高齢者になると複数の病気を抱えがち。必然的に処方される薬の種類・量も多くなり…
高齢者になると、体に不調が頻繁に訪れ複数の病気を抱えることが多いもの。
そのため、複数の診療科に通い多くの薬を処方されていることがあり、これをポリファーマシーと言います。
ポリファーマシー(必要以上に処方された薬を飲んでしまう状況)では、代謝が衰えて体の内臓が弱っている高齢者にとっては、体に大きな負担をかける可能性も否定できません。
若い人と同じだけの薬を飲んでも、臓器の働きが衰えた高齢者がたくさんの薬を飲みすぎると、意識障害、低血糖などの「薬物有害事象」というトラブルが起きがちです。
2016年1月には日本老年薬学会が誕生し、医療関係者の間でもポリファーマシーの問題に着目し、高齢者の薬の飲み過ぎを防いでいく取り組みがスタートしています。
高齢者は体の内部も弱っているものです。代謝、排泄等の機能が弱っているところに、薬をたくさん飲むと、薬が代謝されにくくなり、薬物の血中濃度が上がってしまいます。
つまり、若い人と同じ量を飲んだとしても、薬の飲み過ぎになってしまうのです。
薬の飲み過ぎを防ぐためには、処方された薬に優先順位をつけて、必要性などを見直していく必要があります。
また、食事の改善、運動を取り入れるなどして、生活習慣を見直していくことで、薬の飲み過ぎについて改善することができます。
具体的に、どんな有害事象が起きる!?
厚生労働科学研究によると、65歳以上の高齢者700人を対象に、薬の他剤処方・飲み過ぎで起こった主な有害事象を調べると、1位が意識障害で9.6%、低血糖で9.6%、肝機能障害で9.6%、2位が電解質異常で7.7%、3位がふらつき・転倒で5.8%。
意識障害や低血糖は命に関わる症状でもあり、特に注意が必要です。

そのような事態を引き起こす薬の飲み過ぎは、あらためて考え直さなければなりません。高齢者がより具合を悪くしてしまっては、重症化や要介護などの状態が進行してしまうからです。
さらに、2014年12月にある県の75歳以上の高齢者を厚生労働省がデータで分析したところ、3割近い高齢者が、10種類以上の薬を飲んでいることが判明。
この中には、成分や薬効がかぶっているものも数多く含まれていると考えられます。
たとえば胃腸の調整薬など。
そのため、同じような薬を倍以上飲んでいることになるのです。
そうすると副作用も重大になりますので注意が必要です。
実に10種類以上が3割と、数値の大きさを示しています。
| 1~4種類(31.3%) | |
| 5~9種類(41.4%) | |
| 10~14種類(20.2%) | |
| 15種類以上(7.1%) |
そして、薬を6種類以上飲む高齢者は薬物有害事象が多いのです。有害事象には意識障害や低血糖、肝機能障害などが多いことが、調査からわかっています。ポリファーマシーは大きな問題であり、高齢者の健康寿命を妨げるものです。
東京大学の調査によると、飲み薬の数が多くなるほど高齢者にとっては副作用がおきやすくなり、ふらつきや転倒などのリスクが高まります。また、認知機能の低下などが起こります。薬同士の相互作用のリスクがアップし、とても危険な状態になってしまいます。
医療機関も対策に乗り出したポリファーマシー問題
栃木県宇都宮市にある栃木医療センターでは、医師、看護師、薬剤師、地域連携室がチームを組んで、ポリファーマシー対策に乗り出しています。病院だけでなく、地域のクリニックや調剤薬局とも連携していきたい構えです。
2012年に、高齢者が薬の飲み過ぎによって深刻な副作用を起こしたことがきっかけとなりました。
具体的には、入院患者から5種類以上の薬を飲んでいて副作用のリスクがある高齢者をリスト化し、患者の同意を得て薬剤師らが今の薬や飲んでる理由に関して情報を収集します。
骨折の原因が、薬の飲み過ぎによるふらつきの副作用であるケースもあり、対策を行っていく必要があります。
ある高齢者は、脳梗塞の再発予防薬、血圧を下げる薬、コレステロールを調整する薬、胃炎をおさえる薬、爪水虫の薬、物忘れの進行を抑える薬などを一日の間に飲みきっており、酷烈な負担を体にかけていました。
それを、総合診療医の診察を中心に家族らと相談しながら、薬の見直しを根本的に行った結果、ふらつきを生み出しているのは血圧の薬が影響していると考えた総合診療医は、ふらつき副作用のある爪水虫の薬をやめて、血圧の薬と胃薬を半分に減らし、脳梗塞の薬などの3種類だけを残すようにしました。
栃木医療センターでは、平均して9錠から5錠に薬を減らし、そのおかげで具合が良くなった高齢者も数多くいます。
医師も驚いており、薬を減らすことには大きな効果があります。
ですが自己判断は危険であり、あくまで医師や薬剤師と相談しながら、使っている薬をすべて報告し、自己判断で薬を中止しないことが肝心です。
1人の患者が1ヶ月に1つの薬局で受け取る薬の数は、75歳以上の場合、5種類以上が41.7%をも占め、複数の病気をかかえて、内科、整形外科、耳鼻科などの複数の医療機関を受診し、複数の薬を処方されています。
診療を行う医師側としては、患者が他にどの病院にかよって、どのような薬を処方されているのか、何らかの手段で知らないことには、多剤処方を防ぐことができず、そのまま薬を出してしまいます。

そうしたことを防ぐために、お薬手帳などがあるのですが、それも薬局ごとにお薬手帳を使い分けているケースもあり、なかなか薬の全貌を把握できないという現状があります。
高齢者の安全な薬物療法のガイドラインを策定
日本老年医学会は、高齢者の安全な薬物療法ガイドラインを作成し、特に慎重な投与を要する薬物のリストを策定しています。
使っている薬が使用法の範囲内か、効果の有無はどうか、減量や中止は難しいか、代替薬はあるか、患者の同意は得られるかなどをチャートにして、「継続」、「使用の減量・中止」、「代替薬による継続」、「別の薬に切り替え」、「継続」などの使用判定を行います。

これにより、処方の流れを図式化し重い副作用が出る薬も、すぐに服用を中止するのではなく、現在の高齢者による服用の状況がどうなっているかを検討しつつ、見直していく流れができます。
医師にこのようなガイドラインが配布されているため、患者や患者家族である私たちも薬を処方される際には十分に気をつけたいものです。
ついつい、医師を信頼して使ってしまう
このポリファーマシーの問題は、患者側のリテラシーの問題も含まれます。医師を全面的に信頼するのではなく、はなから疑ってかかるのでもなく、高齢者の身を守るためにも、多剤処方で薬を飲みすぎている状態に陥らないよう、配慮していく必要があります。
病院にかかって医師に出された薬は、ついつい信頼して、何も考えずに飲んでしまいがちです。ですが、多くの診療科をかけもちで回ることにより似たような薬、たとえば胃腸薬などが同時に出されていることも多いのです。
自分が今飲んでいる薬はかならず医師にすべて伝えて、薬の飲み過ぎにならないよう相談していく必要があります。
薬を小分けする服薬カレンダーや、お薬ケースなどを併用していくと良いでしょう。
服薬を補助してくれるアイテムは、老年医学会も薬の飲み間違いを減らせるとして推奨しています。
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2020年9月7日 制定