改正出入国管理法がいよいよ施行!介護の人手不足を解消できるか
5年間で34万人を受け入れる見込み
2019年4月、外国人労働者受入れを拡大するために、改正出入国管理法が新たに施行。それに伴って、新たに「特定技能」なる在留資格が創設され、新制度としてスタートしました。
これは、人材不足の業種の労働力を確保するためであり、政府は技能実習生からの資格変更も含めて、今後5年間で最大約34万5,000人の「特定技能」を見込んでいます。
「特定技能」とは、一見すると、「技能実習制度」と似ているように思う読者もいるかもしれませんが、本質はまったく違うものです。
根本的に技能実習は、日本で培われた技術を発展途上国の発展のために役立ててもらうという、いわば海外貢献を目的とした制度。
そのため、本来は日本の労働力における拡充手段として使われてはならないのです。

一方、「特定技能」は、労働力の不足を補うための制度。
今回、人材の確保が十分でない14もの業種を「特定産業分野」とし、この分野に限り、外国人も就労可能となりました。
今回の新制度では、行政サービスや生活情報についての相談に11言語で対応する「多文化共生総合相談ワンストップセンター」が全国約100ヵ所に整備されることも決まっています。
しかし、「5年間で本当に34万人も集められるのか」「準備不足」など、懸念の声が絶えない状況です。
介護福祉士資格を取れば永住も可能
現在、政府における介護分野での特定技能ビザによる外国人就労者受け入れ見込みは、最大6万人となっており、「特定技能」の受け入れ上限数もこれに当たります。
介護は、特定技能1号というカテゴリーにあたり、在留資格を取得するには、以下の試験に受かることが必要です。
- 介護技能評価試験 …介護業務の基礎となる能力や考え方基づいて、利用者の心身の状況に応じた介護を自ら実践できるレベル
- 日本語能力判定テスト …ある程度日常会話ができて、生活に支障がない程度の能力
- 介護日本語評価試験 …介護業務に従事するうえで、支障のない程度の日本語能力
特定技能1号による在留期間は上限5年となっていますが、介護福祉士の資格を得れば、永住権を得ることも可能となっています。
特定技能保持者は「慣れていれば」初日から夜勤もできる
介護分野のみ初日から人員配置基準に算定可能
今回の「特定技能」保持者についてですが、厚労省は年度末に介護分野についての独自ルールを設けています。
そのルールとは、「介護分野における「特定技能」の保持者は、人員配置基準に就労と同時に算定することが可能とする」というもの。
「特定技能」の保持者は、入国前に行われた試験などで必要なスキルを既に持っているとして、働き始めたその日から、日本人と同じ職員とみなす扱いで構わないとされています。
技能実習制度については働き始めてから半年後に初めて人員配置基準に算定されるので、大きな変化といえるでしょう。
厚労省は「勤務初日から算定しても構わないが、一定期間(半年を目処)は他の日本人職員とチームでケアに当たり、サポートを行うこと」。
を条件としています。
一人夜勤についても 「日本人と同じように、仕事に慣れるまではしっかりと支えてほしい」とあり、「仕事に慣れてさえいれば」就労してから半年以内の一人夜勤も禁止はしない方向です。
独自ルールが一人夜勤を行わせる口実となる可能性も
今回の介護分野における「特定技能」の独自ルールですが、「一定期間(半年)は他の日本人職員とチームでケアにあたるなど、ケアの安全性を確保するための体制を取ることを求めるとする」とありながら、一方では「他の日本人などと同じように仕事に慣れれば、就労後半年以内の一人夜勤も禁止はしない」と述べています。
これはつまり、「仕事に慣れていれば、一人夜勤であっても合法」ということ。この「仕事に慣れていれば」というのが条件として曖昧であり、現場に慣れていない特定技能保持者に、一人夜勤を行わせる口実になりかねません。

そもそも介護分野における夜勤は、仕事に慣れている日本人の介護士でも重労働。
介護の夜勤内容は一見すると、見回りだけで休憩が多く取れる業務だと勘違いするかもしれません。
しかし、排泄介助やシーツの交換、起床介助、など、1人で行うには大変な作業となります。
特に、利用者が発作を起こすなどの緊急事態が起こった場合、医療スタッフや医療機関、家族に正確な情報を伝えて指示を仰がなければならず、経験とコミュニケーション能力が要求されます。
特定技能保持者であれば、ある程度の知識・技術の保証はされますが、慣れていない一人夜勤で緊急事態に陥ったとき、その能力を発揮できるかは疑問です。
過酷な労働環境による外国人労働者の失踪は治安悪化の原因に
日本医労連が介護職の一人夜勤について警鐘
まず、介護職員の一人夜勤は奨励されるものではありません。この2月に、日本医療労働組合連合会(日本医労連)が、介護施設の夜勤のうち、大半が16時間以上の長時間であり、その多くが一人夜勤であることを発表しています。
日本医労連は、多くの事業所で働く職員たちが、仮眠はおろか休憩もできない状況にあると報じており、こうした長時間にわたる過酷な夜勤労働が健康リスクを増加させ、ひいては利用者の安全リスクも増大させるとして、国に対して対策を呼びかけています。
現状では、介護夜勤における適切な法・環境整備ができているとは言い難い状況です。夜勤を行った人の勤務間隔が12時間以上確保されていなかったり、夜勤協定を締結していない施設が4割あるなど、まだまだ改善していく必要があります。
技能実習生を受け入れている事業所の約70%が法令違反
外国人の技能実習生を受け入れている事業所(すべての職種を含む)のうち70.8%が法令を犯していたという調査結果が厚労省から発表されたニュースについては、本連載でも過去に取り上げました。
この統計に挙げられた法令違反の詳細をみると、「労働時間」についての違反が1,566(26.2%)事業所で最多となっており、次点で「安全基準」についての違反が1,176(19.7%)の事業所、3番目に「割増賃金の支払い(不足など)」についての違反が945(15.8%)の事業所と続きます。

特定技能保持者が職に就いたとき、このような悲劇を繰り返してはいけないでしょう。
近年、過酷な労働による外国人労働者の失踪が問題となっています。
厚労省は夜間臨検を行うなどの対策を散発的に行ってはいますが、現状をみるかぎり外国人全般の劣悪な労働条件が改善するとは思えません。
そもそも、過酷な労働環境なのだから人が離れて人手不足になるのであって、それを改善しないままに人手を増やしても同じことが起きるだけと考えます。
今回は、4月1日に施行された改正出入国管理法について掘り下げてきました。課題となる点が目立つ改正法案ですが、特定技能保持者は介護職に定着できるのでしょうか。今後も進展を追っていきたいと思います。
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2020年9月7日 制定