2018年度の認知症の行方不明者数が1万6,927人!
行方不明者のうち後期高齢者が9割を占める
2019年の6月に発表された警察庁の報告によると、2018年に警察に届けが出された認知症による行方不明者数は1万6,927人でした。前年と比べると1,064人も多く、統計をスタートした2012年から6年連続で増え続けていることになります。
また、行方不明者数を世代別でみると、50代が131人、60代が1,353人、70代が6,577人と、世代が上がるごとに行方不明者は増加。80代に至っては70代と2,000人も差をつけて8,857人。70代と80代で行方不明者の9割を占めています。

この中で、所在が判明した人は1万6,227人。そして、行方不明となって所在が確認されるまでの期間は「当日」が1万1,905人、「2日~7日」が4,205人と、99.3%が1週間以内に発見されていました。
行方不明となる原因として「記憶障害」と「見当識障害」がある
認知症者が行方不明になる原因のひとつとして考えられるのは、認知症の中核症状である「記憶障害」と「見当識障害」です。
記憶障害は、認知症を発症すると早期に起きる症状のひとつです。
普通の記憶忘れと違うのは、忘れたときにヒントやきっかけで思い出すことができないことにあります。
経験したできごとに関するエピソード記憶を思い出せなくなってしまうのです。
見当識障害は、周囲の人や、状況、時間や場所といった認識する機能に障害が生じることを指します。今自分がいる場所や、今日がいつなのか、今一緒にいる人は誰かということがわからなくなってしまうのです。
こうした徘徊は、引越しによる環境の変化や、不慣れな場所に連れていかれることによって感じた不安・ストレスが引き金で起こることが多いと考えられています。
たとえば、引越した後の新居や環境に馴染めないことから、前の家へ戻ろうとしたり、家の人から怒られた恐怖からその場を離れようとすることがそれにあたります。
前期高齢者は徘徊する距離が長いために発見しにくい
行方不明から1日経つと死亡率は37%も上昇する
先述したように、行方不明者のうち99.3%は1週間以内には所在が明らかとなっています。しかし、それでも行方不明者が早く見つかることに越したことはありません。
なぜなら、行方不明となってから1日が経過すると行方不明者の死亡率が約37%も上昇するからです。
とくに、認知症者の場合は記憶障害や見当識障害で意識が錯乱している場合があり、事故に巻き込まれる可能性もあります。
認知症者の中でも、行方不明となる傾向にあるのは、どのような人なのでしょうか?
桜美林大学老年学総合研究所の鈴木隆雄大学院教授がまとめたレポート『認知症高齢者の徘徊・行方不明・死亡に関する研究』によると、徘徊により行方不明となっても後期高齢者(75歳以上)の場合はすぐに見つかる傾向にあるとのことです。

しかし、前期高齢者(65歳~74歳)の場合は、行方不明となってから発見するまでの時間が長く、行方不明になりやすいと記載されています。
同レポートによると、行方不明者の発見に至るまでの時間は、9時間が分かれ目となっており、この時間を過ぎると発見率が大幅に減少するとのこと。
行方不明者が発見されるまでの時間を年齢区分によって分析したところ、年齢区分が低ければ低いほど、発見までの時間が長くなるという傾向が見られたそうです。
理由として、前期高齢者は体力もあるため、後期高齢者よりも移動距離が長くなるからと考えられています。
認知症者は夕方の時間帯、行方不明になりやすい
認知症者が行方不明になりやすい傾向として、夕方症候群と呼ばれるものがあります。
夕方症候群とは、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD) が原因で起こる症候群。夕方になるとそわそわして落ち着きがなくなり、「家に帰る」と言って帰り支度を始め、出ていく行動がそれにあたります。
このとき、本人は何十年も昔へと記憶が遡り、かつて住んでいた家に今もいると思いこんでしまうため、現在の住居を他人の家にいるのだと勘違いするのです。
夕暮れ症候群はデイサービスやショートステイ、介護施設など、慣れない場所にいるという不安によって起きることが多いといわれています。
落ち着かない場所にいることによって症状が起こるのです。
たとえ住み慣れた場所であっても、部外者と同居をした場合などに発症することもあります。
発見までの時間を約30時間も削減する見守りネットワークとは
見守りネットワークは高齢者問題に力を入れている
年々増加する認知症者の行方不明を防ぐため、現在期待されている社会的な受け皿として見守りネットワークがあります。
これは近隣の人々が地域の活動を支える町内会や自治会等、あるいは地域包括支援センターといった関係機関の連携によって築かれたネットワークを通し、お互いに支え合うというものです。
このネットワークは、認知症高齢者が行方不明となったときの捜索活動や、巡回による高齢者の孤独死防止など、高齢者問題に対して力を入れています。
先述した桜美林大学の鈴木隆雄教授がまとめた資料によると、見守りネットワークを利用した人々は行方不明者を発見するまでに平均15.8時間かかりました。一方で、利用しなかった人々は発見までに平均43.0時間もかかったというのです。
このことから、見守りネットワークが認知症による行方不明の対策として期待がされています。
見守りネットワークの登録者が少ないことが現状の課題
行方不明者を探し出すのに一役買っている見守りネットワークですが、課題はまだまだあるというのが現状です。
まず、見守りネットワークへの登録状況が極めて少ないということです。見守りネットワークを行方不明者の捜索に活用するには、事前に警察署や保健福祉センターに指名や住所、顔写真、特徴を登録する必要があります。
この情報をもとにして協力事業者、認知症サポーターが捜索するわけですが、登録をしていなければそれを使うことはできません。
この見守りネットワークに登録している人は、わずか24%(徘徊の可能性がある高齢者がいる世帯にアンケート)。
政府や市区町村による見守りネットワークの周知が必要でしょう。

また、このネットワークの担い手に若者が少ないことも問題です。
認知症サポーターは20代から40代でなろうという人はほとんどおらず、次世代のなり手がほとんどいないのが現状の課題となっています。
認知症サポーターの大多数が高齢の親を抱える子か、すでに認知症の配偶者がいたりする50代以上です。
政府は6月18日に認知症予防に重点を置いた大網を関係閣僚会議で決定しました。その中には認知症サポーターの増加も含まれており、養成講座の受講をさまざまな業界に呼びかけ、企業単位での取り組みに力を入れています。
見守りネットワークは行方不明を防ぐ予防策であり、その取り組みを実行する認知症サポーターはなくてはならないものです。
政府は見守りネットワークの必要性や、それを行う認知症サポーターの重要性を周知し、行方不明の防止に取り組む必要があるでしょう。
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2020年9月7日 制定