介護休業・介護休暇の利用率が10%を切る事態に
介護支援制度を活用しない人が半分以上も
2019年3月6日、日本総合福祉アカデミーの教室を提供する『株式会社ガネット』は、介護離職についての意識調査の結果を公開しました。
アンケートを行った層は、これまで介護をした経験のある40歳以上の男女。
この調査の結果、とても興味深い事実が明らかになりました。
なんと、肉親などの介護に際して、勤め先の会社に相談した人が、わずか23%しかいなかったのです。
さらに驚くべきことには、「介護保険」「介護休業」「介護休暇」を知っていた者が全体の半数を割っており、なかでも介護休業・介護休暇を知っていると答えた者はそれぞれ全体の5%もいません。

また、3つの制度のいずれかを一度も使ったことがない人は57.3%にも達しており、半数以上となっています。
制度はあっても、それを利用できていないだけでなく、その存在すら知らない人が国民の過半数を占めているとすれば、もはや制度が制度としての体をなしていません。
この奇妙な現実を私たちは一体どう受け止めていけばよいのでしょうか。
代表的な介護の支援制度についておさらい
とはいえ、本連載の読者の皆さんの中にも、この3つの制度についてよく知らないという方がいるかもしれません。まずは、今回の意識調査で国民のほとんどが知らないことが明らかになった介護休業から、もう一度ざっとおさらいすることにしましょう。
介護休業とは、通算で年に93日間の介護休業を取得できる制度のこと。
対象となる家族1人について年に3回まで、取得することができます。
これらは、同一の事業主に1年以上の雇用がなされていることと、取得の予定日から起算して93日を経過する日から6ヵ月を経過する日までの間に、労働契約の期間が満了することが明らかでないことが条件です。
正社員のみに適用される制度だと思われがちですが、パートやアルバイトなど期間を定めて雇用される人も、条件に当てはまっていれば適用されます(日雇い労働者は適用されない)。
そして、介護休暇は、要介護状態にある人の家族は、年5日(要介護状態の家族が1人の場合)、または1日から半日の介護休暇を取得することができる制度。
同制度も、正社員だけでなく、パートやアルバイトといった、期間を定めて雇用される人も取得することができます。
最後に、3つのなかで比較的知られている介護保険は、40歳以上の国民全員が納める保険料によって介護が必要になった時、所定の介護サービスを受けることができる制度です。申請・認定を受けると、自己負担1割~3割で看護やリハビリ等のサービスを受けられます。
支援制度が創設された背景には「介護離職」がある
介護離職者数は3年で2万人も増加
こうした支援制度ができた背景にあるのは、介護離職があります。介護離職とは、要介護状態になった肉親の介護によって、仕事を離職しなければならない人のことです。
「平成28年度版高齢社会白書」によれば、介護離職者数は2008年の段階では8万8,600人だったのが、2011年では10万1,100人に増加。
男女比でみると、女性の離職者が格段に多い(上記の調査の男女の内訳は、女性8万人、男性2万人)という点から、女性の社会進出という面でも大きな問題となっています。

また、この介護離職は年々増加傾向にあるとされています。
昨年7月に公表された、総務省の「平成29年就業構造基本調査結果」をみると、介護に従事している人は実に約628万人。
このうち、職のある人は約346万人に及んでおり、介護人口の6割近くが働きながら介護をしています。
このような現状を打開するため、2015年に政府は「介護離職ゼロ」を目指すと公表。
働きながら介護を続けられるさまざまな支援制度を規定・改定するとしました。
この支援制度が介護休業制度・介護休暇制度というものです。
しかし、グラフが示すとおり、介護離職者数は減少に転ずる気配はありません。
介護離職による経済的損失は1年間で650億円
介護離職をしてはいけない理由は、主にふたつあります。
ひとつ目は、介護離職によって経済的損失が生まれるからです。
経済産業省によると、介護離職によって生まれる経済的な損失は、1年間で約650億円とのこと。
この数字は介護離職に対する受け皿整備費(介護施設の増設)の13倍に相当します。
ふたつ目は、介護者の精神面や肉体面での負担が大きいという点です。
介護離職者は無収入となるので、介護サービスの利用を減らす傾向にあると言われています。
すると、できる限り自身が介護をしようと思うわけです。
介護は、仕事として携わっているプロでも苦戦する重労働。
それを素人がやるのであれば、精神的・肉体面の両方で大きな負担となることは明らかです。
追い詰められた結果、介護うつになったり、体を壊したりすれば、介護者本人が病の中で経済的困窮と直面しなければならなくなります。
そうでなくとも、24時間も介護状態になれば、簡単な仕事すら続けるのは困難。
介護休業や介護休暇の制度は、介護離職を避けるためにも、活用すべきなのです。
介護支援制度を知っているのに使わない理由
仕事があるので制度を活用することができない
ここまで、支援制度の重要性についてまとめてきました。しかし、先述した通り、現実問題としてこうした支援制度の存在を知っていながら、活用している人はほとんどいないというデータがあります。

また、富士通が介護をしている会社員に、介護休業制度の利用についてアンケート調査を行ったところ、制度を「利用した」と回答したのはわずか11.5%。なんと88.5%が「介護休業制度を利用していない」と回答したのです。
「介護休業制度を利用していない」と答えた人のうち、「会社内に制度があるにもかかわらず利用していない」と答えたのは30.0%。認知度に比べて、利用度があまりにも低いのがわかります。なぜ、彼らは支援制度を利用しなかったのでしょうか。
支援制度を利用しない理由を調査したところ、33.3%が「今後、現在より休業が必要な状況が来るかもしれないから」。26.7%が「仕事が忙しく休めないから」「休業すると今後のキャリアに影響があると感じるから」――という結果が出ています(複数回答可)。
ほかにも、「休業することが会社に申し訳なく感じるから」、「どのタイミングで取得したらよいかわからないから」といった回答もあり、会社や仕事が理由で、支援制度を活用できない現状が明らかとなったのです。
介護について理解ある職場にしていくことが大事
これまで、会社に介護の支援制度があったとしても、それを活用する人は極めて少なく、その理由は会社・仕事がらみであることが明らかとなりました。
介護離職は、介護者本人・経済の意味でも防ぐべき事象。
企業にとっても、育ててきた人材が介護を理由に辞めてしまうのは、人材的損失です。
こうした介護離職を防ぐには、社会全体がどのように取り組め良いのでしょうか。
富士通が「仕事と介護を両立させている」と回答した人に、「心がけていること」をアンケート。その結果、上位3つが「施設をうまく活用すること」「ひとりで抱え込まずに相談」「誰かと分担して介護すること」でした。
この3つに共通しているのは、支援制度を使わなければ、達成するのは困難であるということ。
「施設をうまく活用する」、については、その施設を探すための準備期間が必要なため、支援制度による休暇が必要ですし、「ひとりで抱え込まずに相談」、「誰かと分担して介護すること」についても、相談すべき適切な人材を探したり、分担する相手を選ぶのも時間が必要です。
つまり、支援制度の活用こそが仕事と介護を両立させる方法であり、そのためには会社が「支援制度を取得しても良い」思えるような環境にすることが大切でしょう。
制度を活用しないことは、ある意味一時的には周囲に波風を立てず、全てが「綺麗ごと」で済むようにみえるかもしれませんが、その結果として、経済的に追い込まれたり、体や心を壊したら元も子もありません。
そうした介護者がこの先増え続けたとき、日本の社会を待つのは暗い未来です。そんなことにならないため、各企業がそれぞれの社内全体で、制度を何のためらいもなく使っても構わないという暗黙の空気を育てていくことが必要ではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定