買い物弱者高齢者は深刻な健康リスクを抱えていることが判明
歩圏内に食料品店があるかが高齢者の健康に影響する
外出の際に車を使わない高齢者の場合、食料品店へのアクセスが悪いと死亡リスクが高まる恐れがあることが、東京医科歯科大学らの研究チームの調査によって明らかとなりました。
新鮮な野菜や果物を買える食料品店が近所に少ない人の死亡リスクは、たくさんある人に比べて最大で1.6倍も高いことがわかったのです。

調査は歩行や入浴時に介助を必要としない高齢者4万9,511人を約3年間追跡する形で実施。
外出時に「自分で車を運転する」もしくは「家族の車に同乗したりする」という場合は「車の利用あり」(2万9,676人)、どちらも該当しない場合は「車の利用なし」(1万9,835人)に分類し、そのうえで、自宅から1キロ以内の食料品店へのアクセスと死亡リスクとの関係性が分析・解析されました。
その結果、外出時に車の利用がない高齢者においては、近隣に野菜・果物を購入できる店が「たくさんある」と回答した人よりも、「ある程度ある」と回答した人の死亡リスクは1.4倍、「あまりない」または「まったくない」と回答した人の死亡リスクは1.6倍高いことが判明したのです。
徒歩圏内に飲食料品店があるかどうかは、高齢者の死亡リスク・健康リスクを左右する重要な要素だと分析されています。
食料品の購入が困難な買い物弱者が増加している
しかし現在、食料品の購入が困難な「買い物弱者」となり、先述の調査結果が示すような死亡リスク・健康リスクに直面している高齢者が増えており、問題は年々深刻化しています。
農林水産省は昨年、食料品を買ううえで困難な状況に置かれている高齢者の数が、全国で約824万6,000人(2015年時点)に上るとの調査結果を発表しました。10年前の2005年よりも約147万多い21.6%増という結果が出たのです。
都道府県別にみると、65歳以上人口に占める買い物弱者の割合が最も多いのは「長崎県」の34.6%。以下、「青森県」の33.8%、「秋田県」の31.1%と続きます。
買い物弱者が増えてきた原因のひとつが飲食料品店の減少です。東京商工リサーチの調査によれば、2004年~2013年度にかけてスーパーの倒産件数(全国)は毎年50~94件発生。
特に高齢者が通いやすい地域密着型の中小スーパー(負債額1億円未満)において、倒産が相次いでいます。また、コンビニエンスストアの倒産件数も2017年度までの5年間において毎年連続で増加。2017年度は51件と過去2番目に多くなりました。
コンビニ業界全体では店舗数・売上高が伸びていますが、スーパーなど他業態との競争が激しい地域も一部あり、倒産増加の原因となっています。
食料品店へのアクセス問題は高齢者の健康に直結
食の多様性が高齢者の活動能力にも影響する
買い物弱者になることで懸念されるのが、食品摂取における多様性の減少です。東京老人総合研究所の研究では、「肉類」「魚介類」「卵」「牛乳」「大豆・大豆製品」「緑黄色野菜」「果物」「芋類」「海藻類」および「油脂類」の10食品群のそれぞれに対して「ほぼ毎日摂取しているかどうか」を10点満点で点数化したところ、食品摂取の多様性得点と高齢者の健康度には有意な関係性があることが報告されています
また、既存研究によれば、食品摂取の多様性得点が高いほど、高次生活機能(「買い物できるか」などの手段的自立、「新聞を読んでいるか」などの知的能動性、「友達の家に訪ねることがあるか」などの社会的役割という3つの活動能力指標で構成)のうち、「知的能動性」と「社会的役割」の低下リスクが低くなるとされているのです。
ほかにも、買い物に不便があるほど食品摂取の多様性得点は低いこと、そして活動能力指標は買い物に不便があるほど低くなることを示す調査結果もあります。
買い物弱者となって食の多様性が減少すれば、それだけ健康リスクに直面しやすくなり、日常的な活動能力の低下につながるわけです。買い物弱者を減らすための早急の対策が必要です。
買い物弱者の増加は2025年からより深刻に
しかし今後、高齢化の進展とともに事態はさらに深刻化するとも考えられます。
高齢者(65歳以上)の場合、本人の心身状態が衰弱してしまうと遠方に買い物に出かけることがどうしても難しくなるため、住んでいる地域の食料品店が廃業・撤退すると、その影響で一転して買い物弱者となることが少なくありません。
総務省によれば、「食料品店まで500メートル以上離れていて、さらに自動車を所有していない高齢者」の人口は、2010年時点においては38万2,000人でしたが、団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)となる2025年には59万8,000人まで増加するといいます。

