「在宅医療」における高齢者の患者数が増えていることから、医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護士、理学療法士など、多くの専門職が関わる「多職種連携」が不可欠になってきました。
本来、1人の患者に必要とされるスタッフが一つのチームを組み、情報共有をしながら、適切なケアを行うことが在宅医療の理想です。しかし、現状を見る限り、それぞれの専門職が個別に患者の家を訪問するだけで、十分な連携が取れていないことも浮き彫りに…。

その一番の理由が、「お互い忙しくて話し合う時間がない」というもの。「脱病院」「地域包括ケア」を推進する政府としては、何としても「IT化」に力を注ぎ、業務効率を上げたいところです。ただ、現実はそう甘くなさそうです。
そもそも医療と介護の連携を阻む要因はどこにあるのでしょうか? 現場の裏事情に迫りながら、IT化に託された在宅医療の未来像についてまとめてみました。
IT化で医療と介護の情報共有ができても、意思の疎通を図れるのか!?多職種連携を阻む壁とは
在宅医療に関わる医療チームと介護スタッフの間に聞こえてくる不協和音…
実際に在宅医療と介護の連携にITを使い、タイムリーに患者情報を入力するようになった結果、容態の急変が防止できたり、服薬管理が徹底され、症状が改善されたなど、さまざまなメリットが報告されています。
また、医療スタッフの患者宅の滞在時間が約50%向上し、それだけ密に患者と接することができるようになったという事例もあります。
しかし、こうした成功例とは裏腹に、「介護と医療の壁がある限り、IT化の力だけで意志の疎通を図るのは難しい」と見る人も少なくありません。

上記の「ケアマネジャーが困難に感じる点」に関する調査報告書を見てみると、半数近くのケアマネジャーが「医師との連携が取りづらい」と答えています。これは一概に「時間がなくて医師と話すことができない」といった問題で済まされる内容ではなさそうです。
介護スタッフから見ると、医療スタッフは“上から目線”!?
海外と比べた場合、日本は医療と介護を分けて考える傾向があります。医療も介護も保険制度そのものが別々。医療は診療報酬、介護は介護報酬と分けられていることも両者間に垣根をつくる要因となってしまったのかもしれません。
問題はそれだけではありません。医療スタッフによると、「ケアマネジャーは介護出身者も多いため、医療知識に乏しく、医師の話をスムーズに理解できていない……」といった声が聞こえてきます。
一方、ケアマネジャーをはじめとした介護スタッフからすれば「医療スタッフは上から目線で、こちらの話を聞く耳を持とうとしてくれない」と批判的な意見が……。
どうやらこれではIT化以前に職業倫理の問題に発展していきそうです。第一、医療も介護も必要な在宅患者にとって迷惑な話ではありませんか?
最近の在宅医療は介護のニーズも増えている分だけ、長期にわたるケアが多くなっています。それだけお互いの仕事を理解し合い、信頼関係を構築できないと、在宅患者を支えていくための地域包括ケアも困難になってくるのです。
在宅介護を推進する流れだからこそ。IT化を利用した多職種連携の重要性とは?
在宅医療を実施する医療機関は全体の1/3以下…。スタッフの余力の低下から、サービスの質の低下の可能性は?
「在宅医療」とは、通院が難しい患者の自宅を医師、看護師が訪ねて診療を行うことを意味します。特に2008年以降、在宅医療の患者の8割前後が75歳以上の後期高齢者で占められるようになり、「介護を支える医療」としての意味合いも強くなってきました。
ところで、こうした患者のニーズに在宅医療機関の数は足りているのでしょうか? 年々、増加傾向にあるといっても、在宅医療の患者数に病院、診療所の数が追いついていない状態です。
2011年の調査によると、訪問診療を実施している医療機関は病院が28%、診療所が20%と全体から見ればまだまだ少ない割合です。
| 箇所 | 対全数の割合(%) | |
|---|---|---|
| 病院 | 2,407 | 28.0 |
| 診療所 | 19,950 | 20.0 |
| 訪問看護 ステーション |
5,815 | ― |
ちなみに下記の在宅医療実施件数の推移のグラフと「訪問診療を実施している医療機関」と「在宅医療実施件数の推移」のデータから、在宅医療を行っている病院、診療所が1年の間にどれくらいの件数をこなしているのか推計してみました。

