
団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年、全国で約43万人もの人が必要な介護を受けられない「介護難民」になるとの試算があります。特に首都圏では約13万人分の介護施設が不足するとあって、もはや施設の増設は待ったなしの状況です。
そんな折、流通最大手のイオングループが介護事業に正式に参入すると発表しました。
理学療法士らの指導のもと、リハビリのための運動を日帰りで受けられる「デイサービス施設(通所施設)」を、首都圏を中心とした既存のスーパーマーケット店舗内に展開するというもので、2020年度までに50か所の開設が検討されています。
デイサービス施設は、イオンの中核子会社で約350店の総合スーパーを展開するイオンリテール株式会社が直轄。
2015年9月に、千葉県野田市にあるイオンノア店の店内に広さ約200平方メートルの施設を開設するのを皮切りに、その後2018年度までに20~25施設、2020年度までに50施設に拡大されることになっています。
イオンと言えば、流通業界トップの座に君臨する企業。
そんな大企業が介護事業に参入するとのことで、ニュースとして大きく取り上げられたのは記憶に新しいところですし、一方で同じ介護事業に携わる事業者の中には戦々恐々の思いを抱いた方も多いのではないでしょうか。
今回の特集では、イオンをはじめとする大企業が参入を果たしたデイサービスの現状と、将来的な展望について考えてみました。
イオンが手がけるデイサービスは、大都市の“介護難民”の救世主になるか?
ハコがあるから収益を得やすい?なぜ今、イオンが「通所介護」?
今回、イオンが正式参入するのが「通所介護(デイサービス)」に分類される介護保険サービスです。
通所介護のサービス提供は日中のみで、宿泊スペースが不要。
さらに、夜勤がないことから人手不足の業界内において、比較的人が集まりやすい状況にあるといえます。
つまり、事業者側からしてみれば開設しやすい介護事業のひとつなのです。
まずは、居宅サービスの介護給付費(費用総額)の推移を見てみましょう。

通所介護の給付費は、2006年と比較すると7年間で2倍近い伸びを示しています。他の居宅サービスと比較してもこの伸びは顕著です。潜在的なニーズが多く、利用者を見込みやすいというわけです。
次に、介護サービスの収支率も比較してみましょう。

通所介護の利益率は10.6%と、介護老人福祉施設(8.7%)や訪問介護(7.4%)と比べて高いことがわかります。
通所介護はサービス利用者を1か所に集めて同時にサービス提供をすることができ、パートを活用することで人件費を圧縮しやすいなどの点から、利益率を上げやすいと見られています。
中小の介護事業者の倒産ペースが過去最悪に。やはり介護報酬減の影響は大きかった
既存施設をデイサービスに。イオンの戦略は理に適っている!?
上記グラフの収支差率は、介護報酬が改定する前のものです。今年4月、介護報酬の改定によって何が起こったか?ご存知の方も多いと思いますが、デイサービス(通所介護)の介護報酬は約10%減という大幅な引き下げになっています。
特集「デイサービスの介護報酬は大幅減に!? 介護費抑制を推進する国に、利用者・事業者の声は届かない!?」で、「みんなの介護」は以下のように触れました。
「国による「小規模型のデイサービスをこれ以上増やさず、全体の介護給付費を抑制しよう」という考えの表れであり、今後の新規事業スタートにあたっては高いハードルが設けられたと考えて良いでしょう。」
これはある意味で正解であり、ある意味では間違っていたのかもしれません。
正確な数字は出ていませんが、小規模デイサービスを運営する事業所に倒産が相次いでいると言います。

