全国各地で次々と梅雨明けが発表され、本格的な夏に突入。気温がグングンと上昇するなか、体力のない高齢者にとって心配なのは「熱中症」です。今回は、消防庁などの各種資料を読み解きながら高齢者の「熱中症」について考えてみます。
昨年の熱中症による救急搬送人員数は5万人オーバー。その約半数が高齢者
消防庁によると、2015年5月から9月における熱中症による救急搬送人員数の累計は55,852人。
月別の救急搬送人員数は、7月が最多で24,567人、8月が23,925人でした。
7月の救急搬送人員数24,567人は、2008年からの調査開始以降、7月の救急搬送人員数としては過去最多。
週別の救急搬送人員数は、7月27日から8月9日までの期間を見ると、2週連続して1万人超え。
熱中症によって救急で搬送される人の数は、夏が本格化するこの時期に集中していることがわかります。
北日本、東日本では7月中旬以降、西日本でも7月下旬以降に晴れて気温の高い日が多くなり、各地で梅雨明けした8月上旬を中心に最高気温35度以上の猛暑日が続いたことが要因として考えられます。
救急搬送人員数の年齢区分では、高齢者が最も多く、2008年の調査開始以降初めてその割合が50%を越えました。

搬送された医療機関での初診時における傷病程度を見ると、軽症が63.6%と最も多く、次いで中等症33.1%、重症2.4%、死亡0.2%となっています。中等症以上と診断されると、入院の必要があります。
70~80歳代の高齢者が熱中症にかかると重症化しやすい
さて、ここまでは全国における熱中症の状況について見てきました。ここからは、熱中症による救急搬送人員数が都道府県別では最も多い東京都の状況について考察します。
月別の熱中症による救急搬送人員数を見ると、7月と8月に集中していることがわかります。

さらに、時間帯別の救急搬送状況を見ると、10時台~17時台までが要注意時間帯だと気づくでしょう。

年代別の救急搬送状況を見ると、80歳代が942人と最も多く、次いで70歳代が867人、60歳代が487人と続き、70歳代、80歳代が特に危険だというデータが出ています。

