最近、芸能人のがん闘病の話題がよく報道されています。治療法や予後、痛みなど、がん治療にはさまざまな悩みや苦しみが伴い、誰もが当事者になりうることであり、そのため関心も高いのでしょう。
国立がん研究センターの発表によれば、2015年の予測がん罹患数(新たにがんと診断される数)は982,100例(男性560,300例、女性421,800例)で、2014年の予測値よりも10万例の増加が見込まれています。
高齢化が進む日本では、がん発見の精度が向上していることも相まって、がんの罹患数は増える一方です。

そんな中、今、がん治療は変化のタイミングにあります。3大治療として知られる手術・化学療法(抗がん剤)・放射線治療に加えて、「がん緩和ケア」を早期からがん治療の柱にしようという考えが広がっているのです。
とはいえ、「緩和ケア=ホスピス=終末期のがん患者がお世話になるもの」という限定的な認識がいまだに根強いのが現状。しかし、緩和ケアはがんと診断された時点から、患者の悩み、苦しみをやわらげる手立てとして活用していけるものなのです。
そこで、今回の特集では「がん緩和ケア」との適切なかかわり方と現状における問題点をあぶりだし、がん治療の「今」を見ていきたいと思います。
増加をたどる緩和ケア病棟…でも、使い方に詳しい人は意外と少ない!?
がん治療の痛みや苦しみを和らげる「緩和ケア」がもたらすメリットとは?
緩和ケアとは、WHO(世界保健機関)の定義によれば、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、患者と家族の生活の質を改善する取り組み」とされています。
日本では、1972年、大阪の淀川キリスト教病院にホスピス・ケアを提供する病床が設けられたのが最初で、2015年6月現在では339(日本ホスピス緩和ケア協会調べ)の緩和ケア病棟が診療にあたっています。
現在は、がんとエイズ患者に対しての緩和ケアが保険適用となっています。

がんには痛みや吐き気、食欲低下、呼吸困難、倦怠感といった身体的な苦痛のみならず、気分の落ち込みや絶望感などの精神的な苦痛、仕事や家族、経済的な問題などの社会的苦痛、さらには死に対する恐怖といった、いわゆるスピリチュアルペインと呼ばれる苦痛をも伴うことがあります。
こうした苦痛によって心身が衰弱すれば、生活の質(QOL)が低下するのはもちろん、がん病変を縮小させる治療自体を継続しにくくなる場合もあります。
そこで重要になるのが「緩和ケア」なのです。
緩和ケアによって心身の苦痛が軽減すれば、食事や睡眠が十分にとれるようになって体力増進につながります。
免疫力も高まり、抗がん剤治療や放射線治療も適切に受けられるように。
また、前向きな気持ちを保てることで、たとえ病変を縮小させる治療効果が表れなくなったときでも、がんとうまく付き合えるようになるのです。
約6割の人が誤解!「がん緩和ケア」は終末期のものだけではない?
がん緩和ケアは、1990年頃まで「終末期医療」とされてきました。
回復が見込めない患者に対して、痛みや苦しみをやわらげることで、穏やかな最期を迎えられるように処置するのが主な役割でした。
しかし、WHOは2002年にその概念を「がん治療の早期から開始すべき積極的な医療」と転換しました。
日本では、2006年「がん対策基本法」の成立によって、都道府県ごとのがん診療連携拠点病院の整備とともに緩和ケアがさらに推進されることに。
2007年には、「がん対策推進基本計画」において、「がん患者およびその家族が可能な限り、質の高い療養生活を送れるようにするため、治療の初期段階から緩和ケアの実施を推進していくこと」が掲げられました。
2014年度の世論調査によれば、緩和ケアの認知度について「よく知っている」「言葉だけは知っている」と回答している人が全体の6割以上となっており、ある程度の認知度は獲得していると考えられています。

一方で、緩和ケアがかかわる段階が早められたものの、“がん緩和ケアを治療の初期段階から受けられる”ことがあまり認知されていないことを示す調査結果もあり、その内容を見ると、緩和ケアに関する具体的なことまでは周知できていないことがわかります。