最新の東京商工リサーチの調査結果によれば、1月から8月までの8ヵ月間の倒産件数が、昨年2014年の1年間の倒産件数を上回る55件に達していたのです。
従業員数別に見ると5人未満の事業所の倒産が21件、小規模事業所の倒産が全体の約7割を占めている現状を鑑みると、「小規模」「新規」の事業者の倒産が顕著になっていることがわかります。
4月の介護報酬による影響に加え、慢性的な人材不足に伴う人件費の上昇や建築費の高騰などが追い討ちをかけた状態、と見ることができるでしょうか。それに加えて「高齢者が利用先の施設を変える」影響が出ているとも言われています。
新規に事業所を開設する以前に、倒産する事業者が増えている時点で、「今後の新規事業スタートにあたっては高いハードルが設けられたと考えて良いでしょう。」とした見立ては合っていたと言えるでしょうか。
では、間違っていた点は…と考えると、他でもない、イオンのような大企業であれば、その高いハードルも楽々と超えて参入することができる、ということです。
イオンが開始したデイサービス事業では、イオン既存店のスペースを活用できることも強みのひとつ。余計な施設開設費をかけず、盤石な集客力を活かして介護事業を軌道に乗せようというその道筋は、理に適った考え方と言えるでしょう。
デイサービスも大企業と中小事業者がしのぎを削る時代に突入
異業種参入の歴史を振り返ると、イオンの参入は必然だった!?

そもそも、異業種から介護業界への参入…という事例は、介護保険制度がスタートした2000年あたりに、一度、大きな盛り上がりを見せました。
介護と関連性の高い医療業界をはじめ、保険や不動産、ひいては小売業やメーカーまで、多種多様な企業が介護業界に熱視線を送っていたのです。
その後は、2006年の新予防給付の開始にあわせて介護予防に注目が集まり、上記に加えてスポーツやリハビリ関連企業が参入。さらに、サービス付き高齢者向け住宅が制度化された2011年には不動産業界が一気に進出してきました。
今、最も顕著な事例を挙げると、大手スポーツクラブからの参入が大きいでしょうか。2017年度末までに開始される「総合事業」(介護予防・日常生活支援総合事業)を受託するために、認知症予防教室の開催や運動系のリハビリの実施をメインとしていくようです。
こうした動きに対して、既存の介護事業者にも動きがあります。
特集「デイサービスの介護報酬は大幅減に!? 介護費抑制を推進する国に、利用者・事業者の声は届かない!?」でもお伝えした通り、多種多様なプログラムで利用者の興味を惹くような取り組みを始める介護事業者が出現。
こうして見ると、デイサービスの業界では体力(=資本力)の大企業VSアイデアの中小事業者、という構図が浮かび上がっているとも考えられますね。
デイサービス利用者のニーズをしっかりつかめるかが、今後の生き残りのカギ

大企業にはやはり、経営面で長けたポイントがあります。例えばですが、商圏の情報を詳しく把握し、確実な勝機をつかむマーケティング力であったり、居宅介護支援事業所やケアマネージャー、ソーシャルワーカーなどへの営業力であったり。
中小の介護事業者が苦手としている面を、逆に武器として、大企業が介護業界へと進出してきたのです。では、それが故に「大企業が優勢」とはならないのが介護業界というのも、介護の現場にいる方ならご存知でしょう。
例えばですが、イオンが運営を始めた「イオンスマイル葛西SC店」の基本的な運営方針を見ると、以下のようになっています。
・リハビリ専門の理学療法士が常駐
・先進のシステムで一人ひとりに最適な運動プランを提供
・介護予防運動指導員が常駐
・看護師が常駐し、バイタルチェックを行う
・3時間の集中運動トレーニング(食事、入浴のサービス提供はなし)
ショッピングセンターだけでは採算を取りづらくなっている昨今、複合施設として集客を目指すという方向性は今後も続いていくと思われます。その一端を担うものとして、既存の施設を介護施設に転換していくことは、運営者側にとって大きなメリットと言えるでしょう。
一方で、デイサービスの利用者としては、「長時間預かってもらえる」「食事と入浴を任せられる」といったニーズが高いのが現状。
そう考えると、必ずしもイオンが提供するサービスと合致するとは言えないかもしれませんし、そうした、いわば“小回りが利く”サービスという点では、中小の介護事業者の方に一日の長があるとも言えるでしょう。
いずれにせよ、デイサービスという市場において、大手企業と中小の介護事業者がしのぎをけずる時代に突入しているというのは間違いありません。次回の介護報酬改定にも大きな影響を及ぼすとも考えられるだけに、その情勢には特に注目していきたいですね。
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2020年9月7日 制定