昨年6~9月に、東京都内で熱中症により死亡した人は4人。その全員が75歳以上で中等症以上の割合は58.7%。高齢者が熱中症にかかると、重症化しやすいことを物語るデータです。
高齢者の救急搬送時の初診時程度と中等症以上の割合
| 年齢 | 軽症 | 中等症 | 重症 | 重篤 | 死亡 | 合計 | 中等症以上の割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 65~74歳 | 326人 | 316人 | 32人 | 9人 | ー | 683人 | 52.3% |
| 75歳以上 | 681人 | 882人 | 67人 | 13人 | 4人 | 1,647人 | 58.7% |
| 合計 | 1,007人 | 1,198人 | 99人 | 22人 | 4人 | 2,330人 | 56.8% |
熱中症は屋内にいても対策が必要です。
救急搬送された高齢者のうち約6割は自宅で熱中症にかかっています。
たとえ気温が低くても湿度が高い場合、熱中症が発生しやすいとわかっています。
実際、昨年7月には、熱中症により居室内でぐったりしている母親(76歳)を娘が発見。
この居室内の気温は28度で、湿度は67%と高湿度でした。
窓を開けて風通しをよくすることやエアコン、扇風機などを利用し、室内温度を調整するなど、熱気を溜めない工夫が必要です。
| 住宅等居住場所(59.8%) | |
| 道路・交通施設(25.1%) | |
| 店舗・遊戯施設等(3.8%) | |
| 会社・公共施設(2.7%) | |
| 公園・遊園地・運動場等(2.5%) | |
| 医療施設・福祉施設(1.5%) | |
| 工事現場・工場等(1.3%) | |
| プール・河川・海(0.3%) | |
| その他(3.0%) |
高齢者は、体温調整能力や体液量の低下により熱中症にかかりやすい
高齢者はなぜ熱中症にかかりやすいのでしょうか。
理由は主に3つあります。
ひとつは「皮膚の温度感受性の鈍化」です。
皮膚には、温度を感知するセンサーがあり、その情報は脳の視床下部にある体温調節中枢に伝えられます。
そして、体温調節中枢が「暑い」と判断すると、皮膚血管や汗腺に命令を出し、皮膚血流量や発汗量を増大させ、体温調整を図ります。
この温度センサーが鈍くなると、体温調整がうまくできず、身体に熱を溜め込むことになりかねません。
次に「熱放散能力の低下」です。温度センサーが機能し、体温調節中枢が働いたとしても、皮膚血管や汗腺が衰えていると、体内にある熱をうまく放出することができなくなります。
最後に「体液量の低下」です。高齢者は若年者より体液量が少なく、汗をかくと脱水症状を起こしやすくなります。体内の水分が少なくなると、身体を冷ましにくくなり、結果熱中症にかかりやすくなります。
熱中症対策をしていない高齢者は4割もいる?熱中症対策の一例を紹介
高齢者の熱中症はどのように予防するのが適当でしょうか。環境省の「熱中症環境保健マニュアル2014」からいくつか抜粋して紹介します。
- 暑さに身体を慣らしていく
- 「やや暑い環境」のなか「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動(ウォーキングなど)を継続すると、徐々に「暑熱順化」が起こります。「暑熱順化」は運動開始数日後から起こり、2週間程度で獲得できます。
- 高温、多湿、直射日光を避ける
- 高温と多湿は、熱中症の元凶。窓を開け、通気性を確保することや扇風機などを使用し、室内に熱気を溜めないことが大切です。
- 水分補給をこまめに行う
- のどが渇いてから水分を補給することはやめましょう。時間を決めて水分を補給するとベターです。ちなみに、アルコールは利尿作用があり、体内の水分を排出してしまうため、水分補給には逆効果です。
- 規則正しい生活を心がける
- 夜更かし、深酒、食事を抜くなど不規則な生活は体調不良の原因になりかねません。
上記のような対策が必要ですが、しっかりと対策をしている高齢者は思いのほか少ないようです。
株式会社LIXILの「熱中症調査」(調査対象:70歳以上の親と離れて暮らす30代、40代の男女300人)では、自分の親が熱中症対策をしているかどうか尋ねていますが、約4割は「していないと思う」と回答しており、熱中症に対して正しい情報を周知することが必要と言えるでしょう。
また、半数以上の人が、自分の親の熱中症対策を心配だと回答しています。
| とても心配(9.7%) | |
| やや心配(50.0%) | |
| あまり心配でない(37.3%) | |
| 全く心配ではない(3.0%) |
一人暮らし高齢者は特に心配。行政による認知症対策が続々と登場
家族が同居している場合は、高齢者の情報を把握し、熱中症の対策をすることは可能でしょう。しかし、一人暮らしの高齢者はどうでしょうか。認知機能や体温調節機能が低下しているなか、自身で正しい熱中症対策を講じられるかどうか疑問です。
埼玉県行田市では、市民、企業、行政が協働し、熱中症対策を講じています。
「熱中症おたすけ隊2015」は、熱中症に関する正しい知識を教授する「市民けんこう大学」を修了した35名から成る部隊。
5グループ(各7人)に分かれ、行田市内各所で熱中症の応急措置などを含む出張講和を全17回実施、総受講者数は484人に達しました。
高齢者見守り強化策の一環として、東京都大田区では戸別訪問による熱中症対策を行っています。
一人暮らし高齢者を中心に、民生委員による啓発チラシの配布や声掛けのほか、地域包括支援センター職員や区職員が熱中症指導を行い、高齢者の状況によっては経口補水液を配布するなどしています。
また、外出時の猛暑対策として、区の高齢者施設を街なかの「涼み処」として開放するだけでなく、地域住民同士の交流の場としても活用しています。
気象庁発表の「異常天候早期警戒情報」を熱中症対策に活用する
最後に、認知症対策では欠かせない情報のひとつ「異常天候早期警戒情報」について触れておきましょう。
「異常天候早期警戒情報」は、原則として毎週月曜日と木曜日に、情報発表日の5日後から14日後までを対象として、7日間平均気温が「かなり高い」もしくは「かなり低い」と見込まれる場合に気象庁が発表します。
もしこの情報文のなかで熱中症への注意が呼びかけられている場合は要対策。
この情報はかなり信頼性の高いもので90%もの高確率で的中します。
関東甲信地方および東北地方の梅雨明けはこれから。
梅雨明け後は、厳しい暑さが予想されます。
熱中症対策は、正しい情報を得て、複合的に行うことが大切。
一人暮らし高齢者が増加するなか熱中症対策を高齢者自身に任せきりにするのではなく、時宜に応じて行政やボランティアなど周囲の力を借りることも一案です。
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2020年9月7日 制定