現在の社会保障制度は、すべての国民が加入する皆保険・皆年金が実現した1961年に完成しました。
この当時、日本の経済成長率は年平均で10%超(1955年~1973年)。社会保障制度も、経済成長がもたらす潤沢な税収を前提に設計され運用されてきました。
しかしバブル期以後、日本経済は一転して低成長時代(平均成長率 0.8%・内閣府2011年統計)に突入。当然、右肩上がりの経済成長=安定した税収という前提が失われれば、給付と財源(恩恵と負担)のバランスが壊れ、制度には根本的な修正が求められます。
現在、政府が進める「社会保障と税の一体改革」にはその大きな方向性が示されていますが、その方向で果たして大丈夫なのでしょうか。一緒にその課題について考えてみましょう。
2025年度の社会保障費は推計151兆円にも増大!…で、財源はどうする?
「社会保障=国の責任のもとでのセーフティーネット」のはずが、国民への負担が増すばかりで…
最初に、日本の社会保障制度のもつ意味を簡単におさらいしておきましょう。
日本の社会保障は、「医療保険」「社会福祉」「年金」「雇用」という大きな四つの柱からなります。これは年金・医療・介護・雇用・子育てなど、国民生活のほとんどの領域をカバーする一国のセーフティ・ネットを意味します。

これは憲法25条の「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(第一項)と、「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障、および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない」(第二項)という規定に基づくものです。
つまり、国民生活全体のセーフティ・ネット実現のために、“国が責任を負う”ということです。社会保障制度を考えるうえで、ぜひ頭に入れておきたい大事なポイントです。
財源不足って、本当に補うことってできるの!?
さて、現在の社会保障制度が抱える最大の課題は、「財源不足」です。背景には、いうまでもなく経済の低成長・税収の鈍化、そして社会の超高齢化があります。
1990年に約60兆円あった国の税収は、リーマンショックの影響から2009年には約39兆円まで落ち込みました。
2014年には約54兆円に回復しましたが、これは消費増税に支えられたものといえます。
日本経済は依然として回復の兆しが見えていないのが現実です。

その一方で、高齢化の進展とともに、年金・医療・介護などにかかる費用が年々拡大するのは確実です。厚労省によると、国の社会保障にかかる費用は、2011年の約108兆円から、2025年には約1.5倍の約151兆円に増大すると予測されています。
ちなみに、日本の人口がピークを迎えたのは2004年(約1億2800万人)。
その後は減少に転じて、2055年には9000万人を割り込み、65歳以上の高齢化率は人口全体の40%を超えると見られています。
同時に少子化により、高齢者を支える生産労働人口(15~64歳)も減少し続けています。
下記は、2014年度の国の予算。歳入(=収入)と歳出(=支出)は同額となっており、さもバランスが取れているように思えますが、決してそうではありません。

歳入を詳しく見ていくと「公債」という項目がありますが、これはつまり国としての借金であり、次世代を担う若者への負担に他なりません。
この負担が増えれば増えるほど、増税の必要性が出てきたり、また公的サービスを縮小せざるを得なくなったり…と、将来的にマイナスの効果しか生み出さないのです。
現状は…というと、2020年度の財政収支を黒字化する目標を達成する具体策についての議論の真っ最中。
今年2月12日に公表された内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」によると、2017年度から消費税率を10%に上げ、今後の経済成長率を3.5%前後に見積もったとしても、2020年度における財政収支は約9.4兆円もの赤字になる見込みです。
この9.4兆円をどのようにゼロに近づけていくのかは、現時点で明確な答えが出ていません。とはいえ、大枠は決定済み。それこそが、よく耳にする“社会保障改革”なのです。
「社会保障と税の一体改革」は、財政黒字化への切り札となるのか!?
財源確保のために給付は減って、自己負担はアップ…
税収の伸びが期待できず、支出に歯止めがかからない。この課題の根本的な対策として、国が2012年に骨子を固めたのが「社会保障と税の一体改革」(以下、「一体改革」)です。
社会保障制度の全分野を総合的にとらえ、全体の適正化・効率化を図ることを目的としたもの。端的に言うと、「給付削減」と「増税」が中心テーマになっています。

