厚生労働省は2月末、2017年度よりEPA(経済連携協定)外国人介護福祉士(以下、外国人介護福祉士と表記)の就労の場を介護施設だけでなく、訪問介護にも広げる方針を固めました。
現在は、特別養護老人ホームや介護老人保健施設といった介護施設のみでの就労しか認めていません。
利用者宅で個別対応となる場面が多い訪問介護は、安全性などに難があるとされてきましたが、介護福祉士国家試験に合格した者に限られます。
しかし、日本労働組合総連合会(連合)は「人権擁護および安全な介護提供体制の観点からも課題が多く認められない」「人権侵害が生じ、外交問題に発展する」などと依然反対しています。今回は、外国人介護福祉士の訪問介護解禁に伴う課題について整理します。
2014年度までに累計320人が介護福祉士国家試験に合格!
厚生労働省は、外国人介護福祉士の就労範囲拡大に必要な措置を検討中
厚生労働省で今月6日に開催された「第12回外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会」では、外国人介護福祉士の就労範囲に訪問介護を追加するに当たり必要な措置について検討されました。ここで示された主な課題を抜粋して紹介します。
- 利用者及び家族、介護職との連絡ノートへの記録や申し送りが適切に行えるか
- 記録作成時に正確な漢字の使用や日本語独特のニュアンスを伝えられるか
- 生活援助での調理において、日本人に合わせた味付けが可能か
- 体調急変時や緊急事態発生時(クレーム対応含む)に臨機応変に対応できるか
- 車両の運転、特に雪国での運転に不安はないか
- 小規模事業者では研修体制を整備するのが難しいのではないか
- 利用者の所有物が無くなり、犯人扱いされた場合、対応できるか
- 外国人に対して偏見を持っている高齢者にどう対応するか
どうやら課題は、技術面よりも「日本語によるコミュニケーション」や「日本の生活習慣への適応」など生活面がメイン。
訪問介護に従事するのは、外国人とはいえ、介護福祉士国家試験に合格した者です。
厚生労働省は「専門職という観点からは、介護福祉士としての就労範囲に制限を設ける理由は乏しい」とし、介護技術は介護事業所内でのOJTによる訓練で対応可能と考えているようです。
介護技術に不安はないが…。やはり、外国人介護福祉士の最大の難関は「日本語」
さて、外国人介護福祉士にとって最大の難関となっている日本語の習得。
EPAに基づく看護師、介護福祉士候補者などの受け入れおよび支援活動を行う公益社団法人国際厚生事業団によると、介護施設の約9割が日本語能力試験「N3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)」レベル以上を求めているという結果が出ています。
| N1(0.0%) | |
| N2(14.1%) | |
| N3(73.2%) | |
| N4(9.9%) | |
| N5(2.8%) |
- N1…幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。
- N2…日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。
- N3…日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。
- N4…基本的な日本語を理解することができる。
- N5…基本的な日本語をある程度理解することができる。
実は、入国時の日本語能力は、国籍によってバラバラ。
インドネシア人、フィリピン人は「N5」レベルでも可である一方、ベトナム人は「N3」以上に達しなければ入国できません。
ただし、2014年以前に入国したインドネシア人および2016年以前に入国したフィリピン人については日本語能力の有無は関係なく、主に現在活躍しているのは、入国時に日本語能力は低かったものの、努力によりカバーしてきた人たちと言えるでしょう。
介護福祉士国家試験に合格するほどの日本語能力があれば、訪問介護にも十分対応できると考えられているものの、訪問介護では個人宅で一対一での会話がメインとなってくるだけに、一定水準以上の日本語能力(例えば「N3」レベル)をこの際課すかどうか、議論されています。
EPAによる外国人介護福祉士を受け入れた施設を調査対象とした「2013年度巡回訪問調査」によると、労務担当者および外国人介護福祉士とも業務上の課題は「日誌、介護記録、事故報告書、ケアプラン等の作成」「利用者・家族への対応」「引き継ぎ・申し送りの実施」などと回答しており、ここでも日本語に関するものが目立ちます。

どうやら、今のところ、介護技術に関しては国家資格合格とOJTでほぼ対応可能と介護事業所は考えているようで、この辺は厚生労働省と見解が一致していると言えるでしょう。
訪問介護解禁に伴い、新たな研修や緊急時対応マニュアルの整備などが必要
外国人介護福祉士の訪問介護解禁に伴い、すでに外国人介護福祉士を受け入れている社会福祉法人は「マニュアルの再徹底」「利用者の信頼を得るまで職員2名体制で対応する」「携帯電話を貸与し、有事に対処する」などの方針を示しています。
連合などが懸念している人権擁護については、公益社団法人国際厚生事業団による「母国語における相談窓口の強化」「受け入れ施設への巡回訪問による確認(労務など)」を軸に対応する方針。
厚生労働省は、介護事業所に対して下記の対応を求める予定です。
- 日本の生活様式や習慣などを含む訪問介護研修
- 緊急時の対応マニュアルの整備
- 記録や報告事項の定型化
- 数回程度または一定期間、指導者が同行する
介護需要が増加するなか、人材確保はどこの介護事業所も抱えている問題。
外国人介護福祉士の担当業務が広がれば、受け入れに前向きな介護事業所もあることでしょう。
しかし、EPAはあくまで「二国間の経済活動の連携強化を目指した特例的な取り組み」であり、介護分野の労働力不足への対応ではない、ということは理解しておくべきです。
しかしながら、介護業界は外国人介護福祉士の受け入れを「人材確保」「将来の人材育成」と捉えているのが実態。これに対し、「EPAの趣旨を理解していないのではないか」という声も上がっており、本音と建前の狭間でもがいている姿も垣間見えます。
これまで見てきた通り、訪問介護解禁にあたって外国人介護福祉士にはクリアすべき課題があります。「外国人ヘルパーには訪問介護は難しいのではないか」という先入観を持っている人もいますが、現実はどうなのか、フラットな視点で検討することも必要でしょう。
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2020年9月7日 制定