厚生労働省の「平成26年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等(通称、高齢者虐待防止法)に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」結果によると、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護療養型医療施設など高齢者用の介護施設に勤める職員が、利用者に対して虐待したとする案件が、2014年度の1年間で300件もあったとのこと。
これは、2013年度と比較して35.7%増という驚くべき数字であり、かつ直近の2年間では倍増、8年連続で過去最多…と、まったくありがたくない数字が並ぶこととなりました。

虐待が起こった理由は「教育、知識、介護技術の問題」が6割超。以下「職員のストレスや感情コントロール」「職員の性格や資質」「倫理観や理念の欠如」などが続いています。虐待した職員は30代以下が4割を超え、若い世代ほど多い傾向にあります。

高齢者虐待対策は待ったなし。今回は、高齢者虐待の現状とその解決策について考えていきましょう。
さまざまなファクターが重複して虐待が起こる。虐待の被害者は認知症高齢者
今月4日、UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)は、組合員を対象とした「高齢者虐待に関するアンケート」(回答者数348名で女性が75%)の結果を発表しました。
このなかで「高齢者虐待は、主に何が原因だと思いますか(3つ以内で複数回答可)」という設問があり、最も回答が多かったのは「業務の負担が重い(54.3%)」でした。
次いで、「仕事上のストレス(48.9%)」「人材不足(42.8%)」が続きます。
「認知症ケアやアセスメントの活用方法などの知識不足(29.6%)」は5番目に位置しており、前出の厚生労働省の調査結果(虐待が起こった理由の6割超は「教育、知識、介護技術の問題」)とは幾分ズレがあります。
これらの調査結果を鑑みると、知識不足だけでなく人手不足などに起因する業務過多、重いストレスなどさまざまなファクターが重複して虐待に至っていると考えるべきでしょう。

先の「高齢者虐待に関するアンケート」では、「高齢者虐待についての研修を(定期的にまたは過去に)受けていますか」という質問があります。
これに「受けていない」と回答した職員は13.5%いました。
高齢者虐待防止が声高に叫ばれるなか、職員の10人に1人は研修を受けていないという実態が見えてきます。
さらに、「高齢者虐待についての研修は、現状で十分だと思いますか」という質問に対しては「不十分である(「どちらかといえば不十分」と「不十分である」の合計)」と回答した職員は約半数に達し、研修の回数だけでなく研修のあり方についても今一度考え直す余地があるでしょう。

介護職は他職種より忙しい?精神的疲労を感じている介護職は約8割
「高齢者虐待に関するアンケート」においては、「業務の負担が重い(54.3%)」「仕事上のストレス(48.9%)」「人材不足(42.8%)」が虐待の主な理由となっていましたが、職員の就業実態を見なければ客観的に語ることもできないでしょう。
UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)が実施した「就業意識実態調査2016」は職員の業務負担を考えるための有用な資料です。
この調査では、介護業界に入って感じたこと(介護業界に入る前に持っていたイメージと現在感じている違い)について詳細に聞いています。
1日の忙しさ、残業時間が思っていたより「忙しい」「多い」と回答した職員はそれぞれ71.8%、50.7%。
さらに、休日出勤の回数が思っていたより「多い」と回答した職員は33.0%いました。
介護職に転職した人も回答者のなかにおり、他職種と比較して「忙しい」と感じている職員は一定数いると推測できます。
もちろん、これだけで「介護職は忙しい」と断定することはできませんが、71.8%もの職員が「忙しい」と回答している事実は無視できないでしょう。それに精神的疲労が思ったいたより「ある」と回答した職員は76.9%に達しました。
業務の負担が重くなり、勤務時間が長くなると、当然心理的ストレスを感じるようになります。
最悪の場合、精神疾患に至ることも。
厚生労働省の資料によると、介護を含む「社会保険・社会福祉・介護事業」の精神疾患の労災申請は、2010年度には85人でしたが、2014年度には140人にまで増加。
労災認定も2009年度の10人から14年度には32人に増えました。

これらのデータは、「業務の負担が重い」ことや「仕事上のストレス」を象徴するものです。人手不足だから、一人当たりの業務負担が重くなり、ストレスが溜まるという声も聞こえてきます。
現在、国が定める介護施設の人員配置基準は要介護者3人に対して職員1人。
この数字が適当かどうかは議論の分かれるところです。
いずれにしても、この調査結果からは増員をはじめ、何らかの方法で業務負担を軽くすることが虐待防止の有効策であると考えることができるでしょう。
高齢者虐待対策の基本である「高齢者虐待マニュアル」の存在を知らない介護職員は約2割
高齢者虐待の対策として真っ先に思い浮かぶのが「高齢者虐待マニュアル」の作成と周知。
「高齢者虐待に関するアンケート」によると、「高齢者虐待マニュアル」があると回答した職員は74.1%いた一方で「わからない」と回答した職員は21.6%いました。
また、高齢者の虐待を見つけた際には、市町村などに通報する義務(いわゆる「通報制度」)がありますが、このことを知っていた職員は81.0%。
約2割の職員は通報制度のことを知らない実態が見えてきます。

介護職員からの通報件数は1,120件(2014年)。2013年は962件で158件(16.4%)増加しました。上述の通り、未だ通報制度を知らない職員が一定数おり、虐待防止のためには教育制度の整備などさらなる改善が必要でしょう。
とはいえ、虐待は高齢者のプライバシーに関することであり、デリケートな対応が求められるのは事実。
通報者を保護する規定が高齢者虐待防止法には明記されていますが、職員が通報するのは勇気の要ること。
結局のところ、虐待を個人の問題として矮小化するのではなく、組織で考える問題と大きくとらえることが求められるでしょう。
人員を増やせば高齢者虐待は減るのか?多角的な分析が必要
認知症高齢者が激増するなか、何かしらの対策をとっていかなければ高齢者虐待は減らないでしょう。では、業務過多なら人員を増やせば、高齢者虐待はなくなるのでしょうか。
厚生労働省とUAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)の調査結果を基本にしつつ、職員の勤務実態も含め多角的に見ていくことが必要です。
高齢者虐待について、どのように職員の素養を考えるべきであるか。
高齢者虐待対策は、人の心にまで踏み込んで考えるべきものだけに、特有の難しさがあります。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 162件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定