政府は今年7月、介護事業者の海外進出を後押しする方針を決定しました。
主なねらいは「アジア健康構想」を立ち上げ、日本がアジア地域の急速な高齢化をふまえて、新しいアジア社会を作ることに貢献すること。
そして日本がより良い高齢化社会になるための人材確保を目的として、アジアと日本が相互に利益を得られるような連結性の高いアジア社会の構築を目指しています。
アジアと日本の高齢化社会に向けて
アジア各国は日本ほどではないものの高齢化社会が進んでおり、高齢化率は20%ほどになると予測されています。社会的な介護サービスの需要や、介護サービスの認知の向上も相まって、アジア全域での介護サービスの需要は約500兆円規模と試算されています。

中国では9.6%、タイでは10.5%の高齢化率ですが、年々日本を上回るスピードで高齢化が進行しており、いずれそれらの国でも介護サービスが必要になることは目に見えています。
とくに中国では高齢者の絶対数が1億4,000万人、60歳以上の人口が2億1,200万人と、日本の人口を上回る数の高齢者がいるとされます。
要介護者も3,500万人いるとの推計もあります。

日本からはきめ細やかで質の高い介護サービスの輸出を行い、アジア諸国からは外国人技能実習生をはじめとした介護人材を輸入するという、相互互恵的な考え方に基づいています。
介護サービスの海外輸出の課題
これに伴い、介護サービスの輸出が考えられています。政府が現地でのコーディネートや人材確保、教育、投資などの分野で支援し、介護事業者の海外輸出を後押ししようという考えです。とはいうものの、海外進出はうまくいくのでしょうか?課題はいくつかあります。
第一に日本の場合、介護関連サービスは、介護保険の上に成り立っている付加価値サービスであるという点が挙げられます。
介護施設、通所介護、訪問介護といった基本の介護サービスに上積みされた介護サービスであると考えられるのです。
このため、アジア各国での認知度の向上や、ニーズの把握には時間がかかることが挙げられます。
第二に、サービスの対象が富裕層に限られてしまうのではないかという懸念です。
第一の課題点で挙げられたように、基本の介護サービスにプラスアルファした介護サービスは、仮にサービスの認知度が向上してサービスが行き渡ったとしても、必然的に富裕層に限られたサービスになってしまうのではないかという懸念です。

第三に、市場が未開拓のアジア地域で介護事業者の海外進出を考える場合、さまざまな不慮の出来事が起こりうるということです。
市場が整備されておらず、高齢化社会も深刻な問題になっていない地域で、果たしてスムーズに介護サービスを導入できるかという問題点が挙げられます。
第四に、人材育成をどのようにするかという問題点があります。
介護サービスの場合は、人材の質がすなわちサービスの品質であり、アジア地域での人材育成にどれだけのリソースを割けるのかという課題が挙げられます。
ですがこれは、海外進出においての先駆者が数多くいることから、そうした先行事業者との連携によって解決されるべき問題かもしれません。
ビジネスとして成立するのだろうか?
日本の介護サービスは、国民皆保険の上に介護保険の制度が乗ることで運営されています。
その額はおよそ10兆円。
では、海外はどうでしょうか。
介護事業にまつわる様々な制度が整備されなければ、介護がビジネスとして成立しないのではないかという懸念があります。
利益がでなければ撤退せざるを得ず、介護事業者の海外進出は失敗に終わってしまいます。
アジア諸国で、まだまだ国民皆保険も整備されていない現状、日本の介護サービスの収益構造をそのまま海外に輸出するというのは不可能です。
前述のとおり、付加価値を創造して、海外の主に富裕層をターゲットにしたビジネスを展開していくのが、セオリーだと考えられます。
まずは国際規格の整備に主導権を持って
国際標準化機構(ISO)も、介護の国際規格づくりに乗り出しています。
政府も関係各省庁やメーカー、学会などから人材をISOに送り込み、国際規格で主導権を握ろうとしています。
ISOは、歩行支援器具やデータヘルス事業、訪問介護や介護用品等の製品に対してもISO主導による国際規格を進め、世界の市場をリードしようとしています。
2016年9月現在、具体的な国際規格に着手しようとしている段階であり、ISOの承認があれば、世界各国で介護サービスを有利に展開できます。
日本にはコンパクトな折りたたみベッド、リハビリ用のパンツなどの介護製品に強みがあり、そうした製品が国際規格化すれば、アジア諸国での海外展開も容易になるでしょう。
福祉用具のレンタルサービスなどの独自のサービスも増えており、海外進出しても通用する製品・サービスづくりのための国際規格への対応が求められています。
政府は日本がISOに対しての主導権を取りたいと考えており、これが実現すれば、介護事業者の海外進出の後押しにもなります。
現地政府とのネットワーク不足の解消と人材の問題
日本から、アジア諸国に進出している介護事業者は50以上にのぼります。
ですが、現地政府との連携がうまくいっていないケースも多いため、ネットワーク機能を政府がおぎなっていくことが期待されます。
外国人技能実習生が日本の介護の現場で働けるように法律を整備し、海外からの良質な人材の逆輸入も見込まれています。
そのためには、政府の支援が欠かせません。
また、経済連携協定(EPA)にもとづいて、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどから介護福祉士の候補者を受け入れています。政府は技能研修制度に介護分野を追加する方針で、人材育成と人材交流、人材の輸入などに力を入れていく方針です。
介護の国際展開は政府の成長戦略の一環
また、国際協力機構(JICA)や政府系ファンドの融資制度を活用してもらう考えです。
自民党などもアジア健康構想の一翼を担っており、公的介護制度のないアジア諸国に、日本のきめ細やかなサービスやケア技術、施設経営のノウハウを輸出していきたい考えです。
政府の思惑と海外展開したい企業の思惑が一致しているため、今後も介護サービス事業者の海外展開は伸びていくものだと思われます。

自民党はこの秋にも臨時国会の今年度第二次補正予算案にアジアの介護ニーズの高まりを正確に把握するための調査研究費を盛り込む予定でいます。
まずは現地での情報を収集し、分析して課題などを洗い出していく構えです。
より具体的な方策はまだまだこれからですが、今後は経済産業省・厚生労働省・外務省などの関係各省でより方策が整備され、検討が立案されていくでしょう。
今後の展開は、政府次第?
今のところ、民間の介護事業者が単独で海外に乗り付けてサービスを展開するのは厳しいといえるでしょう。
政府が主導で調査を開始し、課題点を洗い出して、整理・分析し、関係各省庁で方針を立案してから、はじめて民間介護事業者の海外進出がうまくいくことでしょう。
すでに日本政府も、大介護時代のアジアにターゲットを定めており、介護事業者にとってはグローバル展開を行えるチャンスになりそうです。
国内の介護は問題が山積していますが、500兆円とも試算されるグローバル市場の獲得競争に向けて、官民一体となって施策が進められていきそうです。
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2020年9月7日 制定