「高齢社会対策大綱案」の全容が明らかに
「高齢社会対策大綱案」とはどういうもの?
1月16日、高齢者施策の中長期的指針である「高齢社会対策大綱案」の全体像が明らかとなりました。
社会保障費の増大化が進み、団塊の世代が75歳以上となる2025年を迎えようとしている中、政府はどのような施策・数値目標を打ち出していこうとしているのか、その内容に注目が集まっています。
「高齢社会対策大綱案」とは、政府が推進すべき基本的、総合的な高齢社会対策の指針として定められるもので、高齢社会対策基本法に基づき政府が作成します。
最初の大綱が策定されたのは1996年。
経済社会情勢の変化に応じて、その5年後の2001年に最初の見直しが行われました。
さらにその10年後の2011年に2度目の見直しが行われることが閣議決定され、翌2012年に大綱案が策定されたのです。
この2012年時の見直しにおいて「5年を目途に必要があると認めるときに改定を行う」ことが定められ、今月16日に全容が判明した大綱案は、それに則って2017年内から作成が進められていたものです。
「高齢社会対策大綱案」は以下の6つの考え方によって準じる形でまとめられています。
- 「高齢者」の捉え方に対する国民の意識改革
- 老後の安心を確保するための社会保障制度の確立
- 高齢者の意欲、能力の活用
- 安定的な地域社会の実現(地域コミュニティの再構築)
- 安全・安心な生活環境の実現
- 「人生90年時代」への備えと世代循環の実現
「高齢社会対策大綱案」のポイントは基本的施策と数値目標
今回判明した「高齢社会対策大綱案」の具体的な内容をみると、そのポイントは大きく分けて基本的施策と数値目標の2つに分けられます。
基本的施策としては、以下の通りです。
- 年金の受給開始年齢を70歳以降でもできるようにする
- 介護職員の処遇改善を行い、人材を確保
- 仕事と介護の両立を可能とする雇用・就業環境を整備
- 起業の意欲を持つ高齢者に対して日本政策禁輸公庫の融資を含む資金調達の支援
- 副業・兼業を普及促進
- 介護基盤およびサービス付き高齢者向け住宅を整備
主な内容は年金の受給開始の年齢についての選択肢を追加したり、高齢者の世話をするために離職する介護離職への対策、介護職員の増加を方針とするようです。
また、数値目標については2020年までの達成を目指す形で設定されており、以下のように設定されています。
- 60~64歳の就業率を67%にまで引き上げ
- 健康寿命を1歳以上延伸し、2025年までに2歳以上延伸
- 40~74歳の検診純率を80%まで引き上げ
- 介護職員数を231万人まで拡大(2015年時点では183.1万人)
- 認知症サポーターを1,200万人まで拡大
- ロボット介護機器の市場を500億円規模まで拡大
数値目標では、増加する高齢者対策として介護職員や「認知症サポーター」の拡大、ロボットやデータを使って患者に対応する「科学的介護」といった、健康上の問題がない状態で生活することのできる「健康寿命」を伸ばすことに力を入れています。
「高齢社会対策大綱案」による介護人材の補充
介護職員を補充して超高齢社会の対策を
まず注目したいのは介護職員数の数値目標です。大綱案では2020年までに、2015年時よりも50万人増やすという大きな目標が掲げられています。介護職員数をこれほど増加させようとする背景にあるのが、日本における超高齢社会の進展です。

「平成29年高齢社会白書」によれば、2016年時点の高齢化率は27.3%ですが、2020年には28.9%、2025年には30.0%と年々増加していき、50年後の2065年には38.4%が高齢者になる見込みとなります。
少子高齢化が進む中で、一つの山場となるのが2025年。およそ800万人いる団塊の世代が75歳以上となり、それに伴い要介護状態となる高齢者も激増すると見込まれています。
それを示す根拠として、「生命保険文化センター」の調査によると、介護保険の要支援・要介護の認定を受ける人の割合は、60代のうちは3%未満にとどまりますが70代に入ってからどんどん上昇していき、85歳以上では60.0%まで達してしまうのです。
2025年を迎え、要介護状態になる高齢者数が急速に増加した場合、当然、それを支える介護職員も多数必要になるわけです。介護職員を増やそうとする背景には、こうした日本社会が直面しつつある抜き差しならぬ事情があります。
高齢化と共に増加する認知症患者への対策
介護関連でもう一つ注目したいのは認知症サポーターを1,200万人まで増やそうとしている点。認知症サポーターとは、認知症に関する知識を持ち、地域に住む認知症の人とその家族を手助けする人のことです。
「全国キャラバン・メイト連絡協議会」が行う「認知症サポーター養成講座」に参加することで、誰でもなることができます。
認知症サポーター養成講座は、全国各地の公民館などで地域住民向けに開講されているほか、小、中、高等学校の授業の一環として、あるいは高齢者が利用することの多いスーパーマーケットや金融機関で働く従業員の研修として、導入されていることも多いのです。

