
高齢化の進展や地域の小規模な食料品店の減少、ロードサイド店や大型店の出店も増加…といった背景から、日常的な買い物が困難な「買い物弱者」の問題がクローズアップされて久しい現状があります。
「買い物」と簡単に言っても、介護や医療などと比べて深刻な問題としてとらえない向きもありますが、たとえば高齢者が好きな時に買い物に行けなくなると、食べ物を買えなかったり、必要な薬を手に入れられなかったり…と、栄養や健康におけるマイナス面が出てきてしまいます。
とはいえ、買い物は買い物。介護や医療のように公的な制度が整っているわけではなく、だからこそ今、社会的な課題としての対応に迫られているのです。
そこで今回は、「買い物弱者」の背景と現状、課題、そして望むべき姿について考えてみました。
買い物弱者が増加する社会的な背景と現状、そして課題とは?
意外や意外?買い物弱者が多いのは神奈川、大阪、北海道という大都市
「買い物弱者」と聞くと、単に「買い物に行くのに困っている人」というイメージを持つ方が多いと思いますが、実は、れっきとした定義付けがなされています。
経済産業省による「買い物弱者」の定義
流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている人々
農林水産省 農林水産政策研究所による「買い物弱者」の定義
自宅からスーパーなど生鮮食料品販売店舗までの直線距離が500メートル以上離れ、自動車を持っていない人
ちなみに、農林水産省 農林水産政策研究所の調査によると、生鮮食料品店舗まで500m以上の人口推計は以下のようになっています。
生鮮食料品店舗まで500m以上の人口推計
| 地域区分 | 人口 (万人) |
総人口割合 (%) |
65歳以上人口 (万人) |
65歳以上人口割合 (%) |
|
|---|---|---|---|---|---|
| 生鮮食料品店舗まで500m以上の人口数 | 全国 | 4600 | 36.2 | 1100 | 38.9 |
| 三大都市圏 | 1700 | 26.6 | 380 | 27.7 | |
| 東京圏 | 740 | 20.9 | 160 | 21.9 | |
| 名古屋圏 | 520 | 46.0 | 110 | 46.5 | |
| 大阪圏 | 480 | 25.9 | 110 | 27.0 | |
| 地方圏 | 2900 | 46.1 | 750 | 48.9 |
データは少し古いものになりますが、2010年時点における生鮮食料品店舗まで500メートル以上の人口は約4600万人で、実に総人口の36.2%にまで上ることがわかっています。
このうち65歳以上の人口は1100万人で、前回調査となる2005年のデータよりも11.9%の増加。このうち、地方圏は8.0%の増加にとどまる一方、三大都市圏では20.4%と、買い物弱者予備軍の増加が待ったなしで進行していることがわかります。
農林水産省的な定義によると、完全なる買い物弱者と呼ぶには、「自動車を持っていない」ということがポイント。そこで、生鮮食料品店舗まで500メートル以上で自動車を持たない人口についても調べてみました。
生鮮食料品店舗まで500m以上で自動車を持たない人口推計
| 人口 | 65歳以上人口 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 神奈川県 | 58.2万人 | 1 | 北海道 | 24.8万人 |
| 2 | 大阪府 | 53.3万人 | 2 | 大阪府 | 22.8万人 |
| 3 | 北海道 | 52.2万人 | 3 | 神奈川県 | 22.0万人 |
その総数は、なんと850万人!そのうち65歳以上高齢者の人口は380万人と推計されています。
内訳を詳しく見たのが上図の表。
人口自体が多いということもありますが、神奈川県、北海道、大阪府がトップ3を占めていることが一目瞭然。
買い物弱者と言うと、農村部や中山間地域など過疎化が進んだ地域での問題だと思われがちですが、実際には都市部で発生しているのです。
例えば神奈川県などには顕著ですが、高度経済成長期に建てられた団地の住民の高齢化が進む状況では、坂道や階段の上り降りが大きな負担となったり、団地近辺のスーパーが事業を撤退したりするなど、毎日の買い物に苦労する人が増えているのです。
買い物弱者が発生してしまう3つの要素とは?
