厚生労働省が外国人の技能実習生受け入れの結果を公表
介護人材の需要と供給のギャップは約38万人
介護人材の不足は、介護保険制度が始まってから指摘され続けています。
2015年に厚生労働省が発表した「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」によれば、2025年に必要な介護人材は253万人なのに対し、介護人材の供給見込みは215.2万人。
需要と供給のギャップは37.7万人にも上っています。
また、2017年度の有効求人倍率をみても、介護職は3.6倍となっており、全企業の1.4倍を大きく上回っているのです。
介護職は、今後もニーズが増すことが見込まれており、厚生労働省は2025年度までに介護人材を55万人増やす必要があると計算しています。
そのため、この6月には経済財政諮(し)問会議から、外国人労働者拡大のための政策が提案され、「外国人に新たな在留資格を設け、中間技能レベル、いわば一定の技能水準と日本語能力を有する外国人労働者には新たに上限を5年とする就労を認める」という指針を明らかとしました。
また、「在留中に一定の試験の合格者には家族帯同を認める」「従来の技能実習生については、3~5年の実習期間修了後に新在留資格への移行を認める」など、この提言には外国人が働きやすい内容が盛り込まれています。
こうした新たな政策が行われるに至った背景は、一見すると介護業界を始めとした、人手不足な業界の補完を目的としているかのような印象を受けます。
外国人技能実習生を受け入れている事業所、70.8%が法令違反
そんな中、厚生労働省から、外国人の技能実習生を受け入れている事業所に対して実施された、調査結果が公表されました。
全国の労働局が監督指導を行った5,966ヵ所のうち、70.8%にあたる4,226ヵ所で法令違反を確認したというのです。
前年から222ヵ所も増えており、4年連続で過去最多を更新しています。

法令違反の内容をみると、「労働時間」が1,566ヵ所(26.2%)で最多となっており、その後に「安全基準」が1,176ヵ所(19.7%)、「割増賃金の支払い(不足など)」が945ヵ所(15.8%)と続いています。
しかも、「繰り返し指導しても改善がみられない」からと送検された悪質なケースや、最低賃金を下回る賃金で継続的に働かせていたり、時間外労働を非常に長くさせていたりする事業所があったというのです。
我が国では、「技能実習生=安価な労働力」という認識をしている人もいますが、上記のような事例が今、国際社会で問題視されていることは、国内ではあまり知られていません。
国連やILO(国際労働機関)では、これらを奴隷労働と捉え、日本という国に対して何度も是正(ぜせい)勧告を出しており、2015年以降、国会でも取り上げられています。
事業所が犯した法令違反の内容は
法令違反の内容は賃金に関してが多い
技能実習生に対して、事業所がどのように法令違反をしたのかを、以下のように触れています。
- 長時間労働が行われており、割増賃金も時給400円しか支払われていない
- 技能実習生が仕事中に負傷したが会社が労災扱いとしない
- 技能実習生が事業主から暴力を受けている
- 労働時間が適正に管理されておらず、時間外労働の割増賃金が不足している
掲載グラフを見てもわかるように、技能実習生からの申告の中でも、賃金・割り増し賃金の不払いが群を抜いていることが注目できます。自国で高度な教育を受けた技能実習生から、「そうした申告」があるのは当たり前といえば当たり前でしょう。

我が国では、「労働者が労働すべき時間について、使用者と労働者の間の合意で自由に決めて良い」とはなってはいません。労働時間の上限については,労働基準法という法律によって規制されています。
もしも、使用者と労働者の間の合意で自由に決めても良いことにしてしまうと,力関係で優位に立つ使用者の方が労働者にとって不利益な契約を押し付ける危険性が高いからです。
技能実習生は、そうした法律のことや基本的人権については、むしろ日本人よりよく知っていると言えるでしょう。
介護現場には夜勤における協定がない
実際、介護現場の過酷さはよく指摘されるところであり、そのせいで介護業界の離職率が上がってしまい、介護の求人倍率が他産業と比べて抜きんでているのは、先に述べた通りです。
たとえば、夜勤労働の問題があります。
介護現場には夜勤協定のような指針がないため、夜勤日数が青天井になっているのが現状です。
事実、2017年の「介護施設夜勤実態調査」には、141施設のうち、約半数にあたる68施設 48.2%、(前同46.8%)において「夜勤協定がない」という結果が記載されています。
一応、労働基準法には8時間の労働を超える場合は、1時間の休憩を定めることが記されていますが、長時間労働の勤務に対してはまったく規定がないのです。
外国人技能実習制度の本来の目的
発展途上国の技術力を上げること
そもそも、間違えてならないのは、外国人技能実習制度は、日本国内の労働力を補充するための制度ではないということです。
日本の企業において発展途上国の若者を技能実習生として受け入れ、実際の実務を通じて実践的な技術や技能・知識を学び、帰国後母国の経済発展に役立ててもらうことを目的とした公的制度。
一言でいうと国際貢献・国際交流のための制度なのであって、国内の労働力不足の問題を背景とした「外国人労働者の受け入れ拡大」が目的ではありません。
公益社団法人国際厚生事業団の角田隆専務理事は、受入れの趣旨について、「候補者の受入れは、経済活動の連携強化の観点から、(中略)特例的に行うものであり、介護分野における労働力不足への対応のために行うものでない」と同事業団発行の小冊子(平成29年発行「外国人介護士の現状」)の中ではっきりと述べています。
同事業団側が、受け入れ施設に対して示したメリットも、「技術習得が早く、意欲的に実習に取り組むため日本人社員によい影響を与え、企業自体も国際化される」「若い活力ある人材が入ることで、企業に新しい考え方が生まれる」など、国際貢献・交流を主軸としたものとなっているのです。
ところが、前掲の小冊子の統計では、「EPA候補者を受入れた目的」として施設側の回答に「看護補助者・介護職員の人員不足の解消のため」という回答が270件もあり、その上施設側の違反行為が絶えないわけですから、国際社会が外国人技能実習制度を「現代の奴隷制度」と非難するのも当然なのです。
介護者と技能実習生のすれ違い
もうひとつ、技能実習生が日本の介護現場に馴染めているとはいえない普遍的な理由があります。
それは、現場でのコミュニケーションが取れないということです。
これは、利用者とのコミュニケーションのことではありません。
日本人との間でコミュニケーションの部分です。
中でも両者のコミュニケーションを阻む大きなカセとなっているのが、技能実習生の施設内での学習です。

掲載グラフを見ると彼らの悩みの筆頭として「学習時間が足りない」ということが上がっています。
これについてある施設経営者は、「実習生が施設で学習していると、孤立するというジレンマがある」とかつて筆者に明かしてくれました。
“猫の手も借りたい現場なのに、「お勉強」している”という意識が日本人の職員の間にどうしても生じてしまうというのです。
その結果、職員の会話の輪に入れないなど、職場で孤立するケースが目立つともその経営者は言っていました。失踪する外国人が絶えない理由も、そうした原因によるものが大きいのではないでしょうか。
技能実習生は、難関を突破して日本に来るだけあり、利用者からの評判は上々とどこの施設でも聞きます。
また、実習生がいると施設が明るくなるという意見も多く聞きました。
単に人的補充という側面からとらえた受け入れは、やはり両者の軋轢を生み、ひいては国際社会からの非難をさらに招く結果となるのは間違いありません。
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2020年9月7日 制定