹底、施設内の衛生管理の強化、そして症状がある職員や入所者の早期の隔離が重要です。さらに、施設内での感染予防教育の強化や、職員および入所者へのワクチン接種の推進も、クラスター発生の予防に寄与します。
これらの対策を通じて、介護施設内での新型コロナウイルスによるクラスターの発生を最小限に抑え、高齢者の安全と健康を守ることが求められます。
老人ホームでのインフルエンザクラスター、防ぎ方は?
インフルエンザによるクラスター発生は、介護老人保健施設においても重要な監視対象です。2022年4月から2023年3月までの期間において、特に下半期(2022年10月から2023年3月)には1.3%の施設でインフルエンザによるクラスターが発生していました。
インフルエンザによるクラスターの発生を防ぐためには、施設内での予防策の徹底が必要です。具体的には、ワクチン接種の推奨、手洗いや咳エチケットの徹底、共有スペースの定期的な清掃と消毒、そして発熱や呼吸器症状がある職員や入所者の早期発見と隔離が挙げられます。さらに、施設内でのインフルエンザの監視体制を強化し、早期にクラスター発生の兆候を捉え、迅速に対応する体制を整えることが重要です。
インフルエンザは毎年、多くの人々に影響を与える呼吸器感染症です。特に高齢者や基礎疾患を持つ人々が多い介護施設では、インフルエンザによる重症化リスクが高く、クラスターの発生は深刻な健康被害につながる可能性があります。
そのため、施設運営者はインフルエンザシーズンに向けた準備として、予防対策の見直しと強化に努めることが求められます。
老人ホームでのノロウイルスによるクラスター、予防の重要性
2022年4月から2023年3月までの期間において、特に下半期(2022年10月から2023年3月)に1.5%の施設でノロウイルスによるクラスターが発生していました。
これは、上半期(2022年4月から9月)の0.2%から増加しており、ノロウイルスの感染拡散が施設内で生じていることを示しています。
ノロウイルスによるクラスター発生を防ぐには、施設内での徹底した衛生管理と感染予防策が不可欠です。手洗いの徹底、消毒液の配置、共有物の定期的な清掃と消毒、そして発症者の速やかな隔離などが有効な対策として挙げられます。
また、発症者が出た場合には、施設内での迅速な情報共有と感染経路の特定、さらには感染拡散の防止策の迅速な実施が求められます。
ノロウイルスは、特に冬季に集団感染が発生しやすい特性を持っています。そのため、冬季に入る前の予防策の見直しや強化、職員や入所者への教育と啓発活動の実施も、クラスター発生の予防に寄与します。介護老人保健施設では、ノロウイルスに限らず、様々な感染症に対する予防策と対応策を常に更新し、施設内での健康と安全を守るための取り組みを継続的に行う必要があります。
老人ホームでの感染症予防対策は施設の命運を左右する
老人ホームでできる感染症対策 ワクチン接種と衛生管理は必須
老人ホームにおける感染症予防において、ワクチン接種と衛生管理は二つの柱として非常に重要です。
厚労省は、インフルエンザに感染した場合、ワクチンを接種していれば死亡の危険が1/5に、入院の危険が約1/3から1/2にまで減少することが期待できると公表しています。
また、ワクチン接種に加えて、日常的な手洗い、アルコール消毒の使用、マスクの着用、施設内の定期的な清掃と消毒などの基本的な衛生管理措置が、感染症の拡散を防ぐ上で極めて重要です。2021年、ミシガン大学とVAアナーバー医療システムのチームは、個人防護具の使用、患者の皮膚に抗菌液の使用、手洗いと患者の手の清潔さの維持により、感染リスクを43%低減させることが可能であると発表しました。
老人ホームにおいて、ワクチン接種と衛生管理の徹底は必要不可欠だといえるでしょう。
老人ホームでの感染防止の鍵は「教育」と「情報共有」
教育と情報共有により、老人ホームでの感染予防の成功確率は格段に上がります。
一例として、ある研究では、手洗い教育プログラムを実施した施設では、実施していない施設と比較して、感染症の発生率が顕著に低下したことが報告されています[4]。適切な手洗い教育を受けた職員が勤務する施設では、感染症の発生率が20%以上低下しているのです。
また、情報共有も非常に大切です。職員間においても、忙しい業務の中でコミュニケーションの欠如が発生しがちですが、定期的なミーティングの実施や電子カルテの導入によって情報へのアクセス性を高めていく必要があります。 東京都内の老人ホームで電子カルテと定期的なスタッフミーティングを組み合わせた情報共有プログラムを実施した結果、インフルエンザの発生率が前年比で30%減少したという研究結果もあります。利用者の健康状態を常に把握することで、感染症の早期発見・早期対応が可能になったうえ、利用者個々のリスクに応じた適切な予防措置を講じることができたのです。
このように、教育と情報共有の強化を通じて、老人ホームでの感染症予防と管理を向上させることが可能です。職員と入所者が感染症に関する正しい知識を持ち、それを日常生活に適切に実践することで、施設内での感染症の発生と拡散を防ぐことができるのです。
【参考】
[1]Epidemiology and burden of illness of seasonal influenza among the elderly in Japan: A systematic literature review and vaccine effectiveness meta‐analysis https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7902263/
[2]厚生労働省「高齢者のインフルエンザは重症化することがあります」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/tool/dl/leaf03-02.pdf
[3]How can nursing homes protect residents from infection? Follow the research https://ihpi.umich.edu/news/how-can-nursing-homes-protect-residents-infection-follow-research
[4]The effect of a hand hygiene intervention on infections in residents of nursing homes: a cluster randomized controlled trial https://aricjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13756-021-00946-3
[5]厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版」https://www.mhlw.go.jp/content/000500644.pdf
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2020年9月7日 制定