認知症による事故が年々増加中
認知症ドライバーによる事故が後を絶たない
認知症を抱える高齢者が運転中に起こす事故は増加傾向にあります。
警視庁によると、2020年の75歳以上の運転者による交通事故件数は4,579件であり、全体の15.2%を占めています。
その中でも、認知機能障害のある運転者による事故の割合が高くなっています。
警察庁の発表によれば、2019年に死亡事故を起こした75歳以上の高齢者のうち、認知症を患っている、あるいは認知機能に問題ありと判断された人は4割弱でした。
認知症が進行すると、運転に必要な判断力や操作能力が低下します。例えば、信号の色の判別が難しくなったり、ブレーキとアクセルの踏み間違いが起こりやすくなったりします。また、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症では、幻視などの視覚的なトラブルにより、事故のリスクがさらに高まります。
さらに問題なのは、認知症のある方が「知らぬ間に運転してしまう」ケースです。家族が目を離した隙に車のキーを持ち出し、無断で運転することもあり得ます。認知症の症状には波があるため、あるタイミングで自分がかつて運転していたことを思い出し、車を運転し始めたはいいものの途中で状況が把握できなくなってしまうのです。
事故防止の現行制度は不十分?課題と改善策を考える
日本では、75歳以上の高齢者を対象に、運転免許の更新時に認知機能検査を義務付けています。検査の結果、認知症のおそれがあると判断された場合、臨時適性検査を受ける必要があります。
この制度は認知症による事故を防ぐ上で一定の効果がありますが、課題も指摘されています。
まず、免許の更新は3年に1度であるため、その間に認知機能が低下してしまう可能性があります。また、一時的に検査をクリアしても、日常的な運転能力まで保証されているとは言い切れない部分もあります。つまり、現行の制度では、認知症のリスクがある高齢者の運転を十分に管理できていないのが実情なのです。
こうした課題に対応するには、より頻繁かつ的確に認知機能をチェックする仕組みが求められます。運転能力を多角的に評価するテストの導入や、医療機関との連携強化などが望まれますが、高齢者本人や家族に対する啓発活動を通じ、免許返納を促進することも重要な対策の一つと言えるでしょう。
運転だけじゃない…認知症家族の事故に対する賠償責任はあるのか?
認知症の事故で問われる法的責任! 刑事・民事で異なる基準
認知症の方が事故を起こした場合、民事上の責任と刑事上の責任が問題になります。これは自動車事故に限った話ではありません。
民事上は、事故によって生じた損害を認知症の方に賠償する責任が発生しますが、責任能力がないと認定されれば、賠償責任を負わない可能性があります。その際、監督義務者(主に家族)が賠償責任を負う場合があります。
一方、刑事上は、認知症の程度によっては、刑事責任が問われない可能性もあります。ただし、重大な事故の場合は、刑事責任を問われるケースもあるので注意が必要です。
2017年10月、横浜市港南区で集団登校中の小学生の列に軽トラックが突っ込み、1年生の男児1人が死亡、7人が重軽傷を負う事故がありました。運転していた当時88歳の男性は、過失致死傷の疑いで逮捕・送検されましたが、精神鑑定の結果、アルツハイマー型認知症と判明しました。男性は事故前日から約24時間にわたって車で徘徊を続けており、正常な運転能力を欠いた状態だったと判断されました。横浜地検は、男性に注意義務違反が問えないとして、嫌疑不十分により不起訴処分としました。
このように、認知症の程度や事故の状況によって、法的責任のあり方は異なります。ケースバイケースの判断が求められるため、専門家に相談することが賢明と言えるでしょう。
徘徊で電車を止めてしまった…JR東海訴訟から家族の責務を考える
2007年12月、JR東海の踏切で、認知症により徘徊していた91歳の男性が電車にはねられてしまう事故が発生してしまいました。
もちろん男性も気の毒ですが、事故が発生してしまうと鉄道会社にも「振替輸送費」「修理費」「人件費」などの損害が発生してしまいます。そのため、JR東海は男性の妻と長男に対し、720万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。
裁判の争点は、家族の監督義務の範囲でした。
当時の司法では、責任能力のない人が他人に損害を与えた場合、家族らの弁済を当然とする風潮がありました。