病院、診療所それぞれ1か所あたりの平均件数は、病院が約120件、診療所が約55件です。医療機関の規模にもよりますが、在宅医療以外に一般診療を行っているところも多いことから、在宅医療に専念する余力が時間的にも、人員的にも不足気味に思われます。
ムダな事務作業が減り、在宅医療&介護を支えるスタッフの連携もスムーズになる!?
在宅医療に求められるスタッフの連携は、さまざまな疾患を抱える高齢者が増えていることも大きな要因です。
なかでも、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、がんなどの疾患に加え、認知症や精神疾患がある場合、医師、看護師、介護士以外に、リハビリを担当する理学療法士、服薬管理の薬剤師など、さまざまな専門職が関わるようになるため、より多くの情報共有が必要になってきます。
こうなると患者宅にノート1冊を置いておき、そこに各自が診療内容や検査データを記録しているようでは、急変時や重症化した際に速やかに対応できない可能性もあります。
定期的に診療を受けているのに、各スタッフが患者宅に行って初めて容態を確認しているようでは、ケアを受ける患者や家族にとっても不安です。そこで時間や空間を超え、瞬時に必要な情報が共有できる「IT化」に白羽の矢が立つようになったのです。
IT化による情報共有で地域包括ケアの拡充へ
多職種のスムーズな連携が、最終的には迅速かつ効率的な高齢者のサポートにつながる

情報共有に適したIT機器は、誰もが使いやすく、できるだけコストのかからないもの、さらに、セキュリティー対策が万全に整い、安心して使える環境にあることがポイントです。
例えばですが、10月7日から10月9日までの3日間にわたって東京ビッグサイトで開催された第42回『国際福祉機器展 H.C.R. 2015』でも、コニカミノルタ株式会社が開発中のウェアラブル端末である「ウェアラブルコミュニケータ」を参考展示していましたが、株式会社リコーも同様の製品を開発中。
10月9日から10日まで開催された第19回『日本遠隔医療学会学術大会(JTTA 2015)』に参考出品し、今後の製品化に向けてフィールド・テストを進める意向を明らかにしています。
株式会社リコーのウェアラブル端末は、同社のクラウドベースのウェブ/テレビ会議システム向けの拡張デバイス。
カメラとディスプレイを備えており、想定される使用シチュエーションとしては、在宅ケアを担う訪問看護師とかかりつけ医のコミュニケーション支援をはじめ、災害や事故現場と医療機関との情報共有や遠隔地の介護指示、医療機器のメンテナンス利用など。
現時点では専門家同士の使用が前提となっているようですが、いずれは医療や介護の専門家と在宅介護に携わる家族との組み合わせが当たり前になっていくのではないでしょうか。

また、9月21日のニュース「医療や介護の情報を一元管理。
超高齢社会に必要な地方自治体向けシステムが構築中」でもお伝えしましたが、介護予防・日常生活支援総合事業の展開において、インターネットを活用した情報の共有や連絡を構築するシステムも開発中とのこと。
地域全体をひとつのネットワークとすることで、多職種がしっかりと連携し、高齢者に対するフォローの大幅な迅速化・効率化につなげられるのではと期待されています。
在宅医療と介護を支える理想のIT機器に加えて、求められるのは心の連携か
最近は軽量で携帯しやすいタブレット端末やスマホの利用も増えてきました。なかには自分の声を発するだけで音声認識機能が作動し、文字化されて情報共有が可能になる医療、介護専用のSNSも登場しています。
また、テレビ電話を使い高画質の画面を介して、医師が在宅患者の顔色や表情などを確認したり、脈拍、呼吸、血圧、体温といったバイタル情報が病院に転送され、遠隔医療を行っているケースもあります。
このようにITを医療、介護分野で多角的に利用する方法は今後さらに活発になってくると思われます。
ただし、多職種連携におけるIT化は単なる情報共有の切り札ととらえたほうがよいかもしれません。それだけで在宅医療の連携がうまくいくとは限りません。
「最期は病院ではなく住み慣れた自宅で」と望む人たちが半数以上に及ぶことを考えると、地域包括ケアの拡充を図るうえで、それぞれの患者に接するスタッフが、心をひとつにし、チームとして支え合えるよう、お互いに意識改革を図ることも大切です。
そのための教育なり、研修制度を整えていく対策も必要な時期にきているのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定