現在、65歳以上で増加している「うつ病」
日照時間が短くなる冬は症状悪化に要注意
近年、冬になると発症する冬季うつ病が話題となっています。これは季節性気分障害の一種で比較的若い女性に多いとされています。しかし、認知症の高齢者が冬季うつ病になると、うつによる認知能力低下によって認知症が悪化してしまう場合もあると言われています。
この冬季うつ病は、日照時間と深く関係があると言われており、冬場に日光を浴びる量が減ることで、メラトニンというホルモンが分泌されなくなることで起こるとされています。
そのため、1日1時間、日光をしっかりと浴びるように生活を改善することや、人工的な明かりを浴びる光照射療法がその対策として一般的です。

秋口に病状が悪化し、春になると改善するという状況が2年以上続いた場合、この病気だと診断されます。
冬に悪化するという以外にも、通常のうつ病は食欲が低下するのに対して、冬季うつ病では食欲が高まり、中でも炭水化物に対する欲が高まるため、体重が増えることが多いのが冬季うつ病の特徴です。
この冬季うつ病を始めとして、うつ病は昨今の日本において大きな問題として認識されつつあります。その中でも、増加傾向が顕著なのが、高齢者におけるうつ病です。
うつ病の高齢者は35万人以上にも上る可能性が
現在日本において、うつ病をはじめとした気分障害を持病とする人は増加の一途を辿っています。
厚生労働省が2014年に発表した『平成26年患者調査』によれば、躁うつを含む気分障害での患者数は日本全体でおよそ111万6,000人となり、過去最多を更新しました。
男女年齢別でみると、最も多いのは40代女性の13万8,000人でしたが、その次に続くのが12万4,000人の60代女性、10万7,000人の70代女性と、主に高齢の女性が多く罹患していることがわかります。
また、男女を合わせた65歳以上の患者数は34万人で、気分障害全体の患者数の30%以上を65歳以上が占めているのが現状です。
厚生労働省の『高齢者のうつの基礎知識 』にあるうつ病の記述によれば、日本におけるうつ病の12ヵ月有病率(過去12ヶ月に病気を経験した人の割合)は1~2%程度とされています。
これを1%と仮定した場合は、総患者数と1万人程度しか差がありませんが、2%と仮定した場合は、70万人以上のうつ患者が存在するにもかかわらず、半数程度しか治療を受けていない可能性もあるということになるのです。
このように、うつ病を患いつつも治療を受けていない“隠れうつ”の高齢者の存在が、かなりの数にのぼる可能性も指摘されています。
身体に症状が出る高齢者特有の“老人性うつ”
老人性うつの原因は「喪失体験」にあった
正式な病名ではないものの、65歳以上の高齢者が発症したうつ病のことを一般的に『老人性うつ』と呼びます。

その症状としては、頭痛やめまい、肩こり、吐き気、耳鳴りしびれなどの不調や食欲不振などを訴える人が多く、不安や焦燥感、落ち着きの欠落、趣味などへの無関心などもみられます。
しかし、この老人性うつになった人は、身体面の辛さなどを症状として訴えることが多いのに比べて、心理面での辛さを訴えることが少ないのも、多くのケースで見られる特徴です。
そのため、多くの高齢者は別の病気を疑い、内科や外科を受診するのですが、そこで問題が見つからずに悩み続けることになる例も少なくありません。
また、落ち着きの欠落や無関心から、認知症ではないかと勘違いされることも多く、これが老人性うつの難しいところです。老人性うつになる原因としては、伴侶や身内などと死別するなど何かを失う「喪失体験」がその引き金となることが多いとされています。
この喪失体験は死別に限らず、自身の定年退職や子どもが独立したりなどの環境的要因や、加齢による衰えで、できることが少なくなるなどの心理的要因なども含まれます。
認知症に進行する可能性も
先に述べた通り、この老人性うつは認知症と勘違いされるケースもあるほど、症状に共通したものがあります。
そのため、認知機能障害が目立つ老人性うつについて、以前より仮性認知症と呼ばれていましたが、実際に認知症との関連があることが近年の研究で判明しています。
2008年に行われた第104回日本精神神経学会総会のシンポジウムにおける資料によれば、アルツハイマー型認知症においては、その40~50%に抑うつ症状がみられ、さらに10~20%程度がうつ病の合併が見られるとされています。
また、血管性認知症では、60%に抑うつ症状が見られ、うつ病と合併が見られるのは27%と高い数値であることも判明しています。もちろん、両者はともに早めの受診による治療が必要な病気です。
しかし、うつ病がストレスなどの原因によって発症し、本人や周囲がきづきやすいのがうつ病。徐々に症状があらわれ、本人や周囲がきづきにくいのが認知症であるなど、明確な違いも存在します。
症状で言えば、うつ病の物忘れには自覚症状があり、認知症の物忘れには自覚がない、意欲の低下でもマイナス思考が伴ううつ病に比べて、認知症にはそれがないことなどが、両者の差として見受けられるポイントです。
老人性うつを予防するには周囲との交流が鍵に
地域活動への参加でうつ発症割合が減少する
こうした老人性うつを予防する方法として、高齢者の社会参加が重要であることが近年判明しつつあります。
東京大などの研究グループが先月発表した調査結果によれば、地域活動に参加しやすい状況を整えると、老人性うつの予防につながる可能性があることがわかりました。
同グループの研究では、高齢者の大規模研究プロジェクトである「日本老年学的評価研究」(JAGES)のデータを分析し、「地域活動への参加」「地元への愛着」「住民同士の助けあい」をアンケートで調査。
これらの割合を地域ごとに算出し、3年間の追跡調査をすることで、うつ傾向の発症との関係を調べました。
その結果、地元への愛着や、住民同士の助け合いに関してはうつ病との関連が見られなかったものの、スポーツや趣味などの地域活動においては関連があることが判明しました。

これらの活動への参加者が6%増えた場合、うつ傾向の発症者がその後の3年間で男性では7%、女性では6%減少するということがわかったのです。
地域活動への参加者が増えることで、近隣への見回りや訪問が増えることが、こうした予防効果に繋がっているのではないかとされています。
こうした地域活動に参加しやすいような環境の整備が、老人性うつの予防に今後必要だと言えます。
高齢者のうつ病予防にはサインを見逃さないことが大切
老人性うつはアルツハイマーを始めとする多くの認知症と異なり、治療を行えば治る病気です。主に治療として行われるのは抗うつ剤を使用する薬物療法や、対話などによる精神療法、あるいは患者が過ごしやすくなるように環境を整える環境調整などが挙げられます。
しかし、放置をすれば前述したように認知症へと進行するリスクがあることは確かです。
そのため、老人性うつのサインである、『体の不調を訴えるものの、外科や内科で検査しても異常が見つからない』『習慣だったことができなくなり、趣味などへ無関心になった』『ぼーっとしている時間が増え、無口になった』などの予兆を周囲が見逃さないことが肝要となります。
また、老人性うつにおいても、冬季うつ病の対策と同様に、運動や日の光を浴びることでメラトニンの原料となるセロトニンという物質の分泌を促すことができ、老年性うつ病に対しても効果が見込めます。
屋外での散歩や簡単な体操など、高齢者の方に対して適度に体を動かす習慣をつけるよう誘導することなども重要です。
“心の風邪”と呼ばれることの多いうつ病ですが、特に高齢者にとっては社会的孤立や自殺などのリスクが高くなる危険な病気。
日常的な予防や早期発見が必要不可欠なのです。
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2020年9月7日 制定