日本人の歯の損失リスクについて一部の原因が解明
2019年6月、富山大学の研究グループは、日本人の高齢者にとって喫煙習慣や糖尿病、骨粗鬆症が歯を失うリスク因子となる可能性があるという研究結果を、「BMC Public Health」のオンライン版に発表しました。
この研究は、無作為に選ばれた富山県内に住む65歳以上の高齢者1,537人の中から同意が得られた1,303人のうち、完全に歯を喪失している275人、残存歯がある898人の計1,173人を対象としたものです。
対象者を年齢や性別などで分類して解析したところ、喫煙習慣がある人や、糖尿病、骨粗鬆症を持病とする人では、歯を失うリスクが高いことが判明しました。
研究の中心となったひとりである富山大学の関根教授によると、喫煙や糖尿病によって口腔内の免疫力が低下すると、歯周病や骨粗鬆症などになりやすく、歯を失う可能性が上昇すると考えられるそうです。
研究グループは、高齢者が歯を喪失することは栄養不良の原因となるため、フレイルやQOLの低下につながる危険性についても言及。
これを防ぐためには、小児期から高齢期まで、生涯にわたって歯の健康に関する総合的な対策が必要であると述べています。
喫煙、糖尿病、骨粗鬆症で歯の喪失リスクが増加>歯を損失するとどうなるのか?
歯の喪失には、富山大学の研究グループが述べた以外にも、多くのリスクがあるとされています。
2014年にイギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのジョージオス・ツァコス博士らが発表した研究結果によれば、歯を失うことで、記憶力をはじめとした認知機能が低下することが判明しました。
この研究では、イギリスで60歳以上3,166人を対象として、10年間にわたって追跡調査を実施。まず10個の単語を覚えて、それらを思い出してもらいます。
10分後に再テストすると告げないまま、単語を思い出してもらうという認知能力テストを行いました。また、運動能力を調べるために、約2.4mの距離を2回歩いてもらい、歩行スピードを計測したそうです。
その結果、歯をすべて喪失している人は残存歯のある人に比べると、思い出せる単語数が少なく、歩行スピードも遅いことが判明しました。
総合すると、残存歯のある人は、歯をすべて失っている人に比べて心身機能が10%ほど高くなりました。

この研究では、全部の歯が欠損した場合に咀嚼力が弱くなることで栄養摂取に問題を抱えることや、口腔内の炎症が起こりやすくなることで心身機能の低下を招くことを示唆。歯を失うことには、多くのリスクを伴うことがわかります。
日本の口腔ケアに対する意識は先進国と比べると低い
口腔ケアに対して意欲的ではない日本人
こうした歯の問題について、日本人は意欲的ではないとされています。
2014年に歯のケア用品メーカーであるサンスターが、日本やアメリカ、ドイツとオーストラリア、イギリス、スウェーデンの6ヵ国の20歳から69歳の男女各380人を対象にしたアンケート調査を実施。
日本は歯周病に対して、97.9%が認知しているという結果になりました
しかし、自分が歯周病かという問いに対して、「歯周病だと思う(歯周病だと診断されている)」が17%で最大となり、「歯周病ではないし、今後もなることはないと思っている」と答えた人は17.1%と最低となりました。
また、歯のケアで時間やお金をかけたくないという質問に対しては、「とてもあてはまる」が5%、「あてはまる」が25%と、全体の3割がそうであると回答。

同じく歯のケア用品メーカーのライオンがHPで発表している情報によれば、スウェーデン、アメリカ、イギリス、日本の中で、定期的に歯科検診やクリーニングを受けている人の割合は、一番多いスウェーデンで90%であるのに対し、日本では6%と低い数値に留まっています。
さらに70歳時点での歯の残存数はスウェーデンが20本で最多であるのに対して、日本は最低の8本です。この差はどこから生まれるのでしょうか。日本には国民皆保険があるため、歯の治療費が安いということが挙げられます。
保険制度のないアメリカなどは、歯を治療する際の医療費が高額などの理由により、歯に対する国民の予防の意識が高いと言われるためと考えられます。
口腔ケアの影響はどれほどあるのか?
口腔ケアを行うことは、歯を失うリスクを減らすだけではありません。
全国11ヵ所の特別養護施設の入居者366名を対象として行った研究によれば、口腔ケアが誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の予防にも役立つことが判明しています。
この研究では、週に1度、歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔管理、加えて介護士などによる歯磨きやうがいを行った人と、そうではない人を比較。
2年間の誤嚥性肺炎の発生率について、ケアを行っていない人が19%だったのに対し、行っていた人は11%とおよそ6割以下になったそうです。
誤嚥性肺炎は、口腔内の唾液や、細菌が誤って気道に入ることで起きてしまう肺炎です。そのため、口腔内の清潔を保つことで予防できるというのがその理由と言われています。
上記で説明した通り、スウェーデンやアメリカなどの先進国では、虫歯や歯周病に対し、なったときに治療をするだけではなく、生活習慣などを管理することで、それらを予防することが重要視されています。
オーラルフィジシャン(口腔内科医)と呼ばれる口腔内の管理を行う専門医のもとに生涯にわたって通い、定期的なケアを行うことが先進国では当たり前となっています。
しかし、日本ではまだこうした考え方は広まっておらず、ケアを受けている人は少ない状況です。
口腔ケアの意外な落とし穴とは
高齢者による口腔ケアが活発化
日本人が口腔ケアにまったく興味がないかというと、そんなことはありません。
ネットリサーチ会社が行ったアンケートによれば、日本人のマウスウォッシュやデンタルリンスなどの洗口液を使用している割合は27.8%。
実に4人に1人以上が日常的に洗口薬を使用していることが判明しました。
なかでも高齢者や女性の使用率は高くなっています。20代の男性では使用率が18.3%に留まるのに対し、60代の男性では25.4%、60代女性では38.2%、70代女性では40.4%と、年齢が上がるにつれて使用している人が増えています。

同じアンケートでは、この洗口液の使用目的について、最多は「口臭予防」(65.5%)でしたが、続いて「虫歯・歯周病の予防」が50.5%、「歯ブラシが届かないところを洗浄するため」が49.2%となっており、使用者がオーラルケアへの関心を持っていることがわかります。
これは、先に紹介した誤嚥性肺炎の予防のほか、高齢者や要介護者における口腔ケアの重要性について、メーカーが活発に啓発活動を行っていることの影響が大きいと考えられるでしょう。こうした活動によって周知が進み、その重要度が認識されつつあります。
洗口液を使いすぎると糖尿病につながる可能性も
こうした洗口液にも、問題がある可能性が指摘されつつあります。
アラバマ大学が行った研究によれば、こうした洗口液を1日に2回使う人はまったく使わない人に比べて、3年間に糖尿病の診断を受ける確率が55%増加していたといいます。
なぜそうなるのかという理由については、現在も完全にわかっているわけではありませんが、洗口液の殺菌作用により、口の中にいる血糖値の調節を助ける細菌も殺してしまうことがその理由ではないかと言われています。
こうしたリスクも考えると、口腔ケアで重要なものは丁寧なブラッシングによるケアです。
ブラッシングをうまく行うには、歯に対して90度の角度で磨くスクラッピング法と、歯ぐきに対して45度の角度を付けて磨くバス法を部位に応じて使い分けるほか、軽い力で小刻みに磨くこと、磨く部位の順番を決めて磨き残しのないようにすることなどが重要です。
正しいブラッシングにくわえ、定期的な歯科健診など、口腔ケアに意識を高く持つことが、高齢化した日本ではさらに重視されるでしょう。
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2020年9月7日 制定