外国人介護士、訪問介護以外の解禁も進むのか!?
現在、日本ではフィリピン、ベトナム、インドネシアの3国から外国人介護士の候補者を受け入れています。
EPA(経済連携協定)に従っての方針で、2017年の4月から外国人介護福祉士による訪問介護が解禁される流れを見るに、国は国家資格を与えて外国人介護士をいよいよ本格的に推進されそうな勢いです。
来年度以降はこれまで以上に大幅な議論が進むと見込まれます。とはいえ、訪問介護のように居宅に訪問して行うサービスである現場で、1対1でケアを行い、日本語に不慣れな外国人を雇うことに対して現場の不安はないのでしょうか。
行く末は“ブラック介護”なのか、それとも人材不足の解消につながる画期的な方策なのか。ニュースを読み解いてみました。
EPA介護福祉士の就労範囲に、訪問系サービスを追加
今回の規制緩和は、EPAによって就労する外国人労働者のうち、就労範囲を訪問介護にも広げるというものです。

昨年、入管法が改正されたことによって、在留資格として「介護」が創設されました。介護福祉士国家試験に合格した外国人が国家資格を有するものであることを前提として、介護または介護の指導を行う業務に従事することが認められることになります。

これまで外国人技能実習生の制度は、ほぼ形骸化しつつありました。
他の業種では、外国人技能実習生は3年といった期間で区切って、低賃金で奴隷のように働かせることが可能な、非人道的な制度になってしまっています。
海外への技能移転における教育を目的としたはずのこの制度が、過酷な労働となってしまっていることにはさまざまな理由があります。
この問題は、もともと、「教育のためなのだから、我慢せよ」という風に、ワーキングホリデーと同様、特定活動とみなされ、労働関係の保護の対象にならなかったのが起源とされます。
そもそも技能実習とは2010年7月には法改正が行われ創設された制度です。理念上はあくまで教育を受けるために来日し、事実上、労働法制が適用され、保護されるべき対象になったのです。

外国人技能実習生は、発展途上国の農村部から来ている貧しい人たちも少なくありません。
そのため、日本の劣悪な外国人技能実習生制度でも彼らにとっては大きな賃金となる場合があります。
仮に、彼らの本国では年収が数万円だとしたら、給与が月10万円だったとしても、1年間で長期間分の賃金を稼ぐことができるのです。
また、外国人技能実習生は送り出し機関に相当な金額を支払っています。これは表向きは禁止されているのですが、それを彼らは親戚などに借りて多額の借金を抱えた状態で日本にやってくるのです。そのため、残業にこだわる外国人技能実習生もいるようです。
外国人の労働環境は劣悪!?適正な技能実習とは
長時間化している労働環境が問題となっていることは国もすでに気がついており、介護における外国人技能実習生の受け入れを行うにあたって、厳密な検討が行われています。

たとえば、待遇の問題。
外国人技能実習生による介護福祉士は、日本人の職員と同等程度以上にしなければならないと有識者会議の報告書では明記されました。
また、住宅も企業側が準備する必要があるのですが、そうした住まいの確保に対しての税制上の優遇なども必要ではないでしょうか。
現在は狭いアパートに2段ベッドを押し込んで、詰め込むようにして暮らしている外国人技能実習生も多いのですが、そうした福利厚生改善への負担を誰が行うのかという問題もあります。
公費による留学生のように、あまりに自由に資金を投入しすぎると、別の問題が発生してしまいますが、せめて国内における住宅の問題は補助を出してもいいのではないでしょうか。
2016年11月に公布された「技能実習法」には、技能実習の適正な実施および技能実習生の保護を図ることが定めされています。
今後さらに、日本で良質のサービスを提供してもらえるよう、外国人介護福祉士の待遇の改善が望まれます。
これは、国外からの要請だけでなく、国内からも議論が起こってしかるべき問題ではないでしょうか。
外国人介護福祉士が提供するサービスの質を担保するには
外国人福祉士に求めるコミュニケーションはあくまで日本語
待遇面に加えて言葉の問題もあります。
日本語能力検定試験では日本語のレベルをN1(難しい)~N4(やさしい)に規定していますが、実習を開始する際はN4レベルに達していることが求められます。
これは「基本的な日本語を理解することができる」というレベルで、読むレベルは基本的な語彙や単語、漢字を使って日常的かつ身近な話題を理解することができ、聞くレベルはゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できるといったものを目安としています。
しかし、居宅のコミュニケーションに限っては、このレベルだと心もとないのは事実です。
そのため、2年目以降は、N3程度に至っていることを要件とすべきという提言がなされています。
ちなみに、N3とは「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」というレベルで、新聞などの見出しから情報の概要をつかんだり、自然に近いスピードの日本語を聞きまとまりのある会話が理解できたり、という段階です。
| N3 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる |
N4 基本的な日本語を理解することができる |
|
|---|---|---|
| 読む | ●日常的な話題について書かれた具体的な内容を表す文章を、読んで理解することができる。 ●新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる。 |
●基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。 |
| 聞く | ●日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる。 | ●日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。 |
1対1で居宅介護サービスを提供することから、外国人介護士にはある程度の語学力が求められます。
利用者とのコミュニケーションだけでなく、利用者や家族との連絡ノートや多職種連携の連絡ノートへの記録や、申し送り事項なども、介護の仕事の一環だからです。
これらに通訳をつけている人的リソースの余裕は、介護業界にはないでしょう。
翻訳AIなどの導入も、まだまだ実践に足るレベルには至っていません。記録を作成する段階で、正確な漢字を使うことができたり、ニュアンスを正しく伝えたりなどの伝達事項は、通常の会話における日本語よりも高度な能力を必要とするのではないでしょうか。
また、外国人介護士自身が自らを守るためにも、利用者の所有物が紛失した時などに、あらぬ疑いをかけられた場合などの対処なども求められます。
それは、外国人介護士が自ら進んで自分の身を守るほかないため、雇用を守るためにも、彼ら自身が自己の潔白を日本語で証明しなくてはなりません。
| インドネシア人介護福祉候補者 | ||
|---|---|---|
| 2015年度 | 入国人数 212人 | |
| 就労開始日 2015.12.9 | ||
| 2016年度 | 入国人数 233人 | |
| 就労開始日 2016.12.13~14 | ||
| 累計 | 入国人数 445人 | |
そして、日本人の好みの味付けの料理ができるかどうか、車両の運転について特に雪国での運転をアジア人である外国人介護福祉士ができるかという問題もあります。
味付けに関しては、ムスリムは宗教上、酒や豚肉食が禁止されており、日本酒や豚肉を使った調理ができないという難点もあります。
食生活の違いなども大きな問題で、まだまだ乗り越えるべき課題は多いといえます。
議論ばかりでは進まない!現場に入ってまずは対応策を
外国人介護士の受け入れ促進に関して、課題が山積だからといって、議論ばかりしていては前に進みません。現状ある課題を認識するためにも、まずは外国人介護士をある程度受け入れ、比較的高度な人材から導入していく方向へ向かっています。
段階的に解禁していくことで、課題と解決のすり合わせもできていくことだと思います。少子高齢化が進み、超高齢化社会に突入した日本で、もはや外国人介護士の雇用なしには未来は拓けていかないのではないでしょうか。
日本とアジアの健全な相互利益的な発展のためにも、慎重かつ大胆な解禁が求められるところです。外国人、特にアジア人は単なる安価な労働力という概念を捨てることから、人権意識を高めていくべき時期にきているでしょう。
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2020年9月7日 制定