
超高齢社会まっただ中にある今、急性期病院に入院する高齢の患者に認知症が伴うことは少なくありません。
入院生活は患者のストレスとなり、必要以上に興奮したり、暴力的になったり…と、心身のコントロールが効きにくくなることが一因とも。こうした患者の問題に、急性期病院の医療従事者だけでは適切に対処できないことも挙げられます。
さらに、問題はそれだけではありません。本来、骨折などのリハビリを専門に担当するのが、「回復期リハビリテーション病棟」なのですが、多くの回復期リハビリテーション病棟では、重度の認知症を伴う患者を積極的に受け入れているとはいえないのが実情なのです。
こうして、認知症を伴うがゆえに、「リハビリに取り組めない→身体機能が回復しない→自宅には帰れない・日常生活の質(QOL)が落ちる」という悪循環に陥ってしまうことも珍しくありません。

そこで「急性期病院における認知症患者のケア」ならびに「回復期リハビリテーション病棟での認知症患者の受け入れ」という2つの問題を解決するべく、新しい取り組みが始まっています。
注目すべきは、「回復期リハビリテーション病棟」を拠点とした地域の医療機関や介護サービスの連携です。
今回の特集では、認知症高齢者に対するリハビリ&ケアのあり方と、実際の取り組みを見ていきましょう。
認知症高齢者のケアは地域包括ケアシステムの熟成で充実したものになるのか!?
10年後には1.5倍超となる認知症患者は、住み慣れた地域でこそ安心して暮らすことができる?
2015年1月、厚生労働省によって衝撃的な推計が発表されました。
それは、2025年に認知症患者数が現状の約1.5倍となる700万人を突破するというものです。
これに約1,300万人と見込まれる軽度認知障害(MCI)の患者数を加えると、65歳以上の高齢者の3人に1人が認知症患者とその“予備軍”という計算になります。
認知症の特効薬が見つかっていない以上、団塊の世代(約800万人)が75歳以上になる2025年以降はその数がさらに増加することになります。認知症を取り巻く医療や介護の需要がますます増加することは避けられません。
認知症高齢者の中でも、上記のグラフは「日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる」という人数の推移です。
“誰かが注意していれば自立できる”という点からも、「地域包括ケアシステム」が重視されているのは言うまでもありません。
地域包括ケアシステムとは、「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう」と定義づけられています(医療介護総合確保推進法第2条)。
簡単に言えば、介護・医療施設にお世話になるのではなく、住み慣れた自宅で自分らしい生活を送るために、地域が主体となってあらゆる分野でサポート体制を整えようというものです。

