
高齢者とペットの関係では、2つの論点があります。
ひとつは、皆さんも存知の通り「アニマルセラピー」による高齢者の心身に対する好影響。
もうひとつは、飼い主が高齢化することでペットを飼うことが難しくなり、止むなく保健所に引き取ってもらったり、道端に捨ててしまったり…といった悪影響。
つまり、人が動物を飼うということには大きなメリットがある反面で、不幸な犬猫を増やしてしまうデメリットがあるという、いわば表裏一体の面に成り立っているのです。
現在、日本国内でペットとして飼育されている犬猫の数は、推計で、犬が1200万頭前後、猫が1000万匹前後と言われています。
潜在的に犬猫をはじめとしたペットを飼いたいと思っている人は現状の2倍以上とも言われており、今後ますますペットを飼う人は増えてくると考えられます。
確かにペットとしての犬猫はカワイイものですし、それが子犬や子猫ならなおさらです。
高齢者の心身を癒すことにもつながるでしょう。
ペットショップに行けば、簡単に購入することもできます。
しかし、その前に一度、ペットを飼うということがどういうことなのかをしっかり考えて欲しいのです。
そこで今回は、日本のペットを巡る現状について検証するとともに、高齢者がペットを飼うことのメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
高齢者層にとってのペットは、癒しの存在であるとともにアニマルセラピーの効果も!
ペット飼育者の約6割は50歳以上のシニア層!?
2010年と少し古いデータにはなりますが、環境省が行った「動物愛護に関する世論調査」によると、現在、ペットを飼っていると答えた人は1939人のうち34.3パーセントに上る約665人。
以下のデータからは、50~59歳層では全体の44.5パーセントもの人が、何かしらのペットを飼っていると回答しています。

これをさらに、動物を飼っていると回答した人の年齢別の割合を見てみると、60歳以上の人が6割近くもの割合を占めていることがわかります。
| 20-29歳(69人) | |
| 30-39歳(88人) | |
| 40-49歳(119人) | |
| 50-59歳(147人) | |
| 60-69歳(149人) | |
| 70歳以上(93人) |
ペットを飼うためにはお金がかかるもの。ペットショップで犬や猫を買おうと思ったら10万円以上かかることは普通ですし、飼い始めた後にもごはん代や避妊去勢の手術代、予防接種代、ペットが病気にかかったら診察代…と、あらゆる場面で費用がかかってきます。
昨今の経済事情を見ても、若い世代でペットを飼育したいと思う人がいても、経済的事情や住宅事情などを含めてハードルが高くなっているのが現状。そう考えると、子どもが独立して自由にできるお金が多いシニア層に、ペットを飼育する人が多いというのも頷けますね。
ペット飼育者の約6割は50歳以上のシニア層!?
同じく「動物愛護に関する世論調査」では、動物を飼うことによるメリットについてのアンケートも行われています。その結果は以下の通り。
| 生活に潤いや安らぎが生まれる(1190票) | |
| 家庭がなごやかになる(1072票) | |
| 子どもたちが心豊かに育つ(915票) | |
| 育てることが楽しい(612票) | |
| 防犯や留守番に役立つ(498票) | |
| お年寄りの慰めになる(478票) | |
| ペットを通じて人付き合いが深まる(461票) | |
| 友達になれる(349票) | |
| 繁殖させることが楽しい(37票) | |
| その他(31票) |
総じて、「生活に潤いや安らぎが生まれる」という回答が最も多く61.4パーセントを占めているのが特徴的。「家庭がなごやかになる」「子どもたちが心豊かに育つ」といった回答が続き、第6位に「お年寄りの慰めになる」という回答がランクインしています。
こうして見ると、精神的な豊かさにつながるメリットに注目している人が多いように思えますが、昨今では、ペットと触れ合うことで身体的な好影響につなげる「アニマルセラピー」についても、定量的なデータが着々と集まりつつあります。
国の機関による集計はまだ先の話になりそうですが、ここでは「NPO法人介護高齢者ドッグセラピー普及協会」と「北海学園大学」の研究レポートから、高齢者への健康増進効果についてご紹介しましょう。
アニマルセラピーの効果を実証する研究が続々!ペットが身体的な好影響をもたらすことが明らかに
ドッグセラピーが認知症高齢者のADL向上に直結!?
「NPO法人介護高齢者ドッグセラピー普及協会」が行ったのは、「ドッグセラピーによる認知症高齢者に対する生活意欲の向上とリハビリテーション効果の調査研究」。
会話によるコミュニケーションが難しくなったり、認知症によって著しく生活意欲が低下したりしている高齢者に対して、アニマルセラピーがどのような効果をもたらすのかを調べたものでした。

研究の手法としてはかなり精緻なデータが用いられており、計算・集計も煩雑なものになっているので結果だけご紹介すると、「言語による意思疎通ができても、ある程度の意欲がみられない症例には、ドッグセラピーが有効であると考えられた」と結論づけられています。
普段は介護されることに抵抗があり着替えや入浴・髭剃りなどの介助を拒否する高齢者でも「犬が来るから」というひとことだけで、それらの介助がスムーズに行えるようになったとのこと。
また、セラピードッグが部屋に来る時にはすすんでベッドの上に腰掛けるといった自発的に行動するケースもあったそうです。
犬によるセラピーでは、例えば理学療法士や作業療法士といった人間によるリハビリにおける“言葉”のコミュニケーションが不要になるのが一番のメリット。
犬が全身を使って表現する“無償の愛情”が認知症高齢者の心に訴えかけ、結果として本人のADL(=日常生活動作)の向上につながったのです。
アニマルセラピーを導入すれば1350億円も医療費が削減される!?