「一体改革」を増税面から見ると、消費税アップ・所得税最高税率の引き上げ・相続税の課税強化などが並んでいます。このうち「増税」の核となるのが消費税。2014年に8%に上げられた消費税は、2017年4月に10%となる予定です。
なぜ消費税なのかの理由として、政府は「景気や人口構成の変化に左右されにくく、税収が安定」としています。
しかし消費税には、低所得者ほど相対的に負担が重くなるという「逆進性」があり、食料など生活必需品については、課税対象から外すなどの配慮が必要との指摘もあります。
制度改革面でも、国民の自己負担を増やす項目が多く打ち出されています。
たとえば10月9日公表の財務省「社会保障制度改革案」には、介護では「利用者負担の1割から2割への引き上げ」「介護認定軽度者の自己負担のアップ」、医療では「かかりつけ医以外の病院外来の定額負担」、年金では「支給開始年齢の引き上げ」などが並びます。
また厚労省が進める「地域包括ケアシステム」でも、「医療から介護へ」「病院や施設から地域・在宅へ」といった“自助・自立”を促す方針をかかげ、給付削減とサービス利用者の自己負担増を目ざす傾向が鮮明です。
「国民の生活」ではなく、「制度」を守る方向へシフトしているのが現状か
ここで考えたいのが、こうした国の施策によってセーフティ・ネットからこぼれ落ちる人が大量に出るという可能性です。背後には、高まる貧困率、非正規雇用者の拡大という現実があります。
厚生労働省が2014年にまとめた「国民生活基礎調査」によると、日本の貧困率は全世帯の16.1%。OECD加盟30カ国の中で4番目という悪い数字です。また低賃金・失業不安がつきまとう非正規雇用の割合は、2014年で雇用者全体の37.4%。
このほか年金暮らしの高齢者など、社会保障制度が守るべき低所得で暮らす人びとを、逆に「一体改革」が直撃する恐れもあります。これでは国の「責任」を果たすことにはなりません。この点から、改革推進には十分な慎重さが求められます。
一体改革の目玉とも言える「マイナンバー制度」。データ管理は大丈夫?

2015年10月、赤ちゃんから高齢者まで国民全員に12ケタの数字を付ける「マイナンバー制度」がスタートしました。いわば社会保障制度全体を串刺しにする、「一体改革」の最大の目玉です。
この数字を用い、所得・病歴・医療・年金・資産などの個人データを行政が一元的に管理することで、税金や社会保険料徴収の効率化や適正化が図れるようになります。しかし意地悪に見れば、これは“取り立て強化”となるかもしれません。
同時に、心配されるのが個人情報の大量流出、そして悪用というリスクです。運用のやり方次第では、制度そのものの存在理由が問われる事態も可能性としては否定できません。
平均年齢の推移から、社会の大変貌が見える
2060年には日本人の平均年齢は54.6歳に。いっそのこと「高齢者」の定義を変えるべき?
日本社会の劇的な変化を象徴する、「日本人の平均年齢」という興味深いデータがあります。
高度成長期の真っただ中だった1960年、日本人全体の平均年齢は28.5歳。
まさに若いエネルギーが社会に満ちていた時代です。
ところが、2015年現在の平均年齢は46.5歳。
50年の間に、日本は文字どおり“18歳も老けた”ことになります。
さらに団塊世代が後期高齢者になる2025年に平均年齢は49.3歳、2060年なると54.6歳という驚くべき超高齢社会が出現します。
| 年次 | 人口割合(%) | 平均年齢 (歳) |
||
|---|---|---|---|---|
| 0~14歳 | 15~64歳 | 65歳以上 | ||
| 2010 | 13.1 | 63.8 | 23.0 | 45.0 |
| 2015 | 12.5 | 60.7 | 26.8 | 46.5 |
| 2020 | 11.7 | 59.2 | 29.1 | 48.0 |
| 2025 | 11.0 | 58.7 | 30.3 | 49.3 |
| 2030 | 10.3 | 58.1 | 31.6 | 50.4 |
| 2035 | 10.1 | 56.6 | 33.4 | 51.3 |
| 2040 | 10.0 | 53.9 | 36.1 | 52.1 |
| 2045 | 9.9 | 52.4 | 37.7 | 52.8 |
| 2050 | 9.7 | 51.5 | 38.8 | 53.4 |
| 2055 | 9.4 | 51.2 | 39.4 | 54.1 |
| 2060 | 9.1 | 50.9 | 39.9 | 54.6 |
こうした数字を、高齢者の増大=要介護者・要支援者の増大という観点からとらえると、現在の社会保障制度を維持することはとても困難です。
内閣府「2015年高齢社会白書」によると、このまま高齢化率が進むと、2060年には、現役世代1.3人で高齢者1人を支える計算になります。
するとやはり、選択肢は高負担か給付削減か、あるいはその両方しかありません。
ただその反面、別の見方もできないことはありません。
たとえば、ほんの20、30年前まで多くの企業では「55歳定年」が常識、60歳を過ぎれば“お年寄り扱い”でした。ところが今では、70歳を超えてもバリバリの現役が数多くいます。
これと同じように、現在の「高齢者」という言葉の意味が実質的に変化していく可能性もあります。これからの社会を前向きに生きるためには、高齢者のとらえ方を考え直す必要があるかもしれません。
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2020年9月7日 制定