こうした地域の包括的な支援・サービス提供体制のもとで、来る2025年をめどに「認知症になっても本人の意志が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」を目指すことになったわけです。
「回復期リハビリテーション病棟」は地域包括ケアシステムを支える救世主になれるか!?
前項で紹介したように国が推し進める地域包括ケアシステムですが、実際に地域内で連携は取れているのか?というと、残念ながらそうでもないのが現状。
「急性期病院での認知症ケアがままならない」「認知症を理由にリハビリを受けにくい状況が後を絶たたない」など、今のところ専門分野を超えたサービス連携が取りきれていないように思われます。
そんななか、長年、地域包括ケアシステムと同時に、地域におけるリハビリの在り方について注力してきた千葉県の袖ヶ浦さつき台病院・総合広域リハケアセンター長の竹内正人医師の指摘によれば、地域包括ケアシステムによって高齢者がよりよく生活できる社会を実現するには、医療機関とリハビリのサポート機能が不足しているとのこと。
こうした事態を打開するために、「回復期リハビリテーション病棟が地域における生活リハビリテーションの拠点となりうるのではないか」とも指摘しています。
というのも、回復期リハビリテーション病棟を併設する病院の半数以上は、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション、居宅介護支援施設を持っているため、患者のさまざまなニーズに対応しやすいというのです。
そうして、竹内医師を中心に取り組みを始めたのが「さつき会総合広域リハセンター構想」。この取り組み自体の詳細は次の項目で紹介しますが、まずは回復期リハビリテーション病棟とは何かについて説明しておきましょう。
「回復期リハビリテーション病棟」が担う重要な役割とは?
回復期リハビリテーション病棟は、脳血管疾患や大腿骨頚部骨折などの患者に対して、ADL(日常生活活動)能力の向上による寝たきり防止と家庭復帰を目指した集中的なリハビリテーションを受けることができる病棟。
医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが共同で、それぞれの患者に合うプログラムを作成し、それに基づいて実生活での自立を目指したリハビリテーションを行います。
急性期病院で治療を受けても心身へのダメージが大きく残り、元の生活にすぐに戻れない患者が多かったことがきっかけで、最初の回復期リハビリテーション病棟は2000年に誕生しました。
回復期リハビリテーションで受け入れが可能な疾患と入院期間は、以下の通りに定められています。
| 疾患名 | 発症から入院(転院)までの期間 | 入院可能期間 |
|---|---|---|
| 脳卒中 | 2ヵ月以内 | 150日以内 |
| 高次脳機能障害 | 2ヵ月以内 | 180日以内 |
| 骨折など | 2ヵ月以内 | 90日以内 |
| 外科手術後、肺炎治療 | 2ヵ月以内 | 90日以内 |
| 筋・靭帯損傷 | 1ヵ月以内 | 60日以内 |
| 股関節・膝関節置換術後 | 1ヵ月以内 | 60日以内 |
認知症患者の一人ひとりと向き合う、「さつき会総合広域リハセンター」の新しい取り組みとは?
千葉県の君津圏内を中心とした「地域包括ケアシステム」として患者をサポートしていくために、袖ヶ浦さつき台病院・総合広域リハケアセンター長の竹内医師を中心に進められているのが、「さつき会総合広域リハセンター構想」です。
急性期病院、回復期リハビリテーション病棟、さつき会(在宅・福祉施設・診療所・ケアマネージャー・訪問看護ステーション)が相互に連携し合いながら、「地域包括リハケア(リハビリテーション&ケア)」の実現を目指しているのが特徴です。
「地域包括リハケア」の一端を担うのが、「袖ヶ浦さつき台病院回復期病棟」。袖ヶ浦さつき台病院の回復期リハビリテーション病棟として2012年に開設され、多くの回復期リハビリテーション病棟で敬遠されがちな認知症患者の受け入れを積極的に進めています。
「認知症を発症する前の生活や人となりをリサーチする」「せん妄をくり返す患者には、そのような状況を作り出す理由を把握しながらケアの方向性を定める」「認知症の症状が改善しない場合には、精神科医や専門看護師らと共同で治療環境を整える」など、認知症対策を強化するためにさまざまな取り組みを行っています。
地域の急性期病院に認知症患者への「リハビリテーション&ケア(リハケア)」の介入も提案しています。
また、入院中の患者の症状を悪化させないために、認知症患者をケアするノウハウも含めて研修を行っています。
こういった取り組みはすべて、患者の一人ひとりの生活や人生をサポートするために、家族や福祉職とともに治療環境を作っていく必要があるのです。
一方、国は国で、地域リハビリテーションのを推進していく上での指針として「改善が困難な人々も社会参加し、生あるかぎり人間らしく過ごせるよう地域住民も含めた総合的な支援」が必要としており、リハビリの専門職だけでなく、地域の住民も含めた支援の体制づくりが重要としています。

国が掲げる方向性を受けて、例えば広島県では「地域包括ケア推進センター」が設置。
医師会や看護協会などが舵を取る運営協議会を頂点として、多職種連携推進ワーキングチーム(以下WT)・在宅ケア推進WTに加え、地域リハビリテーションWTも交えて、高齢者を支援する体制づくりを進めています。
また、埼玉県でも同様の取り組みが着々と進んでいるようですが、どちらもいわゆる“手弁当”、つまり各自治体の中でだけ、または参画している団体が中心となって運営しているというのが現実。全国的な共通の認識での動きではない、というのが現状のようです。
認知症患者に適切なケアがもたらされることは、患者本人だけでなく家族の生活の質をも左右する重要な問題です。
認知症患者が増加することが眼前に迫っている今、「回復期リハビリテーション病棟」についても、国がしっかりとした指針を示し、地域包括ケアシステムという枠の中できちんと機能するような仕組みづくりをして欲しいものです。
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2020年9月7日 制定