しかしながら、このケースでは家族らに同情が集まります。認知症の男性の妻(当時85歳)は玄関の出入りを把握するためのチャイムを設定し、夫が勝手に外出しないように配慮していたにもかかわらず、運悪く居眠りしてしまった際に出て行ってしまったのでした。また、別居している長男も毎週末父を散歩に連れ出すことで勝手な外出を防ごうと努力していたのです。
結果的に、最高裁はJR東海の請求を棄却。介護する家族に賠償責任があるかは「総合的に考慮して決めるべき」であるという考え方が法曹界で一般的になった重要な事例です。
その一方で、これまで見過ごされてきた家族の賠償責任に注目が集まった重大な事例でもあります。
賠償責任が発生する可能性はゼロではないため、一定の対策が必須であることは間違いありません。JR東海訴訟の教訓は、認知症の方の事故をめぐる家族の責任の限界を示すとともに、事故を防ぐための家族の役割の重要性を再認識させるものでした。認知症の方の自立を尊重しつつ、必要な支援を行うバランス感覚が、今後ますます問われることになるでしょう。
認知症の家族をもつ人が心がけるべき事前の備えと心構え
認知症の方が徘徊によって行方不明になってしまうケースは年々増えています。
認知症の方の行動をすべて管理することは難しいですが、家族にできる事故防止策はいくつかあります。
まず重要なのは、認知症の早期発見と適切な治療の開始です。もの忘れが気になり始めたら、速やかに医療機関を受診し、専門医の診断を仰ぐことが大切です。
運転に関しては、認知機能の低下に合わせて、段階的に運転を控えるよう、優しく粘り強く説得することが求められます。「車がないと生活できない」といった本人の不安に寄り添いつつ、事故のリスクについて具体的に伝えていくことが大切です。
介護サービスの利用や、移動手段の確保など、運転に頼らない生活への移行をサポートすることも重要です。
徘徊のリスクがある場合は、外出時に身元を証明する書類を持たせたり、衣服にGPSを取り付けたりするなどの工夫も考えられます。
万が一、事故が起きてしまった場合は、警察への連絡が第一ステップとなります。認知症の症状について正直に伝え、捜査に協力することが重要です。その上で、法的責任について、弁護士など専門家の助言を求めることが賢明でしょう。
認知症高齢者の事故に備える!保険と自治体支援を上手に活用しよう
個人賠償保険があれば認知症の事故にも安心?正しい選び方と活用法
認知症の方の事故に備える手段の一つが、個人賠償責任保険です。この保険は、日常生活での偶然な事故により、他人にケガをさせたり、財物を壊したりした場合に、法律上の損害賠償責任を補償するものです。
例えば、自動車保険の個人賠償責任特約や、火災保険や傷害保険の個人賠償責任補償など、さまざまな保険商品に付帯されています。認知症の方が加害者となる事故の場合、本人に責任能力がない、あるいは監督義務者である家族に責任がないと判断されれば、被害者への賠償は保険会社が肩代わりしてくれる仕組みです。
さらに、日頃から認知症の方の見守りを強化し、事故の芽をできるだけ早く摘むことが重要です。GPSを使った見守りサービスや、認知症サポーターなど地域の支援者との連携を密にすることで、認知症の方の行動を把握しやすくなります。万が一、行方不明になっても、速やかに捜索・保護する体制を整えられるのです。総力戦で認知症の方を守る。保険と自治体支援を基盤に、地域の見守りネットワークを構築することが、事故防止とリスク管理の鍵を握ると言えるでしょう。
自治体の支援制度も活用しよう
認知症の方とその家族を支援する自治体の制度も、近年広がりを見せています。
例えば、神奈川県大和市では、「はいかい高齢者個人賠償責任保険」を設けています。対象は行方不明になる心配のある高齢者に登録番号を付し、行方不明になった際には、早期発見・保護に繋げることができるようにする制度「はいかい高齢者等SOSネットワーク」に登録している高齢者であり、1事故最大3億円の補償が受けられます。
こうした自治体独自の対策の重要性は一層高まっています。各地の先進的な取り組みは、今後、他の自治体にも広がっていくことが期待されます。認知症の方とその家族にとって、公的支援の拡充は心強い味方となるはずです。自治体の支援制度については、介護保険の担当窓口や地域包括支援センターに問い合わせるなどして、積極的に情報を集めることをおすすめします。
認知症の方とその家族を支える社会の充実は、誰もが安心して年を重ねられる社会の実現につながります。保険と自治体、地域が一体となった取り組みを通じ、認知症になっても安全・安心に暮らせる未来を目指したいものです。
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2020年9月7日 制定