中途採用が8割を占める、介護業界の実情
公益財団法人介護労働安定センターが介護労働の実態について調査しています。
それによると、訪問介護員、サービス提供責任者、介護職員、看護職員、介護支援専門員、生活相談員などの介護にまつわるさまざまな職種のうち約8割以上が、中途採用であることがわかりました。

中卒、高卒あるいは大卒であっても介護職員になることはできます。しかし、特に大卒の場合は新卒カードが非常に重視される日本の雇用状況も相まって、一般的にホワイトカラー労働のほうに就職希望者が流れがちです。
介護ニーズの一方、他産業の影響もあって人手不足に
そのために新卒で介護業界に入ってくる人は少なく、8割が中途採用という結果になっているのです。
介護職は履歴書にブランクがある人や他業種からの転職、あるいは高齢になってからの再就職でも比較的正社員の職に就くことが容易だということもこのような状況の一因となっています。
職業訓練の訓練コースやハローワークの求人も数多くあり、介護ニーズの高さを実感させられるところです。
しかし、その状況下において有効求人倍率が1.49倍を超える事態。企業が人材を広く求めている状況のため、なかなか介護に人が集まらないという状況になっています。
結果として介護業界は慢性的な人手不足に。
業務もまだまだ前時代的な手作業の文化が根付いていることから非常に効率が悪くになっていることに加え、お世話できる人数が限られていることが要因であることが考えられます。
介護は事業規模が大きいほど利益率が上がるのですが、その事業拡大のための人が集まらないという悪循環に陥ってしまう可能性があります。
また、中途採用が多いということから、介護職員の平均年齢も高くなってしまうと推測されます。
介護から介護への転職はほとんどない!
では、介護業界にやってくる人はどのような業界からやってくるのでしょうか。
同調査によると、前職、職歴がある方が82.3%となりました。そのうち、介護以外の業界からやってきている人が約52.8%となりました。詳しく見ていくと、介護関係からの転職は28.3%となっており、約3割にも満たないという結果に。

これはつまり、介護の職から介護の職へ、ステップアップや横すべりをしていく人はほとんどいないということなのです。
いかに介護職の定着率が低いかということがわかるでしょう。
中途採用が約8割を超えている中で前職に介護を経験している人の割合が3割を超えないということが、介護職の実態を明らかにしているようにも思います。
介護は他業種で失業した人々の”受け皿”に?
一方全体で見ると遥かに他業種からの転職が多く、失業やリストラ、持病などの関係で一度キャリアをリセットしたいと考える人の受け皿になっているという側面もあるでしょう。
日本の雇用状況は非常に硬直化しています。新卒で企業に入れば、そこで定年まで勤め上げる終身雇用モデルを念頭において成果評価をおこなっている企業が多いのです。転職もする人は増えたとはいえ、まだま若年層の間だけの話です。
そして、中高年になって会社をリストラされたり会社が倒産したりすると、元の待遇で迎え入れてくれる会社はなかなか見つからないのが現状です。介護以外の業界は職能給が一般的で、これはまた属人的な給与体系と言えるでしょう。
そのため、年齢が上がっていくに連れて賃金も上昇するので、高年齢の方が転職すると高待遇提示しなければならず、中高年になると受け入れてもらえなくなっていくのです。
その点介護は職務給が一般的です。
ケアスタッフやケアマネージャー、施設長などの職務と職階に応じて仕事や給与が決まります。
これは同一労働同一賃金が進んでいるということでもあるので、介護の現場に関しては仕事の流動性が高いのです。
しかし、それは同時に会社、つまり介護の職を辞めることが容易だということをも意味します。
人が定着しないのは問題ですが、見方を変えれば、労働条件が悪い施設をどんどん辞めて他の働きやすい職場に移っていけばいいという考え方にも寄与するのです。
介護の職だからといって慣れない環境下で無理をして働く必要はないのです。
劣悪な人間関係で介護を離れる…
介護労働安定センターは、前職を辞めるに至った理由まで踏み込んで調査しています。
それによると「結婚・出産・育児」を理由としているが26.4%ともっとも多く、日本のあらゆる企業で一度結婚や出産のために仕事を離れると、なかなか元の職場に復帰することができないという日本型雇用の問題点が浮き彫りとなってきます。
介護はそうした人たちも受け入れることができ、新たなキャリアを形成していくことができる職種のひとつなのです。

そして重要なポイントは、前職が介護関係の仕事をしている人の場合、「職場の人間関係に問題があったため」という理由で職務を離れている人が23.9%にも及んでいるという事実です。
一緒に働く同僚との人間関係で悩んだ挙句に辞職、他の職場に移ろうと考える現実が如実に現れているといえます。
人間関係や効率化を含めた環境改善が必要!
ここまで介護業界における中途採用の状況と、前職を辞めた理由やどのような職種から人材が流入してきているのかを見てきました。では、転職すること事態は「悪い」ことなのでしょうか?
職業選択の自由が拡大する現代において、それ自体が悪と考えられることはほとんどありません。
「会社には最低でも3年は勤務しなくては、次が見つからない」という時代でもないのです。
適合しない職場なのであれば、他に移る選択をすることも以前ほど問題視されることはないでしょう。
多数のジョブホッパーを生み出してしまうことに懸念はありますが、自分に合わない環境で介護労働をいつまでもがんばってしまうと、うつになってしまったり、人間関係が余計にこじれたりしてしまいます。
そしてなにより、我慢して劣悪な職場に居続けると、介護施設側が職場環境を向上する努力を怠り、ブラック企業化を招いてしまいます。
介護職員にはキャリアアップも可能なキャリアパスが整備されています。
上流職ほどパソコンや外回りなど、現場とははなれた業務になってしまいますが、キャリアパスの通りに昇格していけば給料アップも不可能ではありません。
自分に合う職場が見つかればじっくりと腰を据え真剣にキャリアアップを考えるべきでしょう。
介護業界は、依然として人手が不足しています。どこの現場からも採用できない、人数が足りないという声が上がっていますが、その内実では人間関係で闇がはびこり、人材が育っていないという面があるのです。
しかし、問題となるスタッフがいるということ以外に、非効率な職務状況も人間関係を悪化させる原因になるのではないでしょうか。
業界全体で効率よく、なおかつ気持ちよく働けるように環境を整備していく必要があります。
そうした改善を続けていった先に賃金も上昇し、社会的地位や評価なども変わってくるのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定