日本医療政策機構が終末期についてのアンケート結果を公表
成年男女1,000人が在宅での看取りが難しいと回答

民間シンクタンクの「日本医療政策機構」は、自身の終末期に最期の時を自宅で迎えられると考えている人が23%しかいなかったとのインターネットによる調査結果(昨年11月実施、成年の男女1,000人を対象)をまとめました。
現在、特養などの介護施設が不足する中、国・厚労省は、施設から在宅へとケアの場を移すことを重視しつつある傾向にあります。しかし、実際のところは自宅で介護を受け、そのまま看取りまでしてもらうのは難しいと考えている人が大半を占めているのが現状なのです。
内閣府が2012年に行った「高齢者の健康に関する意識調査(全国の55歳以上の男女を対象)」によれば、「日常生活を送る上で介護が必要になった場合、どこで介護を受けたいか」、という問いに対して、「自宅で介護して欲しい」と考えている人は男性42.2%、女性30.2%となり、回答中において最多(複数回答)となっています。
また、「最期を迎えたい場所はどこか」という問いに対しても、最も多かった回答は「自宅」で、全体の過半数となる54.6%に上りました。
自宅で介護を受け、最期の時を迎えたいと思っている人は多いですが、その一方で、「どうせ自宅で最期を迎えることはできない…」と考えている人も非常に多いのが実情と言えるでしょう。
終末期医療について世間の関心は高い
また、今回の調査によれば、「安楽死」(終末期に医療措置よりも苦痛の除去を優先すること)、「尊厳死」(延命措置を拒否して自然死を迎えること)、「リビングウィル」(生前の意思。
安楽死や尊厳死を望む場合、事前にその意思を周囲の人に伝えておく、または文書で書いておくこと)といった言葉について、「知っている」と回答した人は90%(それぞれの言葉の意味を理解している人は49%)に上りました。
人生における終末期のケア、いわゆる「ターミナルケア」に対する世間の関心は高く、自らの介護、そして最期のあり方について真摯に考えようとする人が増えつつあることが、この調査結果から読み取れます。
しかし、先のアンケート調査結果を踏まえると、介護や看取りのことを現実的に考える人が多い一方で、「在宅で望ましい介護、看取りを受けるのは難しいのではないか」と不安を感じる人も多いのが実情。
在宅ケアをする際の家族・介護者の負担を減らして望ましい介護、看取りを受けられるために、国・自治体による支援体制のさらなる強化が必要だと言えるでしょう。
在宅での介護が叶わない理由はなぜなのか
家族にかかる介護負担は尋常ではない

毎日新聞が行った全国の在宅介護者245人を対象としたアンケート調査によれば、介護で精神的・肉体的に限界を感じたことがあると回答した人は全体の73%に上りました。
また、要介護者に対して介護疲れで暴力をふるったことがある人は回答者全体の2割以上。
介護殺人・心中を考えたことのある人も約2割に上り、在宅介護をしている介護者の約5人に1人が、介護負担の大きさゆえに精神的に追い詰められている実態が明らかにされたのです。
在宅介護では介護のための特別な訓練、研修を受けていない家族介護者が介護をすることになるので、スキル・経験不足からさまざまな面で大きなストレスを受けることになります。
それに、介護は仕事とは異なり「休み」がなく、要介護者が家にいる限り、家族介護者は365日寄り添って介護し続けねばなりません。
その上、いったん始まると介護生活はいつまで続くのか先も見えないわけです。
特に、介護負担が大きくなるのは要介護者が重度の認知症、精神病を患った場合。症状によっては突然暴れるなど常識では考えられない行動をとるようにもなり、介護者の介護ストレスは相当なものになってきます。
介護において一番の苦労は排泄介助
2013年に内閣府が行ったアンケート調査(在宅介護の経験者696人が対象)によれば、「要介護者を介護する上で苦労することは何か」という問いに対して、最も多かった回答がトイレにおける付き添いやおむつ交換などの「排泄」(62.5%)です。
自分の力で排泄ができなくなることは「排泄障害」は、脳の中枢神経の疾患(脳卒中などによる)や尿道・膀胱の機能低下などによって生じる「排尿障害」、大腸部分における運動機能の低下や肛門括約筋の衰え、直腸部分の知覚障害などによって起こる「排便障害」の2つに大別されます。
加齢や病気によって身体機能が低下し、排尿、排便に関係する筋力や神経が衰えると、排泄時に介護が必要となってくるわけです。
また認知症を患った場合も排泄障害が起こります。
認知症の症状が進行すると便が不潔なものであることを認識できなくなり、弄便(手で便を触る行為)をする場合もあります。
本人の衣服はもちろん、壁や家具などに便が付くこともあり、介護者はその対応に精神をすり減らすことになるのです。
在宅介護の負担を減らすにはレスパイトケアを意識しよう
レスパイトケアとは一時の「息抜き」
レスパイトとは英語の「respite」をカタカナ表記したもので、「小休止」「息抜き」「休息」といった意味を持ち、レスパイトケアとは、在宅介護の介護をする側が一時的に介護負担から解放され、休みを取れるように支援を行うことです。
普段から主たる介護者となっている家族に休息をとってもらうために、別の家族・親族が介護をする日を設けるといったことはその一例と言えるでしょう。
よりフォーマルな形でのレスパイトケアとしては、介護保険サービスにおけるデイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所生活介護、短期入所療養介護)が挙げられます。
これらサービスの利用中、要介護者は介護者の手を完全に離れるので、ゆっくりと休息が取れるわけです。

特に高いレスパイト効果が期待できるのは、複数日に渡って要介護者を預けることができるショートステイ。
厚労省が行った調査によれば、ショートステイ(短期入所生活介護)の利用目的のうち、全体の80.3%が「介護者、家族の心身の負担軽減のため」となっています。
要介護者を預けている間に、泊りがけで温泉旅行や海外旅行に出かける人も多く、介護者のリフレッシュを図るには最適の介護サービスだと言えるでしょう。
レスパイトケアを意識した国の介護改定内容
ただ、ショートステイは、入居者を預かった施設では最低限の介護サービスしか提供されないことも多く、その結果、数日の入居期間の間に体調を崩す、心身状態を悪化させるなどの弊害があることも指摘されています。
要介護者にとっては、数日とはいえショートステイに入居することは大きな生活環境の変化。特に認知症を患っている人の場合、入居後に不安、ストレスを感じ、症状が進行してしまうこともよくあるのです。
こうした状況に対して国・厚労省は、利用者の生活機能の悪化を防ぐべくショートステイにおけるリハビリ機能の強化策を検討。
老健の短期入所療養介護(医療型ショートステイ)のサービス加算のあり方を、リハビリテーションの実施状況に応じて評価するように見直しを図るなど、対策に乗り出しています。
ショートステイが現状よりもさらに安心して要介護者を任せられる場所になれば、利用者側の信頼度も高まり、レスパイトケアのための利用もさらにしやすくなるはず。
国・厚労省には、今後ともショートステイの質の向上につながる施策・制度改定に力を入れてもらいたいところです。
今回は、日本医療政策機構が発表したアンケート調査の結果をもとに、在宅介護における負担の大きさ、そして介護負担を抑えるためのレスパイトケアとショートステイの役割などについて考察しました。
高齢化が進み、要介護の高齢者が増え続ける中、在宅介護を担う介護者の負担をいかにして軽減するかは重要な課題。介護者の負担を減らすことが在宅介護のしやすさにつながり、そのことが住み慣れた自宅で最期を迎えられる人の割合を増やすことになるはずです。
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2020年9月7日 制定