もはや国民病と言っても過言ではない認知症。厚生労働省の推計によると、2025年の認知症高齢者は700万人超に上る見込み。65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症患者という計算です。

認知機能が低下すると、日常生活のさまざまな場面において不都合が生じます。
自動車運転もそのひとつでしょう。
近年、高齢ドライバーによる自動車事故が相次いで発生しています。
その多くが、認知症の疑いのある高齢者でした。
今回は、高齢ドライバーの現状と課題について考察したうえで、認知症高齢者の事故リスクを社会でどう負担するか考えます。
高齢運転者の事故は若者の約3倍!高齢者が起こす事故の増加に対して道路交通法が改正
高齢ドライバーが運転する目的は「移動」だけではない
まずは、高齢ドライバーの現状について把握しましょう。生産年齢人口の減少、若者の車離れなどにより、若者ドライバーは減少している一方で高齢ドライバーは右肩上がりに増加中。それに伴い高齢ドライバーの自動車事故は、増加傾向にあります。

上の図の通り、高齢ドライバーによる事故件数は、16~24歳の若者の約3倍にも上ります。認知症患者が増加するなか、今後、高齢ドライバーによる事故がさらに深刻化する可能性があります。
多くの国民は、認知症患者は運転を中止するべきだと考えているようです。とはいえ、現在の日本は地方圏を中心に自動車依存社会であることは間違いない事実。高齢ドライバーは運転を中止したくてもできない事情も理解できます。
厚生労働省によると、高齢ドライバーの主な運転目的は「食品や日用品の買い物」および「通院」。この事実だけを見ると、代替するもの(例えば乗り合いバスや介護タクシー)を高齢ドライバーに与えれば問題は解決しそうですが、話はそう単純ではありません。
「自動車を運転する意味」について尋ねた厚生労働省のアンケートでは、自動車を移動手段と考えている高齢ドライバーは7割を占めたものの、「楽しみ」「生きがい」「自立を示すもの」といった回答も3割ありました。
つまり、個々人によって運転する意味が異なっていることがわかります。
運転を中止してもらうためには、運転する意味をしっかりと把握したうえで本人と話をする必要があるでしょう。
| 移動手段(70%) | |
| 楽しみ・生きがい・自立を示すもの(30%) |
「臨時認知機能検査」によって認知症と判断された場合は、免許取消しへ
2016年7月に閣議決定された改正道路交通法施行令により、信号無視や通行区分違反など一定の違反行為をした75歳以上の高齢ドライバーは「臨時認知機能検査」を受けることが義務づけられました。今年の3月12日に施行されます。
検査項目は「時間の見当識(検査時の年月日などを回答)」「手がかり再生(イラストを記憶し、一定時間経過後に回答)」「時計描画(時計の文字盤と指定された時刻を指す針を描く)」の3つ。
認知機能が「低下している」と判断された場合は医師の診察を受け、認知症と判断された場合は免許取消しなどの対象となります。
専門医にかかり、認知症だと判明した場合は、運転を中止すればよいですが、「認知症の疑いがある」場合は話が複雑になります。運転継続が可能であるかどうか詳しく調べる必要があります。運転免許更新時はその絶好の機会です。

道路交通法は、運転者が認知症だと判明した場合、都道府県公安委員会により「運転免許を取り消す」または「免許の効力を停止する」ことができると定めています。
しかし、実際に高齢ドライバーに法を適用すると本人の行動を大幅に制限することになるため、慎重な運用が求められることは言うまでもありません。
今後、免許更新をさらに厳しくすることも考えられますが、「運転する自由」まで制限することになりかねないだけに“行き過ぎ”という声もあるでしょう。ここにこそ、高齢ドライバーの運転中止を議論する難しさがあります。
認知症高齢者の鉄道事故を議論へ。安心して暮らせる社会を構築するために必要なことは?
認知症患者も加入できる民間保険の販売が開始

認知症高齢者が引き起こした事故は、誰が責任を負うのでしょうか。
2007年、愛知県で列車との衝突により認知症高齢者が死亡する事件が発生しました。
その後、原告のJR東海は認知症高齢者の介護に従事していた家族の監督義務責任を問い、遺族宛に損害賠償請求訴訟を提訴。
一審では家族に約720万円の損害賠償を命じていたものの、昨年3月の最高裁判決は、「遺族の賠償責任を認めない」(JR東海敗訴)という結果に。
裁判所は、家族の監督義務責任は個別に判断されるべきものと言及、今回のケースは「監督義務責任はなかった」と断じました。
国土交通省によれば、認知症高齢者が鉄道事故に関わった件数は2014年度で29件以上。この事例は鉄道事故のものですが、この法的判断は今後、自動車事故にも準用されるものと予想されます。
この判決を受けて、政府は省庁を横断した「認知症等にやさしい地域づくりに係る関係省庁連絡会議」を設置。
2016年12月に開かれた会議では「公的な補償制度は設けない」ことが確認されました。
併せて今後の施策(「事故の未然防止、早期対応」「事故後の損害への対応」)についても話し合いが行われました。
主な施策は以下の通りです。
1.事故の未然防止、早期対応
- 各市町村が連携し、都道府県レベルで徘徊や見守りを行う
- 認知症サポーターを増やし、活躍の場を広げる
- 運転免許センター内に医療系専門職員を配置して運転適性相談を実施し、認知症を早期に発見する
- 検知能力の高い障害物検知装置や非常押しボタンを設置し、高齢者が踏切などに取り残されないようにする
【解説】
認知症サポーターの増加を図ることにより、認知症についての理解を促進。地域住民が相互に協力し合うことにより、高齢者を包括的に支援する方針。
2.事故後の損害への対応
- 生活のあらゆる場面で損害が予想されることから、公的な補償制度は今のところ見送る
- 必要に応じて、個人として法的な賠償責任を補償するための民間保険の紹介、普及を行う
【解説】
認知症高齢者はさまざまなシーンで事故を起こす可能性がある。すべてのケースを補償するのは難しいことから、個々人による民間保険への加入を現状では推奨している。
民間の保険については、2017年から火災保険の特約として「個人賠償責任保険」の発売も決まりました。これは認知症と診断された人でも加入することができ、1か月の保険料は数千円となっています。
「認知症高齢者が通常取りうる行動パターンから予期されるものは社会で負担し、そこを超えたら本人側が負担(一定の範囲で加害者本人の賠償責任を肯定)すべき」
会議においてはこんな議論も噴出しており、政府内でも対応について苦慮している姿が見て取れます。
人口減少社会で認知症高齢者を支えるには
前述の通り、2025年の認知症高齢者は700万人超に上る見込み。65歳以上の認知症患者数は5人に1人とも言われています。今後、日本は人口減少が見込まれることもあり、認知症高齢者がそばにいる生活が普通のものとなるでしょう。
先の鉄道事故の判決では、「通常の介護をしている限り極めて例外的な場合を除いて監督責任を問われない」ことが示されました。
認知症高齢者や家族にとってはありがたい判決ですが、事業者にとっては歓迎できないものかもしれません。
このため、認知症高齢者が事故を起こすリスクを社会でどのように負担するべきか議論になっているわけです。
厚生労働省は、地域包括ケアシステムなどにより、認知症高齢者が最期まで暮らせる地域づくりを進めています。認知症高齢者が普通に暮らせる社会基盤はどのようなものか。政府任せにせず、私自身が向き合う必要があるのかもしれません。
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2020年9月7日 制定