来年度から認知症の方の就労化環境を整備
社会参加・地域貢献によって認知症予防につなげるのが狙い
厚生労働省は来年度から、認知症の方が働きやすくなるような環境作りを、介護保険における地域支援事業のメニューに取り入れる方針を明らかにしています。
具体的には、各市区町村に配置されている認知症地域支援推進員の役割に、「認知症の方が働けるようにコーディネートする」というのがその内容。
認知症高齢者の社会参加・地域貢献を後押しすることで、介護予防、認知症予防(進行予防)につなげたいというのが、厚生労働省の狙いです。
現在、こうした認知症の方に対する理解の普及、そして社会参加の支援に、国・自治体が積極的に取り組みつつあります。
例えば山口県宇部市は、市民における認知症に対する理解促進と、認知症の方を支える人づくり・地域づくりを目的に、製薬メーカーのエーザイと連携協定を締結。
市民と医療従事者を対象とした認知症予防講演会を開催するなど、活発な活動が行われています。
また、川崎市麻生区は区内の「認知症支援ガイドマップ」を2018年末に完成させ、今月から区民に対して配布を開始しました。
冊子のマップの中には、「認知症カフェ」の会場や医療機関など相談先の場所、さらにはもの忘れを心配する人や家族へのアドバイスなども盛り込まれています。
各機関との連携支援を行う認知症地域推進委員
現在、認知症の高齢者は年々増え続けており、「平成29年版高齢社会白書」では、2020年には602万人~631万人、2025年には675万人~730万人、2050年には797万人~1,016万人にまで増えていくと予想されています。
団塊の世代が75歳以上となる2025年には、高齢者の約5人に1人が認知症の有症者になるのです。

こうした事態に対して、国や自治体は認知症対策を進めています。その一環としてあるのが、各地域で重要な役割を果たすことになる「認知症地域支援推進員」です。
認知症地域支援推進員は、認知症の方が適切なサービスを受けられるように医療機関・介護サービス・各種支援機関の連携支援を行うほか、認知症の方とその家族を対象とした相談業務も行います。
すべての市町村に配置されており、各自治体・地域の認知症支援策において中心的役割を果たす存在として、現在期待が集まっているのです。
認知症地域支援推進員は、こうした認知症の有症者が増加する現状への対応策として設置されました。
そして冒頭で述べた通り、来年度から認知症支援推進委員は、認知症の方への就労支援を行います。
なぜ認知症の高齢者への就労支援をするのか、またその実施に当たってはどのような課題があるのか、考えていきましょう。
認知症の方への就労環境を整える背景とは
就労は認知症予防をするうえで高い効果がある
認知症高齢者への就労環境を整える理由のひとつとして、「就労による社会参加や地域貢献への取り組みを通して、認知症予防・要介護度の重度化防止の効果が期待できる」ということが挙げられます。
他人との交流やコミュニティへの参加は、神経細胞ネットワークを強化し、認知症の進行を防ぐうえで高い効果があることが、各種の研究で明らかにされているのです。
また、規則正しい、健康的な生活を送ることも、認知症予防の効果が高いとされています。
認知症状の原因としてよく挙げられるアルツハイマー病は、50%以上が普段の生活スタイルの影響によって発生しているとのこと。
具体的には、運動習慣やメンタル面、食生活、人とのコミュニケーションを指します。
普段の生活でこれらの項目に不足があったり、問題があるならば、認知症は発症しやすくなるわけです。
就労による社会参加・地域貢献は、仕事の中で行う運動、責任を果たすことによる達成感、同僚とのコミュニケーションを伴います。
さらに収入を確保することにより、食生活を充実させることも可能。
いわば就労は、認知症予防の効果をまとめて享受できるとも言えるわけです。
就業率を上げることで社会保障費を抑制
ふたつ目の理由としては、「少しでも高齢者の就業率を高めることで、医療や年金など年々増え続ける社会保障費を抑制したい」、という国側の意図が挙げられます。
2017年8月に高額療養費制度が改正されましたが、このとき、所得が多い高齢者ほど医療費の自己負担額の上限を高くする、という内容が盛り込まれました。働いている高齢者は所得が多いため、それだけ医療費の負担増となる割合が高まります。
つまり、「まだ元気な軽度の認知症の方にはできるだけ働いてもらって、その分医療費を多く負担してもらい、それにより社会保障費の抑制につなげたい」という国側のねらいが考えられるわけです。

また、政府は、働いている高齢者の年金受給開始年齢を先送りできるようにする(70歳以上からでも可とする)ことで、年度あたりの社会保障給付費(年金給付費)を抑えようとしています。
もし働く認知症の高齢者が増えれば、年金受給開始を遅らせる人の割合がそれだけ上昇することになり、社会保障給付費の抑制につながるのです。
認知症の方の労働環境を正しく整備することが今後の課題
認知症になっても働くことは可能である
一口に認知症といっても症状はさまざま。たとえ認知症の診断を受けていても、本人の状態に適した職場であれば、問題なく働くことができます。
国はすでに認知症の方を対象とする就労支援を始めており、オレンジプラン(認知症施策推進5ヵ年計画)の中にもその旨が盛り込まれています。就労を希望する認知症の方は、どのような支援サービスを受けられるのか、事前に確認しておくことが大事です。
例えば、若年性認知症(65歳未満の方が発症する認知症の総称)の方が働くと、ハローワークによる就職から職場定着までのサポート、職場適応援助者(ジョブコーチ)による作業支援を含む職場でのサポートを受けられます。
これらの制度を活用すれば、たとえ現役世代のうちに認知症を発症しても、職場を辞めずに継続して働きやすくなるでしょう。
実際に認知症の方が前向きに働いているケースは全国に数多くあり、東京都で認知症の方が働いている「注文をまちがえる料理店」もその例です。
店員が「まちがうこと」をお客さんにも受け入れてもらい、むしろそのことを楽しむ雰囲気づくりをすることで、認知症の方が明るく働ける職場となっています。
ほかにも認知症の方がデイサービスで勤務するケースもあり、認知症を発症しても元気に働いている成功事例は少なくありません。
高齢の認知症の方が安全に働けるような環境整備が必要
現在、定年後の継続雇用制度などの影響もあって働く高齢者が増えていますが、それに伴い、60歳以上の労災事故が増加しつつあります。
厚生労働省の「労働者死傷病報告による死傷災害発生状況」(平成29年)によると、2017年中に発生した60歳以上の労災事故発生数は、全世代の中で最も多い3万27件。10年前の2007年時点から、約1万件も増えているのです。

認知症の症状には「注意力の散漫」もあるため、認知症の方を雇用する場合も、事故の危険性に配慮した適切な対応が必要です。
ただ、見守りを過度に行うと、自分で注意力を鍛える機会を減らすことにつながり、認知症の症状を進行させることも考えられます。
雇用側は高齢者本人と認知症の症状に関する話し合いを重ね、状態に合わせた職場環境を整える必要があるでしょう。
現場責任者の管理能力が問われることになります。
今回は認知症の方の就労について考えてきました。認知症の方を社会の中でどのように受け入れていくかをめぐる議論は、認知症の有症者が年々増える中、今後さらに続いていきそうです。
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2020年9月7日 制定