2010年の結果ではありますが、日本緩和医療学会の調査によれば、「緩和ケアは、がんの終末期だけではなく、がんの初期から治療と一緒に受けることができる」ことを「知っている」が14.4%、「少し知っている」が23.8%、「全く知らない」が58.5%となっています。
なんと全体の約6割が知らないという現状なのです。
これは、もともと緩和ケアが終末期に限った診療とされてきたことや、病気や治療には痛みがつきものだという固定観念から、治療を受けているタイミングで痛みを和らげるという意識をそもそも持ち合わせないことに起因しているようです。
疼痛治療に使われる鎮痛剤やモルヒネなどの医療用麻薬に対して、「中毒」「命が縮む」といったイメージを抱きがちな点も緩和ケアを遠ざける要因になり得ます。
しかし、がんの痛みの治療には、医療用麻薬が最も効果的で、誤解されているような副作用は認められないことが明らかになっています。
従来のがん治療の考え方では、「がんを治す」ことに関心が向けられ、医療機関でも患者の「痛み」「つらさ」に対して十分な対応がなされていませんでした。
しかし、初期段階からの適切な緩和ケアの介入によって、予後の改善がもたらされた事例も発表されています。
がん治療が必要になったら、ぜひ同時に緩和ケアについても検討してみてください。
「がん緩和ケア」を受けるには?医療費は意外と低額!?
緩和ケアは、がんの治療中かどうかや、入院、外来、在宅療養などを問わず、いずれの場合でも受けられるようになってきています。専門的な緩和ケアを受けるには、主に、「緩和ケアチームによる診療」と「緩和ケア病棟に入院する」方法があります。
緩和ケアチームによる診療
緩和ケアはがんの治療と同時進行で受けることとなり、そうした場合は特別に編成された“緩和ケアチーム”が担当するケースがほとんど。
施設によって体制はさまざまですが、医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、栄養士、リハビリテーションスタッフなどがチームとなって、緩和ケアを提供。
全国のがん診療連携拠点病院には、すべて緩和ケアチームがあり、入院、通院治療を通じて緩和ケアを受けることができます。
一般病棟でがん治療を続けながら、同時に緩和ケアを受ける場合、「緩和ケア診療加算」が加算され、加算を含めた医療費には医療保険が適用されます。
1日3,900円で、3割負担の場合は1,170円/日、1割負担の場合は390円/日の加算料となります。
ただし、入院治療にかかる医療費は高額療養制度の対象になるので、一定額を超えた費用は申請を行い返金を受けることが可能です。
| 医師 | 痛みなどの体の症状の緩和を担当する医師と、精神症状の治療を担当する医師が、担当医と協力して治療を行います |
|---|---|
| 看護師 | 患者さんや家族のケア全般についてのアドバイスを行います。転院や退院後の両用についての調整も行います。 |
| 薬剤師 | 患者さんや家族に薬物療法のアドバイスや指導を行います。また、医療者に対して専門的なアドバイスを行います。 |
| ソーシャルワーカー | 療養にかかわる助成制度や経済的問題、仕事や家族などの社会生活、療養先に関するアドバイスなどを担当します。 |
| 心理士 | 気持ちの問題などについてカウンセリングを行ったり、心理検査などを行います。家族のケアも担当します。 |
| 栄養士 | 食べたりのんだりすることにかかわる問題に対応して食事の内容や食材、調理法についてのアドバイスを行います。 |
| リハビリ専門職 | 患者さんの自立を助け、日常生活の維持のためのアドバイスや治療を行います。 |
また、緩和ケアチームのスタッフは、緩和ケア外来として通院中の患者に対して外来で診療を行ったり、地域の診療所や訪問看護ステーションと連携して、自宅で緩和ケアを支援したりする場合もあります。
緩和ケア病棟(ホスピス)に入院する
緩和ケア病棟は、別名として「ホスピス」とも呼ばれます。
施設によって受け入れ基準は異なりますが、緩和ケア病棟に入院できるのは、がんの進行に伴う身体的、精神的な苦痛があり、がんの治癒を目指した治療が難しくなっていたり、治療を望まなかったりする患者が主になります。
医療費は定額制で、入院30日以内の場合は1割5,050円、31日以上60日以内の場合は1割4,510円、61日以上の場合は1割3,350円となります(病院によっては加算が付く場合あり)。
ただし、入院治療にかかる医療費は高額療養制度の対象になるので、一定額を超えた費用は返金されます。その他、食事療養費や室料差額などの医療保険適用外の費用は別途かかります。
日本人は緩和ケアを受け入れにくい!? がん治療との一体化の周知が今後の課題に

ここまで緩和ケアについて説明してきましたが、根本的にがん治療と緩和ケアを分けて考えること自体が問題だという指摘もあります。
アメリカやヨーロッパをはじめとした諸外国における緩和ケア、がんの治療自体が、いわゆる“ケア”の一部として欧米では、緩和ケアは「がんの治療やケア全体の一部」として見られているケースが増えています。
アメリカのガイドラインにおいて、緩和ケアを提供する主体が「主治医らの治療チーム」なのに対し、日本で緩和ケアを提供する主体は緩和ケアチームやホスピス担当医。
欧米のようにがん治療にあたる主治医らが早い段階で緩和ケアの専門医を交えて、治療と緩和ケアを一緒に提供できれば、治療中の患者が抗がん剤の副作用に苦しんでいないかを早期に確認したり、あらかじめ強い副作用が起こらないよう予防したりすることが可能になるといいます。
また、退院後も緩和ケアが必要になるケースでは、入院していた病院と自宅近くの病院や診療所などのネットワークがあってはじめて、きめ細かな形でケアが実現されます。
しかし、今のところこういった連携は十分とは言えない状況です。病院や担当医が変わると治療方針や薬が変わるなど、ケアの一貫性が保たれづらいという問題もあります。
「我慢は美徳」という精神を強く持つ日本人は、緩和ケアを受け入れにくい民族かもしれません。
しかし、痛みやつらさを解放することで治療に立ち向かう力に変えることができます。
“生きるための緩和ケア”として患者サイドも積極的に緩和ケアを希望することで、より一層ケアの質も充実していくものと思われます。
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2020年9月7日 制定