過去12年間で79件の介護ベッド事故が発生
高齢者が胸部や腰部に重症を負う事故が毎年続いている
高齢者の起き上がりや立ち上がりを補助する機能を持つ介護ベッドは、介護の現場において必要不可欠な福祉用具のひとつです。
しかし、昨年の1月には、80代の利用者がこの介護ベッドから立ち上がろうとして転倒し、胸部に重傷を負う事故が発生。
続く2月にも、介護ベッドの背もたれの部分を上げていた際に、背もたれが急に下がり、70代の利用者が腰部を負傷する事故が起きるなど、介護ベッドに関連する重大事故が数多く報告されています。
2018年11月の消費者庁の発表によれば、消費者庁へ事故の報告が義務付けられた2007年度から昨年度までの12年間に、介護ベッドが関係する事故が79件発生し、43人が死亡していることがわかりました。

事故の多くを占めているのは、手すりと手すりの隙間や、手すりと頭部のボードの隙間に首や手足を挟まれてしまう事故です。
12年間で43人ということは、1年あたり3人をこえるペースで介護ベッドの事故によって高齢者が亡くなっていることになり、介護事故において重大な問題です。
事故の報告義務が機能していないとの指摘が
こうした事故が報告されるようになったのは、2007年に改正が行われた消費者生活用製品安全法(消安法)が施行されてからです。
消安法の改正により、生活関連製品による重大事故や火災などが発生した際には、メーカーの国への報告義務が法的に設けられました。
しかし、この消安法の届け出義務があるのは、あくまで家庭用の製品による事故だけなのです。業務用の製品であれば届け出義務がないことから事故の全貌はまだはっきり掴めていません。
また、この届出制度においてメーカーは、重大事故が発生したことを知った日から10日以外に消費者庁に報告することが義務付けられています。
しかし、この際にメーカーが独自に調査することから、その調査の範囲が曖昧になりがちだという点も問題です。そのため、現状報告されているものはあくまでも氷山の一角であり、実際の事故件数はさらに多いのではないかとの専門家による指摘もあります。
より正確な死因を究明するための枠組みを作ることが、まず必要です。
重大事故の大半が「高齢者によるベッドの誤った操作」によるもの
事故の約7割が「死亡」か「重傷」
この介護ベッドの事故で特筆すべきは、重大な被害が起こりやすいという点です。
製品評価技術基盤機構(NITE)によれば、2011年度から2015年度に報告された介護ベッドの事故において、およそ7割が重症、あるいは死亡という重大事故に繋がっているのです。
また、そのうちの約3割については、製品の使用を開始してから1年以内に事故が発生しているそうです。こうした介護ベッドでの重大事故の例として、NITEでは2015年に病院で起こった死亡事故について説明しています。
この事故では、70歳代の男性がベッドの横にあった尿器を取ろうとしたときに、体がベッドから落下てしまいました。
その際、ベッドのサイドレールの間に頸部が引っかかってしまい、一緒に落ちた介護ベッドのスイッチが押されたことで、背もたれが上昇し窒息してしまったとされています。
介護ベッドでの事故では、今回の70歳代男性のケースのように、サイドレールの隙間に手足や頸部、あるいは頭部などが挟まれてしまうことで起こることがほとんどです。
特に頭部や頸部が挟まれるケースでは、窒息によって死亡する恐れが高いことから、注意が必要です。
「柵を乗り越えて転落」するケースも
また、介護ベッドの事故においては、重大事故の被害に遭う高齢者にある特徴が見られることもわかってきています。
それは、認知症などにより認知能力に問題を抱えている人が多いということです。
公益財団法人である日本医療機能評価機構によれば、2010年以降に報告された44件の介護ベッドの事故において、「高齢者によるベッドの誤った操作」で起こった事故が21件確認されています。
その21件のうちで、操作を行った高齢者が認知症であった事例が最も多かったことがわかっています。こうした資料からも、高齢者の認知能力や、記憶障害がこうした事故の発生要因となり得るということがわかります。

国際医療福祉大学が行った研究では、在宅で介護を受けている認知症高齢者の事故134件を調査。サイドレールに挟まれるという事故よりも、柵を乗り越えて転落する例の方が多かったことが判明しています。
サイドレールの隙間に首や手足の挟む事故に加えて、認知症高齢者の場合はこうした柵の乗り越えの危険性にも留意する必要があるのです。
介護ベッドを利用するうえでは、ベッド上での行動に予測がつかない認知症高齢者、あるいは障害によって自分で体勢が保てない高齢者など、高齢者の状況によっては特に注意を払うことが大切です。
新規格に対応出来ていないベッドが使用されている
高額な介護ベッドを大量に入れ替えるのは多くの施設にとって不可能
介護ベッドでの事故が多発している理由のひとつに、現在の日本工業規格に適合していない介護ベッドがいまだに多く使用されていることが挙げられます。
2007年度の消安法改正以来、2007年と2008年に27件にも及ぶ重大事故が発生したことから、経済産業省は2009年3月に、介護ベッドのJIS規格を改正。
手すりの隙間を狭くすることで、頭や手足が挟まらないようにするなど、より安全性の高い介護用ベッドが作られるようになりました。
しかし、その改正以前に作られた介護用ベッドについては、消費者庁が現在のJIS規格に対応した商品に交換することを推奨しているものの、現在も家庭や施設などで多く使用されているといわれています。
こうした状況になっている大きな原因は、介護用ベッドの価格が高いということにあります。
高価なものでは50万円を超える介護ベッドを新調するのには大きな経済的負担がかかります。
それが施設の場合であれば、大量に設備を入れ替えることになるため、なおさらその負担は大きくなってしまいます。
経営状態が厳しい介護施設が、少なくないとされるなかで、巨額の介護ベッドの設備費を捻出するのは困難な場合があります。そのため、現場レベルでの対策も必要です。
介護ベッドの重大事故は明け方に多発する
介護ベッド事故の多くを占める、手すりなどの間に頭部や頸部、手足が挟み込まれるケースを防止することが必要です。

そのため、手すりの隙間をクッションや毛布などで埋めることや、隙間全体を覆うカバーなどを使うことで、危険性を減らすことができます。介護ベッドのメーカーによっては、対応する隙間カバーなどの商品を扱っている場合もあります。
また、介護ベッドの貸し出しを行っている事業者の中には、貸し出し先の家庭に訪問を行い、隙間カバーの状態を点検するなど対策を行っているところもあります。
こうした対策を取ったうえで、必要となるのは、周囲の家族や介護職員による高齢者に対する見守りです。介護ベッドにおける事故の多くは、睡眠などによって身体や意識がはっきりしていない夜10時~朝8時に起きる傾向にあります。
そのため、認知症高齢者をはじめとした高齢者の状況を把握し、どういう行動をとる可能性があるのかを確認しておくことが事故を防ぐことにつながります。
また、介護者がベッドの背もたれなどを移動する場合には、こうした隙間から利用者の手足が出ていないかなど、事故を起こさないようなチェックを行うことも重要でしょう。使用する高齢者の状況を把握し対応を行うことが、事故を減らすためには有効なのです。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 5件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定