高齢者の運転がやりにくい世の中に…
高齢運転者による事故の増加は10年で倍増へ
平成29年版『交通安全白書』によると、2016年末時点における75歳以上の運転免許保有者数は約513万人。
2006年は約258万人でしたので、ここ10年ほどで倍増していることになります。
高齢化の進展によって今後とも増え続けていくとみられ、2021年には600万人を突破する見込みです。
そして、運転免許保有者数増と歩調を合わせるように増加し続けているのが、75歳以上の運転者による死亡事故の割合です。
警視庁の資料によると、死亡事故件数全体に占める75歳以上の割合(原付以上第一当事者)は2007年時点で8.2%でしたが、2017年には12.9%と4ポイント以上も上昇しています。

死亡事故件数自体は410~470件の間をほぼ横ばいの状況で推移しているものの、全世代の交通死亡事故件数が年々減少(2007年は5,796件だったのに対し、2017年は3,694件)しているので、(高齢者の運転による死亡事故の)割合の方が年々増加しつつあるのです。
また、2016年における免許人口10万人当たりの75歳以上の運転者による死亡事故件数は8.9件。
75歳未満(3.8件)よりも2倍以上高い値となっています。
これらのデータを踏まえると、やはり高齢運転者は他の世代より死亡事故を引き起こしやすいとは言えるでしょう。
高齢運転者の事故原因は?
警視庁によると、高齢運転者(65歳以上)が交通事故を引き起こした際に犯した違反行為として最も多かったのが「安全不確認」(37%)で、以下「交通安全進行」(22%)、「前方不注意」(13%)、動静不注視(7%)、ハンドル・ブレーキ操作不適(6%)と続きます。
安全不確認と交通安全進行を合わせると過半数に達しており、いわば「慣れ」や「だろう運転」によって多数の事故が発生しているわけです。
また、高齢運転者による人的要因別にみた交通事故の発生状況としては、「発見の遅れ」が全体の70%を占めています。
平成29年版高齢社会白書によると、高齢運転者は視力、反射神経、体力の衰えにより運転の際の的確な判断やとっさの反応しづらくなり、運転操作が不適格になりやすいとのこと。
加齢に伴う衰えによって、交通状況を瞬時に把握し、反応する力が低下してしまうのです。
ところが、こうした心身機能に衰えが生じるにもかかわらず、自分の運転技術に自信を持っている高齢者が多いのも実情。
立正大学が行ったアンケート調査によれば、「事故を回避する自信がある」と答えた人の割合は、10代~60代前半だとおおむね20%未満なのですが、60代後半で30%近く、70代後半になると50%を超えるのです。
「長年運転してきたのだから、スキルは高い」と自分の運転テクニックを過信する人が多く、そのことが「だろう運転」を招き、悲惨な事故つながっているとも考えられます。
免許返納制度の充実化
高齢者の免許返納率が上昇している
そんな高齢者による交通事故の割合が高まりつつある中、国としてもさまざまな対策に乗り出しています。
その1つが2017年に施行された改正道路交通法。
この法改正では、認知症の高齢者による交通死傷事故の増加を受け、認知機能検査の強化(一定の違反者に対する臨時機能検査など)や高齢者講習の見直しなどが行われました。
また、厚労省はオレンジプラン(認知症施策推進5か年計画、2012年)、新オレンジプラン(認知症施策推進統合戦略、2015年)に基づき、国民の認知症に対する理解を深めるための施策、啓発活動を推進。
このような法改正や施策もあって、高齢者の運転適性を問う社会的な関心は近年急速に高まりつつあります。