一方、「北海学園大学」が行った研究では、アニマルセラピーを行うことによって高齢者の健康増進効果が生まれ、それによってどのくらいの医療費削減につながるか?というものでした。
こちらも結果からご紹介すると、推計ではありますが全国的に「医療費削減につなげられる」という結論に達しています。研究フローを簡単に記すと
アニマルセラピー導入
↓
アニマルセラピーに参加した高齢者の通院減少回数を推計
↓
各都道府県におけるアニマルセラピー参加可能高齢者数を推計
↓
アニマルセラピー導入による総医療費削減額を推計
↓
犬・猫の育成、運営コストを推計
↓
費用対効果と純医療費削減額を推計
というものでした。その結果、アニマルセラピーを全国的に展開することで、犬猫の育成や運営コストを差し引いても総医療費は1350億円の削減につながるだけでなく、19万頭以上の動物の需要が発生するとの推計が出たのです。
高齢者に対する効果が生まれるのはもちろん良いことですが、多くの動物に需要が生まれるということがわかったのは、ある意味では副産物とも考えられるでしょう。
というのも、全国では今も、保健所で殺処分を受けたり、道端で自動車に轢かれたりして命を落としてしまう不幸な犬猫が15万頭以上いるから。
それこそが、これからご説明しようとしていた、高齢者が動物を飼うということのデメリットについてです。
高齢者の中には、ペットの“飼育難民”が増える懸念も。不幸な動物を少しでも減らすためにアニマルセラピーが有効?
高齢者は特に考えたい、ペットを飼う際の2つの心得
下記のグラフは、全国における犬・猫の引き取り数、そして殺処分率の推移です。右肩下がりでもお分かりの通り、引き取り数・殺処分率ともに低下しており、不幸な死を迎える犬・猫の数は着々と減ってきています。

この背景には、動物を飼うということの倫理観が徐々に浸透したことに加え、2013年には動物愛護管理法が改正となり、飼い主にはペットを最期まで面倒を見るという責任が生じるという旨が明記されることになったこともあります。
この法改正によって、各自治体にある保健所や動物管理センターは、ペットの引き取りを断れるようになりました。とは言っても、それでも引き取り数が17万6000頭、そのうち殺処分となってしまう犬・猫が13万頭近くいるのです。
前述のように、アニマルセラピーの普及によって犬・猫に需要が高まれば、殺処分を受けなければならないペットも減ることにつながるでしょう(セラピードッグ・キャットになるには性格やしつけなどのハードルがあるため一概には言えませんが)。
また「動物愛護に関する世論調査」でも、飼えなくなった犬・猫の処置について、「保健所や動物管理センターに引き取ってもらう」と回答している人が600人近くに上っていることを見ると、未だに「飼えなくなったら行政に引き取ってもらえば良い」と楽観的な考えを持っている人が多いのが現状なのです。
| 新たな飼い主を探す(1278票) | |
| 動物愛護団体に引き取ってもらう(1008票) | |
| 保健所や動物管理センターに引き取ってもらう(588票) | |
| 自然の中などに放しに行く(33票) | |
| その他(17票) | |
| わからない(58票) |
例えば、高齢の飼い主に介護が必要になったり、病気による入院が必要になったりしたら…。アンケートのように、「行政に引き取ってもらえば良い」「愛護団体に引き取ってもらえば良い」などと考えている人もいらっしゃるのではないでしょうか?
前述したように、今は飼い主に「最期まで面倒を見る」という責任が生じているので、そうした考えは改めて欲しいものです。
そのために昨今では、ニュース:年老いたペットが余生を過ごす「老犬ホーム」が全国で続々!でもご紹介したように「老犬ホーム」という施設が一般化してきていますし、ペット可の老人ホーム・介護施設も増えてきています。
「みんなの介護」でも、ペット可の老人ホーム・介護施設への入居を希望される方からのお問い合わせをいただくことが多く、実際にご案内したケースもあります。
しかし、そうしたペット可の老人ホーム・介護施設の数は決して多いわけではなく、また人気のために満室となっているケースも多々あります。
だからこそ、将来的な展望も含めてのペットの飼育を考えて欲しいのです。
ペットを飼う時は最期まで面倒を見る覚悟を持つ
飼い主に介護や入院が必要になった場合に誰がペットの面倒を見るのかを決めておく
考えるべき…といっても、気をつけたいのは主に上記の2点です。たったこれだけのことですが、されど最も大事なポイント。これからペットを飼おうと考えている人はもちろん、今現在ペットと過ごす毎日を楽しんでいる方も、今一度、真剣に考えてみてください。
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2020年9月7日 制定