介護施設の倒産が増加　今こそ講じるべき対策とは

介護施設の倒産が増加している現状

介護施設倒産の現状とその影響

2023年、「老人福祉・介護事業」の倒産件数は122件記録されました。過去最多であった前年からは減少したものの、過去２番目の水準です。

主な原因は売上不振で、これはヘルパー不足や物価高、競合の影響によるものも多いです。資本金1千万円未満の小規模事業者が大多数を占め、人手不足によるコストの増加、新型コロナウイルスの影響による利用者の減少、物価高騰が経営難を深刻化させています。

コロナ禍での利用者の減少は売上に大きな打撃を与えているだけでなく、従業員の退職や離職が原因で人材を確保できずに業績が悪化する「人手不足倒産」が目立っています​​。

この流れは、介護施設の経営者や関係者が直面している複合的な問題を浮き彫りにしています。資金の確保、人材不足の解消、サービスの質の維持、新型コロナウイルスの影響への対応は、介護業界全体で共有すべき課題といえるでしょう。

介護報酬引き下げによる打撃

介護施設の競争が激化し、経営難が増加している原因には、一部サービスの介護報酬の引き下げも関連しています。報酬引き下げに伴い、事業所の運営コストの増加や収益の減少に直結しています。特に、質の高い介護サービスを提供しながらも、報酬の引き下げによる収益性の悪化が、多くの事業所にとって大きな問題となっています。

また、収益性の悪化が介護職員の不足、そしてサービスの質に影響することもあり、結果的に経営をさらに厳しくすることにつながっていると見られます。このような背景の下、事業所は生き残りをかけた戦略の見直しが求められているのです。

介護施設の経営改善に向けた試み

介護施設の経営改善に向けて、経営効率化やコスト削減のためのイノベーション導入が求められています。具体的には、テクノロジーの活用による業務の自動化や効率化、質の高いサービス提供を実現しながら運営コストを抑える新たなサービスモデルの開発などが挙げられます。

しかし、これらの取り組みと同時に、介護職員の不足解消への取り組みも急務であると言えるでしょう。人材不足の解消は、サービスの質を維持し、事業の持続可能性を確保するために不可欠です。

倒産に至る主な要因と業界の課題

介護業界における人材不足の深刻化

介護業界における人材不足は、特に新型コロナウイルスの流行以降、より深刻な問題となっています。この人手不足を解消するためには、介護職員の待遇改善と働きやすい環境の整備が欠かせません。

待遇改善には、給与の引き上げのほか、福利厚生の充実や研修プログラムの提供が含まれます。また、労働環境の改善、例えば勤務シフトの柔軟性の向上や、心理的な負担を減らす支援体制の構築なども、職員が長く働き続けられる環境を作る上で重要です。こうした取り組みは、介護職員の定着率を高め、結果的に介護サービスの質の維持・向上に寄与することが期待できます。「今の勤務先で働き続けたい」と感じている介護職員は6割以上いるというデータもあり、取り組み次第では事業所・職員の双方にメリットをもたらすでしょう。

サービスの質と介護報酬が釣り合っていない

介護報酬の問題は、高品質なサービスを維持しようとする介護施設にとって大きな課題です。介護報酬が実際のサービス提供コストに見合っていないという場合には、施設の経済的負担を増加させることにつながります。

この状況は、施設が質の高いサービスを提供し続けることを難しくする可能性もあり、経営戦略の見直しが迫られることもあるかもしれません。介護施設は、限られた資源の中でいかに効率的に運営を行い、利用者の満足度を保ちながら経営の持続可能性を確保するか、その戦略を練る必要があるのです。

業界の課題と今後の方向性

介護施設の定員数は右肩上がりに伸びていますが、業界の未来に向けて取り組むべきことは、業界全体での質の高いサービス提供と持続可能な経営を目指すことです。

実現していくには、現場の介護職に求められる新たなスキルや専門性の向上も重要になります。技術革新や社会の変化に対応できる人材育成と、事業運営の効率化を図るイノベーションの導入が、今後の展望として特に注目されています。これらの取り組みは、サービスの質の向上だけでなく、介護施設の経営基盤の強化にも寄与するでしょう。

持続可能な経営に向けた取り組みと対策

新型コロナウイルス対策としての支援の必要性

新型コロナウイルスの感染拡大によって、介護施設における感染症対策はこれまで以上に高まりました。感染予防と拡散防止のための衛生管理や消毒作業、職員や利用者の健康管理などの経費が経営に重くのしかかっています。

こうした状況下で、政府や地方自治体からの経営補填や追加経費に関する補助金の継続、さらには特別な支援策が急務とされています。これにより、施設は緊急時の対応に集中できるだけでなく、長期的な経営安定にもつながり、高品質な介護サービスの提供を維持することが可能になります。このような支援体制の確立は、疫病対策だけでなく、社会全体のレジリエンス向上にも寄与すると期待されています。

法改正と政策支援の積極的活用

介護施設の経営基盤強化には、法改正や政策支援の積極的な活用が欠かせません。介護報酬の見直しをはじめとする政策は、施設の財政状況を大きく左右します。このため、現行の報酬体系を見直し、より現実的で持続可能な経営を支える構造への改革が求められています。

また、政府や地方自治体による補助金や助成金制度をよりアクセスしやすくし、これらの資金を活用して施設の設備投資や人材育成、サービス品質の向上などに充てることができれば、介護施設の経営安定化に大きく貢献するでしょう。こうした法改正や政策支援の積極的な実施によって、介護サービスの質の担保と経営の持続可能性が両立できるようになることを期待したいです。

イノベーションとサービスの多様化

介護施設の経営効率を向上させるためには、イノベーションの導入とサービスの多様化が鍵となります。

技術の進化は、介護業務の負担を軽減し、より高品質なサービスの提供を可能にします。例えば、ウェアラブルデバイスやセンサー技術の利用による健康管理の自動化、AIを活用した生活支援ツールの導入などが挙げられます。施設運営のコストを削減していくためにも、これらの技術を積極的に導入していくことも考えなくてはなりません。

また、地域社会との連携を深めることで、地域包括ケアシステムの一翼を担うことも重要です。地域の資源を活用したサービスの提供は、利用者にとっての選択肢を増やすだけでなく、地域全体の介護需要に応えることにも繋がります。イノベーションとサービスの多様化を進めることで、介護施設はより柔軟に市場の変化に対応し、持続可能な経営を実現することができるでしょう。