この認知症サポーターを増加させることが大綱案に盛り込まれている理由は、やはり全国的に認知症の有病者数が年々増えているからに他なりません。
「平成29年高齢社会白書」によると、認知症患者の数は2015年時点では少なくとも517万人、2020年では602万人、2025年には675万人に達すると見込まれています。
その後も高齢化率の上昇と共に有病率は高まっていき、悪くすると2050年には1,000万人に届く可能性もあるようです。2050年の推計人口は1億192万人ですから、日本人の10人に1人が認知症を発症しているという計算になります。
このような社会の到来に国民全体で対応していくためには、認知症サポーターのような、認知症に理解のある人を社会の中に一人でも多く増やし、認知症患者を支える地域社会を構築していく必要があるわけです。
国が高齢者の就業率を高めたい理由
社会保障費を抑える方法は高齢者の就業率にある?
高齢者の就業率を高めたいと考える背景には、社会保障給付費が年々増加し、国民生活、そして日本の財政を圧迫している現状があります。
社会保障給付費は、「年金」、「医療」、「福祉その他」の3つの項目から成り立っているわけですが、その負担の内訳は、全体の59.4%が保険料、そして残り40.6%が国と地方自治体の負担、すなわち税金です。
社会保障給付費の増額化は、保険料負担増、税負担増として国民に重くのしかかります。
この社会保障給付費を下げることに国は力を入れています。

なぜなら、社会保障給付費の推移を見ると、1970年では3.5兆円、1990年では47.4兆円、2010年では105.2兆円と、ここ40年間は急速に増え続けており、将来的にさらに増加していくと予想されるからです。
注目するべきなのは、特に伸び率が著しい「年金」と「医療」。
社会保障給付費の増大化を抑えるには、この2つの給付費をできるだけ抑えることがカギとなります。
高齢者の負担を上げることで社会保障費を抑制
「医療」と「年金」の社会保障給付費を抑える方法の一つとして、高齢者の就業率を高めることが挙げられます。なぜかを「医療」と「年金」に分けて説明していきたいと思います。
まず「医療」に関しては、2017年8月に高額療養費制度が改正されました。
この改正のポイントは、所得の多い高齢者ほど医療費の自己負担限度額の上限が高くなり、より多く負担せねばならなくなること。
働いている高齢者は当然所得が多いので、負担増となる割合が高まります。
今回の「高齢社会対策大綱案」の中で高齢者の就業率アップが盛り込まれた背景には、「元気な高齢者にはできるだけ働いてもらって、所得が多い分、医療費を多めに負担してもらう」という形で、社会保障給付費における「医療」の支出を抑えようという意図があると言えます。
健康寿命を伸ばして年金の受給開始年齢を遅らせる
では「年金」についてはどうでしょうか。
こちらは今回の大綱案にある「年金の受給開始年齢を70歳以降でもできるようにする」という項目と深く関わっています。
高齢者に60代、70代になってもずっと働き続けてもらい、年金の受給開始年齢を遅らせると、年度あたりの社会保障給付費の支出を抑えることにつながります。
定年を迎えたからといって悠々と年金生活を送るのではなく、体が元気な限り働いてもらうことで社会保障給付費の「年金」の支出を抑えたい…。こうした政府の思惑も、今回の大綱案の中に就業率を高める項目が入れられた背景として考えられるのです。
今回は、「高齢社会対策大綱案」の内容について考察していきました。
高齢者の健康寿命が伸びることは良いことです。
しかし、「年金を満額受け取れない」ことや、「高齢になっても働かなければいけない」など、今まで高齢者が得ていた権利を受け取れないことに疑問を持つ人もいるはずです。
まだまだ、この問題については議論の必要があると言えます。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 14件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定