指定取り消し・停止処分となった事業所が257件に
超高齢社会に伴う事業所の増加が背景
2019年3月19日、厚労省は、指定の取り消しとなった介護施設・事業所の数を公表しました。それによると、2017年度の1年間に停止処分を受けた介護施設・事業は過去最多となり、前年度より13件も多い257件に上ったとのことです。
今回、不正を働いた事業者のうち、もっとも多かったのは、訪問介護サービス。同サービスは、全体のうち35.0%を占めており、2位の通所介護(10.5%)との差を大きく開いています。

それにしても何故、指定取り消し・停止処分を受けた業者の数が過去最多となったのでしょうか。
そのひとつには、高齢者人口の増加に伴う介護施設の増加が考えられます。
総務省統計局のホームページによると、現在(2016年9月15日推計)、65歳以上の高齢者人口は、3,461万人で、総人口に占める割合は27.3%にものぼっています。
前年(3,388万人、26.7%)と比較すると、0.6ポイント増の73万人と大きく増加しています。
それに伴い、介護施設も増加しています。2013年の介護施設の数は8,502施設でしたが、2016年には12,570施設と、3年の間に約4,000施設も増加。施設数が増加すれば、その分指定取り消しが増える可能性はあるでしょう。
介護事業を運営するには都道府県の指定・許可がいる
介護保険法に基づく居宅サービス事業所、居宅介護支援事業所、介護予防サービス事業所、介護保険施設といった介護事業を行うにあたっては、県の指定・許可が必要であり、指定後は6年ごとに更新を受けなければ事業を続けることができません。
また、保険料や税金を財源として行われる介護事業は、それなりにきちんとした事業運営をしていないと指定を取り消されることもあります。
例えば、介護保険法や、その他の国民の保健医療、もしくは福祉に関する法律の規定によって介護事業者が罰金刑に処された場合や、労働に関する法律の規定で政令に定めるものによって罰金刑に処された場合などがそれに当たります。
また、事業者は要介護者の人格を尊重し、介護保険法等に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない義務がありますが、それに違反したと認められる場合も同様。
さらには、居宅介護サービス費に対する請求に関し不正があったような場合も、資格を取り消されるのはいうまでもありません。
主な原因は介護報酬の不正請求
過去には1,000万単位で不正請求した施設も
先述した指定取り消しの結果を受けてこの3月、介護保険指導室は、都道府県や指定都市などの担当者を集めて開いた政策説明会のなかで、介護報酬の不正請求が特に多かったことを明かしています。
指定取消に至った理由をみると、もっとも多かった不正請求は47.9%と約半分。
次点で法令違反、3番目に虚偽報告と続きます。

具体的な事例をみると、昨年9月には愛知県豊田市で、某施設が介護報酬として約4,730万円を不正に受給したとして、半年間の新規利用者の受け入れ停止と、9ヵ月の介護報酬3割減額という行政処分を行いました。
同事業所は、定員を超えた状態が9ヵ月以上あったにもかかわらず、定員超過で利用があったという減算を行なわず、6ヵ月にもわたって介護報酬を不正請求していたといいます。
このことは、市に対して報告が寄せられたことで調査が始まって発覚しました。
なぜ、これほどまでに介護事業者の不正請求が起きてしまうのでしょうか。
介護報酬の取得状況は経営に直結する
そもそも介護報酬とは、事業者が利用者に介護サービスを提供した際にその対価として支払われる報酬のこと。各サービスの報酬は法律で定められており、3年に一度「介護報酬改定」として改定されることになります。
つまり、この介護報酬こそが介護事業者にとっての生命線であり、これを多く得ていなければ、介護事業所の経営は苦しくなるというわけです。
介護施設の経営状況は、介護報酬の加算をどれだけ多く取得しているかが重要ですが、そのためには専門的なケア体制を維持していることが大前提となります。
例えば、福祉医療機構が調査した、小規模多機能型居宅介護の経営状況を調べたレポートの(2017年)をみても、「看護体制加算」や「経口移行加算」「日常生活継続支援加算」といった、さまざまな介護報酬を得ている事業所のほうが、そうでない事業所よりも黒字経営となっています。
不正請求が行われる理由は人手不足にある
人手不足により介護報酬を取得できない状況
不正請求が行われてしまう背景としては、介護事業所の慢性的な人手不足があるでしょう。厚労省の『職業安定業務統計』によると、介護分野の有効求人倍率は、失業率が2009年から2017年まで下がり続けるのに反比例し、増加しています。
しかし、掲載の図をみてもわかるように、介護分野の有効求人倍率の増加ぶりは凄まじく、同じく増加傾向にある全職種の有効求人倍率の比ではありません。
先述したように、介護施設の経営は介護報酬に依存しています。
事業所の規模によって左右され、新規や小規模は介護報酬の恩恵を受けづらいというわけです。

今回、指定取り消しとなった介護施設・事業所の数で一番多い訪問介護も、それが原因だと予想できます。
東京商工リサーチによる統計をみると、訪問介護は新規・小規模施設がもっとも多く、それ故に倒産件数ももっとも多いとのこと。
介護福祉・介護事業の倒産件数の3分の1以上を占めたまま高止まりしており、介護業界全体の中でもとりわけ経済基盤が不安定というわけです。
政府は効率化を進めるガイドラインを作成
介護事業所が不正請求をせず、安定した経営を行っていくには、どうすれば良いでしょうか。その方法のひとつとして、政府は人手が少なくとも介護報酬を得られる介護サービスを効率的に提供すること、つまり生産性の向上を考えています。
例えば、これまで生産性を意識したことのない事業所でも取り組めるよう、分かりやすいガイドラインを作成し、啓蒙活動に力を注いでいます。
ガイドラインには取組みの流れ等がステップ方式で解説。
さらに、「業務の明確化と役割分担はいかにしてできるか」「記録や報告の様式を用意する際に工夫したほうがよいこと」といった具体的な「生産性を上げるノウハウ」が示されています。
さらには「テーマ別計画書」「業務時間調査票」「気付きシート」などのツールも盛り込んであります。
また、政府は事務作業に割いている時間と労力を減らすため2020年代初頭までにペーパーワークの半減を計画。
すでに事業者が指定を申請するにあたり提出しなければならない書類を対象に、第1弾の具体策を実施しており、その第2弾を今年の夏前には打ち出す構えです。
こうして、無駄を引き絞ることが果たして人手不足が解消に繋がり、ひいては一部の介護事業所による不正防止につながるかどうかはわかりません。しかし、計画が動き出した以上、今は国の取組みに注目です。
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2020年9月7日 制定