そして、こうした社会の動きに合わせるように、高齢者による運転免許証の自主返納件数も増加。運転免許証の自主返納制度は1998年にスタートしましたが、制度化当初、返納件数は決して多いとは言えませんでした。
ところが、近年は急増しつつあり、2012年には10万件、2015年には25万件を突破しています。
本人以外による代理返納も認められるなど返納制度の充実化も図られており、交通安全を守る上で返納は必要な行為の一つではありますが、「高齢者は免許を返納すべき」との「圧力」が社会の中で強まっているとも言えるでしょう。
返納後のケアは充分か?
しかし、運転免許証を返納したくてもできない状況に置かれている高齢者が多いのも事実。
例えば、過疎地に住んでいる高齢者の場合、どこに行くにも車が無ければ移動できません。
もし車の運転ができなくなれば、通院や行政手続きなどをスムーズに行うことができませんし、普段の買い物にも行くことのできない「買い物難民」の状態に陥る場合もあるのです。
また、買い物の際はお米や牛乳など重い荷物を持たねばなりませんが、足腰が弱っている高齢者にとって、それらを運びつつ長距離を移動することは大変になるでしょう。
老友新聞社によれば、高齢者に運転免許の自主返納をためらう理由を聞いたアンケートにおいて、全体の70%が「車がなければ生活に不便だから」と答えているとのこと。
運転免許証を持つ若い家族が同居している場合や、移動スーパーが日常的に訪問している地域・公共交通機関が充実している地域に住んでいる場合などであればよいですが、そうではない高齢者の場合、直ちに免許の返納を行うのは難しいとも考えられるのです。
高齢者の運転免許、うかつに返納にするのは危険?
運転を止めると要介護になるリスクが8倍に
国立長寿医療研究センターが65歳以上を対象に行った調査では、運転をやめた人が要介護状態に陥るリスクは、運転を続けている人の約8倍。
運転をやめた後に認知症が一気に進んでしまったという事例もあり、生活上の必要性だけでなく健康的な面からも、一律に運転をやめるよう高齢者に求めるのはよくないとの声は多いです。

運転免許証の返納率が年々上昇している一方、「自分の運転は危ないかもしれない」という健全な意識を持っているドライバー(運転スキルがまだ高いことも多い)ほど返納し、事故のリスクが高い「能力が衰えているのに、自信過剰である」ドライバーほど返納に応じない傾向も専門家により指摘されており、それを裏付ける根拠の一つとして、高齢者ほど「運転に自信がある」と答えているのです。
また研究者の中には、交通事故を起こす恐れがあるから「運転をやめましょう」と考えるのではなく、加齢によって身体能力、情報処理能力、空間認知能力がどのくらい低下しているのかを診断し、本人の努力と車が持つアシスト機能によってそれを補うようにすれば、運転寿命を延伸することができると主張する人もいます。
特に加齢による各種の能力低下は人口知能で補いやすい領域であり、高齢ドライバーによる事故の8割はこうした技術によって改善できるとも言われているのです。高齢者の交通事故を防ぐための対策は、免許証の自主返納以外にもあり得ると言えるでしょう。
高齢者の運転技能を上げるには
国立長寿量研究センターでは現在「運転寿命延伸プロジェクト」が進められており、高齢者の事故予防につながるような安全運転教育(ソフト面)、運転アシスト機能のついた自動車(ハード面)に関する研究が行われています。
安全運転教育としては、死角の確認など安全運転に特化した「安全運転技能教習」、危険回避能力を高める「シミュレータートレーニング」、動体視力などの視覚機能を鍛える「ビジョントレーニング」などを重視。
自動車については大手のメーカー、ディーラー、各種協会などが参加して、現場のニーズの共有化などが図られています。
免許証の自主返納とは異なる新たな視点で高齢者の交通事故を減らす取り組みが、現在進められているのです。
今回は高齢者の交通事故の現状と自主返納を巡る動きについて考察してきました。
高齢者の免許省の自主返納率を高めるには、積極的に返納したいと思わせる制度(返納後のケアも含めて)をさらに整えることが必要ですし、QOL(生活の質)の観点から、運転能力向上が見込まれる高齢者に対しては、再教育の場を与えることも大事だと考えられます。
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2020年9月7日 制定