レカネマブ(商品名:レケンビ)は、これまで症状改善薬しか存在しなかったアルツハイマー病の進行そのものを抑制できる薬です。日本でも2023年12月20日から保険適用となり、投薬もすでに開始されています。推定400万人以上とも見積もられているアルツハイマー病患者にとって、朗報といえるでしょう。
その一方で、その「コスト」については問題視する声もあります。
体重量によって投与量は変わるものの、体重50キロの患者の場合で年間約298万円と、レカネマブの薬価は非常に高価です。国の高額療養費制度があるため、70代以上の一般所得層の自己負担は年間14万4000円が上限であり、差額は公費で負担することになります。高額な治療費は、介護保険制度に重大な経済的負担を課すことになるのです。
本記事では、レカネマブの概要から利用のメリット、そして介護保険制度への影響等について解説します。
「レカネマブ」はアルツハイマーの画期的な治療法
認知症の種類と治療法
「認知症」とは一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、 日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態の総称であり、それぞれ原因と症状、治療法が異なります。
中でも最も多くみられるのがアルツハイマー型認知症であり、認知症の原因の60%以上を占めています。 症状は物忘れなどの「記憶障害」から始まり、自分のいる場所や時間などがわからなくなる「見当識障害」、物盗られ妄想、徘徊などの一般的にイメージされる認知症の症状が出現します。 根本的な治療法は存在せず、症状の進行を遅らせる「症状改善薬」を用いた薬物療法(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)、認知機能を維持するための認知療法などが実施されてきました。 そのほか、脳梗塞や脳卒中、くも膜下出血などの脳の疾患が原因で発症する血管性認知症(約19%)、現実にはないものが見えてしまう「幻視」の症状で苦しむレビー小体型認知症(約4%)、前頭葉と側頭葉が萎縮し、血液の流れが滞ることで発症する前頭側頭型認知症(約1%)を含め、「4大認知症」と呼んでいます。
レカネマブが適用できるのは、アルツハイマー型認知症です。
レカネマブの仕組み
レカネマブは、アルツハイマー型認知症の初期あるいは軽度の認知症の方に適用できる新薬です。
この薬は、アルツハイマー病の主要な原因の一つであるアミロイドβタンパク質の蓄積を抑えることにより、病気の進行を遅らせるとされています。脳内の異常なタンパク質蓄積を抑えることで、神経細胞が壊れるのを防ぎ、症状の進行を遅らせることが期待されているのです。
臨床試験の結果によると、レカネマブを投与された患者群では、薬の投与から1年半の時点でプラセボ(偽薬)を受けた患者群に比べて認知機能の低下が平均で27%抑制されました。
さらに、早期のアルツハイマー病患者における症状の進行を2〜3年遅らせることが可能であるとも推定されています。
「レカネマブ」の抱える問題点
レカネマブの問題点①効果が限界的である
とはいえ、レカネマブも万能というわけではありません。
そもそも、レカネマブの適用範囲は認知症の中でもアルツハイマー病、それも初期段階の患者か、初期認知障害(MCI)と呼ばれる、認知症になる前の段階の患者のみです。それ以外の要因による認知症や、進行が進んでしまっている場合は使用できません。
また、現時点ではレカネマブの進行を完全に止めることや、損傷を受けた脳の機能を回復させることもできません。
このような点に関しては、今後の医療の発展を待つ必要があります。
レカネマブの問題点②検査体制が整っていない
レカネマブを投与するためには、アミロイドを可視化する画像検査装置・アミロイドPET検査によって患者の脳内にアミロイドがたまっていることを確認する必要があります。
ですがPETの装置は大規模で高価なため、現段階では検査装置がある医療施設は限られているうえ、検査の費用が高額です。
この検査ができない場合は、患者側の負担が大きい脳脊髄液による検査(髄液検査)をするしかないため、状況の改善が必要になります。
レカネマブは本当に介護保険サービスへの負担を増大させるのか?
年間数百万の治療費を国が負担
レカネマブによる治療は本来年間298万円かかりますが、70歳以上の一般所得層の場合、高額療養費制度により年間の自己負担上限14万4,000円で治療可能です。
しかし、それはつまるところ国による補填を意味しています。
そもそも日本では、高齢者数が年々増加しており、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が2,180万人、65~74歳の前期高齢者人口が1,497万人に達すると予測されています。これは国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となる計算です。高齢者数の増加は、介護サービスへの需要の高まりと直結し、介護保険制度にかかる圧力を増大させています。
既に介護保険料は年々上昇しており、地域や世代によってはその負担が重くなっています。介護保険制度は2000年の導入以来、利用者の増加とサービス提供コストの上昇に伴い、保険料の引き上げが繰り返されてきました。
レカネマブが広く利用された場合、公的医療保険制度・介護保険制度に影響を及ぼす可能性もあります。
レカネマブ導入によって介護保険制度の負担が軽減される可能性も
その一方で、レカネマブ導入によって逆に介護保険制度の負担が軽減される可能性も大いにあります。
まず、レカネマブによってアルツハイマー病の進行を抑制できれば、高度な介護保険サービスが必要になる時期が遅れるため、結果的に介護保険制度にかかる直接的な負担を減らすことが期待できます。
さらに、患者自身の自立支援が可能になることで、家族介護者の身体的、精神的負担が軽減され、結果として社会全体の生産性向上にも寄与する可能性があります。
このように、レカネマブ導入による介護保険サービスへの負担は多角的に検討する必要があるといえるでしょう。
介護業界におけるレカネマブ導入の波紋
初期段階での介護サービス需要の増加が予測される
レカネマブによって認知症の進行が抑制される場合、初期段階での介護やサポートをより長期間必要とする患者の数が増加すると予想されます。
特に注目されるサービスは、訪問介護による日常生活支援や通所介護(デイサービス)です。
訪問介護による日常生活支援
認知症の進行が遅れると、患者はより長い期間、自宅にて日常生活を送ることが可能になります。しかし、全ての活動を完全に自立して行えるわけではないため、食事の準備、掃除、買い物などの日常生活のサポートを提供し、患者ができるだけ自宅で自立した生活を続けられるよう支援します。
週に数回の訪問介護によるサポートがあれば、認知症になったとしてもこれまでよりも長く自宅で生活できるようになるかもしれません。
通所介護(デイサービス)は家族の介護離職防止にも貢献
さらに、認知症の初期から中期の患者を対象に、日中の時間帯に介護サービスやリハビリテーション、社会的交流の機会を提供している通所介護(デイサービス)の利用期間が伸びることが考えられます。
認知症患者にとって社会的交流は非常に重要です。交流は認知機能の維持に貢献し、孤独感やうつ症状を軽減する効果があります。通所介護は、同じような状況にある他の人々との交流の場を提供し、精神的な健康を支援します。
さらに通所介護では、専門のスタッフによる運動療法や作業療法などのリハビリテーションを受け、身体機能の維持や向上を目指すことも可能です。
加えて、認知症患者を自宅で介護する家族にとっても、日中の時間帯に安心して患者を預けられる通所介護は大きな支援となります。家族介護者は、この時間を利用して気分転換したり、職務に専念することができます。この結果、介護離職を避けることも可能になるかもしれません。
国や介護業界はこれらのサービスの利用増加可能性を見据えて、サービス展開や人材育成に取り組む必要があるかもしれません。
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2020年9月7日 制定