
東京都内の刑法犯の認知件数は、戦後最悪の治安情勢と言われた2002年の約30万件をピークに、2015年には約14万8千件と半減しました。刑法犯の検挙、補導人員は2002年から2015年にかけて、少年(6~19歳)および成人(20~64歳)は減少。
その一方で、高齢者(65歳以上)は、2007年をピークに減少しつつも、2002年と比較して約2.2倍、高齢者人口10万人あたりの犯罪者率も約1.3倍に上昇し、なかでも窃盗犯が約7割を占め、うち万引きが最も多く約9割を占めています。
つまり、万引きに関しては、高齢犯罪者がメインになりつつあることがわかります。

この実態を重く見た東京都は、今月1日防止策を提言するための「万引きに関する有識者研究会」の初会合を開きました。
万引きが増えている背景や店舗での具体的な防止事例を分析し、来年2月を目途に報告書をまとめるそうです。
自治体レベルでのこのような取り組みは珍しいと言えるでしょう。
今回は、法務省の資料を読み解きながら、高齢者の万引きの現状について見ていきます。
女性高齢者による万引きは20年前に比べて約3割増!高齢になってから万引きに手を染めるケースが多い
実は、万引きの検挙人員は、総数では、2002年までは検挙人員の約4~5割を少年が占めていましたが、その後は徐々に減少。
2014年には2割以下に留まっています。
一方、高齢者は1994年から2014年の20年間で約3倍に増えています。
とりわけ女性の検挙人員に占める高齢者の割合は、1994年には8.9%でしたが、2014年には37.8%を占めるまでになっています。

窃盗(うち約9割は「万引き」)の高齢者の起訴人員は、2015年は1994年と比較して男性は約8倍、女性に至っては約44倍にも増加しています。
窃盗の保護観察付執行猶予者(刑の執行猶予と併せて保護観察付の言い渡しを受けた者)の保護観察開始人員に占める高齢者の割合は、男女とも増加傾向に。
その割合は、2015年では、男性がほかの年齢層と比べて低いのに対し、女性は最も高くなっています。
つまり、高齢者の万引きにおいては、女性高齢者による犯罪が深刻だと言えます。

次に、刑務所への入所度数別に男女高齢者の万引きの現状を見ていきましょう。
見ると、男性高齢者は2度以上の窃盗事犯者が約8割を占めているのに対し、女性高齢者は初入者が約半数を占めています。
つまり、女性高齢者の場合は、高齢になってから万引きに手を染め、逮捕されるケースが多いということです。

男性高齢者は“経済的要因”、女性高齢者は“身体的要因”から万引きを犯す
では、高齢者はどのような理由から万引きに手を染めるのでしょうか。法務省のデータによると、男女高齢者ともに「自己使用・費消目的」「節約」「生活困窮」および「軽く考えていた」の比率が高くなっています。
男性高齢者の場合は、ほかに「空腹」が、女性高齢者の場合は「ストレス発散」と「体調不良(送鬱などの精神疾患や摂食障害)」も主な理由として挙げられています。
これらから、男性高齢者は“経済的要因”から、女性高齢者は“身体的要因”から万引きに走っていると考えることができます。
女性高齢者は一度万引きを犯すと、再犯率が高いことがわかっています。
前科のない万引き事犯者における男女別、年齢層別のグラフを見ると男性高齢者の再犯率は14.3%であるのに対し、女性高齢者は37.5%にまで上昇。
また、「近親者の病気・死去」に直面した女性高齢者の再犯率は77.8%にも及びます。

女性高齢者は「配偶者との死別」や「病気の看護および介護」に伴うストレスで万引きに走る
ここまで、高齢者の万引きの実態を男女別に見てきました。男性高齢者は、生活に困窮し空腹に耐えかねて万引きに走るケースが多いのですが、女性高齢者の場合は、状況が複雑です。というのも、万引きの理由が「精神面」に求められることが多いからです。
「近親者の病気・死去」に直面した者や「家族と疎遠・身寄りなし」の者は、万引きに手を染めやすいことが判明しており、配偶者との死別や病気の看護および介護などに伴うストレスが犯罪に駆り立てている可能性が示唆されました。
身近な犯罪である万引き。
初犯の場合は、罰金刑で済む場合が大半ですが、何度も万引きを犯し検挙されると受刑に至るケースも相当数に上っています。
万引きをはじめとする窃盗は、一般的に「癖」になると言われ、一度見につくと矯正するのは難しいと言われています。
特に高齢者の場合は、認知や性格の問題から万引きの悪質性について理解させることが難しいという現状があります。
従来の万引き犯は、少年が大半を占めていました。
少年の場合は、刑務所を出たあと、就労を通じて常識を身につけさせることで、社会復帰を果たすのが一般的でしたが、高齢者については年齢の問題もあり、このような従来型の支援だけでは十分ではありません。
それに、出所後に適切な行き場のない受刑者については、その約6割が1年未満で再犯するというデータもあります。
果たして、どのような社会復帰支援策が高齢者に求められているのでしょうか。

「更生緊急保護の事前調整」をはじめ適切なサポートが高齢者には必要
2013年10月から始まった「更生緊急保護の事前調整」は、万引き高齢者の有力な社会復帰策のひとつです。
「更生緊急保護の事前調整」とは、捜査段階で釈放される起訴猶予者について、保護観察所は検察官からの依頼に基づき、釈放後の福祉サービスの受給や住居の確保に向けた事前調整を行うことを意味します。
事前調整後も、本人の希望に応じて、更生緊急保護の期間中(原則6か月まで)は、継続的な相談対応および支援を実施します。
2013年は、88人(ホームレスや知的障害者、アルコール依存症患者、認知症患者など)に対し、居住地の確保や就労支援、生活保護受給の調整などを行ったそうです。
女性高齢者の場合は、何らかの心理的ストレスを抱えていたり、家族との不和がきっかけであることも考えられるため、支援には細心の注意を払う必要があります。
「更生緊急保護の事前調整」のような行政措置の利用はもちろん一案ですが、女性高齢者の家族との関係を把握することや精神福祉士や社会福祉士などの専門家による心理的なサポートも求められるでしょう。
「万引き高齢者」は減らない!?認知症による責任能力の有無を巡って裁判になることも
各種データを見る限り、生活保護以下の水準で暮らす「下流老人」の存在や単身高齢者の増加、介護をきっかけとした家庭不和に伴うストレスの増大などが現実的にある限り、高齢者による万引き被害が減るとは考えにくいでしょう。
また、急増する認知症高齢者も万引き犯罪の増加要因となるかもしれません。
厚生労働省の「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」によると、2025年には認知症高齢者は700万人にも上る見込み。
「万引きをした高齢者が実は認知症だった」という事例は全国で相次いでおり、責任能力を巡って裁判になっています。
高齢者が万引きに走る要因は、男女で異なる実態が明らかになりました。特に女性高齢者は、「再犯率が高い」こともわかっています。高齢者の社会復帰は前途多難。行政はもちろん、市民ボランティアなどの力を結集して、支援することが必要なのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定