ただ意外なことに、農村地域と都市部とを比較した場合、商店が多そうな都市部の方が買い物弱者の増加割合は高いのです。
農林水産省によると、2005年から2015年までの買い物弱者人口の増加割合は、東京、名古屋、大阪の三大都市圏では44.1%増となったのに対して、三大都市圏以外の地方圏では7.4%増にとどまっています。
買い物が難しいと聞くと、山間部など交通の便が悪い地域を想像しがちですが、人口集中地域においてこそ買い物弱者は大きな問題となっているのです。
食料難民化する高齢者を救うには全国的な対策が必要
「買い物弱者」問題へ対策事業は半数以上が赤字
急ぎ対策が取られるべき買い物弱者問題ですが、スムーズに解決へと向かっていないのが現状です。
その要因のひとつが、買い物弱者対策に取り組んでいる所轄の官庁が、内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省・厚生労働省・農林水産省の1府5省にまたがっているという点です。
買い物弱者対策は官民一体で取り組む必要がありますが、そもそも「官」の側で統一の取れた対応ができにくい状況にあるのです。
また、現在政府は買い物弱者を支援する事業を行う民間の事業者などに対して「買い物弱者応援マニュアル」を作成、配布していますが、総務省が2016年に継続中の193事業について収支状況を調べたところ、「黒字または均衡」なのは全体の45%のみ。
赤字の取り組みの一部については補助金などで補填されていますが、赤字を自己負担して取り組みを続けているケースもあるといいます。
買い物弱者の増加を新たなビジネスチャンスと受け止める民間企業は少なくないものの、半数上が赤字に直面しているのです。さらに急激に進む地方の衰退によりすべての地域をカバーしきれないなど、対策は思うように進んでいないのが実情です。
食料安全保障「フードセキュリティ」が今後の課題に
イギリスでは「フードセキュリティ」という概念が提唱され、すでに具体的な対策も成果を見せています。
フードセキュリティとは、イギリスの環境・食料・農村省(DEFRA)が設定した、自動車を持たない場合も含め、食料品店への物理的アクセスが十分であるかどうかを示す指標のことです。
社会格差の是正を目指しているイギリスは、フードデザート(大型量販店の郊外出店にともない、都市部では食料品店の多くが廃業して品ぞろえが悪化し、それが社会的弱者層の健康被害につながること)問題を国の重要な政策課題に掲げ、取り組みを進めています。
1990年代に大型店の出店を厳しく規制する法律が制定され(2005年に改正強化)、中心市街地の空洞化は大きく改善されました。現在では行政と流通企業が連携してフードデザートエリアへの大型店の出店が進み、問題は一定の改善をみせています。
日本でもイギリスのような対策の必要性が高まっており、農林水産省の調査では、食料品アクセス問題に対して82.0%の市町村が「なんらかの対策が必要」と回答しています。

フードセキュリティ問題は現在の日本においてこそ深刻であり、民間に対策を委ねるのではなく、事態の深刻さを全国で共有し、今後は国全体で対策を講じていく必要があるでしょう。
今回は買い物弱者の問題を考えてきました。高齢化が進むなか、「買い物難民」をいかに減らしていくかは、日本社会が直面する大きな課題と言えます。
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2020年9月7日 制定