買い物弱者が発生する要因としては、主に3つが挙げられます。
①競争激化に伴う地元小売店の廃業・閉店
②住民の高齢化による、自動車を運転できない人の増加
③郊外型の大型店の増加
買い物弱者の発生要因としては、大型店の出店や後継者不在などの影響を受け、地域住民にとって身近な存在だったはずの小規模店舗や商店街が減っていることが大きいと言えます。
下記は、飲食料品小売業の推移を記したグラフですが、2004年から減少の一途をたどっていることが一目瞭然です。

全国の飲食料品小売業の事業所数は、2004年に45万店舗近くあったものが、10年後の2014年には25万店舗弱にまで減少。
都市構造の変化や消費者のライフスタイルの多様化などさまざまなファクターが背景にあるとはいえ、この減りようはかなりショッキングな数字ではないでしょうか。
“高齢者の買い物”にスポットをあててみると、加齢とともに身体機能が低下する中で、こうして近所の店がなくなってしまうと、特に自家用車を持たない高齢者やバス停まで歩いて移動するのが難しい高齢者にとっては、移動手段を確保することすらままならず、結果として日常的な食料を買うことも難しくなってしまう…というのも想像に難くありませんね。
インターネットを活用した買い物は、高齢者にはハードルが高い!?
では、インターネットを活用して買い物をすれば良いじゃないか、という声も聞こえてきそうですが、高齢者にとってはそれも高い壁になってきます。
買い物弱者問題の取り組みとしてネットスーパーに対する期待の声が高まってきている昨今。
確かに、インターネット利用率は年々高くなってきてはいますが、70歳以上となると5割弱、80歳以上では3割にも満たない数字となっており、高齢者にとってインターネットを活用しての買い物が以下に難関であるかがわかります。

そう考えると、現在の70歳以上の高齢者に対してはインターネット周辺のサービスを整備するよりも、買い物バスや移動支援関連の方が、高齢者支援としては有用なサービスと言えるかもしれません。
とはいえ、団塊の世代が後期高齢者の仲間入りを果たす2025年あたりは、まさに時代の転換期となりそう。60代あたりまでくるとパソコンの使用に抵抗が少ない人が多くなり、インターネットを活用した買い物の裾野も一気に広まるという予測も。
今後は流通業の大手企業などがこぞってネットスーパーに参入してきており、高齢者世代に限らず共働き世帯や子育て中の主婦などを対象としたマーケットが急速に拡大していきそうです。
買い物弱者を救うための支援策は“民間任せ”になっているのが現状
企業・住民・行政が三位一体となることが、買い物弱者救済の近道のはず!
買い物弱者の増加を受けて、特に都市部を中心に支援の輪が広まっています。その一例が、以下。
| 取り組みの内容 | |
|---|---|
| 横浜市公田町団地 (横浜市) |
1960年代なかばに住宅公団(現在のUR)によって開発され、約2000人が居住する公営団地。高齢者率は40%近く。15年ほど前にスーパーが、5年ほど前にコンビニが、それぞれ撤退。団地では、自治体メンバーが中心となってNPO法人を設立し、定期的に「あおぞら市」を開催しています。 |
| 村山団地 (東京都武蔵村山市) |
4000世帯、約8000人が暮らす同団地も、高齢化は45%近く。商店街までの往復も距離があるものの、2009年10月から商店街が送迎手段として自転車を活用し、希望者宅と商店街を行き来する送迎サービスを開始しています。 |
| 泉北ニュータウン (大坂府堺市) |
子ども世代が巣立ったりして高齢化した夫婦世帯や単身世帯が増加。近隣のスーパーも相次いで撤退するニュータウン近辺は急坂も多く、高齢者には日常的な買い物が困難な現状。そこで、堺市からの提案を受けた商店街振興組合の有志が、2011年6月から移動スーパーを開始しています。 |
特に団地やニュータウンといったところでは、入居した高度経済成長期に子育て世代であった年代が高齢化し、買い物弱者の増加が著しい場所。
その多くは、経済的な理由などから転居することもできず、そのまま買い物弱者へ…という道を辿ってしまっているのが現状のようです。
こうした現状を改善していくためには、例えばですが、店舗の出店や撤退によって地域住民に大きな影響を及ぼす企業が、その社会的責任を果たす形で、何かしらの貢献が必要となるはずです。
一方で地域住民も、当事者意識を強く持ち、「向こう三軒両隣」で支え合うような支援活動に積極的に関わっていくべきでしょう。
同時に行政も、その地域が抱える問題点を把握し、それぞれの実情に合わせた施策が求められるはず。買い物弱者を救済するための公益性の高い事業を継続的に実施すべく、補助金を活用するなど、柔軟な対応を求めたいところです。
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2020年9月7日 制定