電動車椅子の出荷数は2.5倍に拡大している
免許返納で需要が増加?
現在、電動車椅子の出荷台数は、30年前と比べて2.5倍近くまで増えています。
電動車椅子安全普及協会が公表している資料によると、2018年における電動車椅子の国内出荷台数は2万4,772台。30年前となる1989年には、1万台ほどの出荷数でした。

電動車椅子とは、最高時速6km以下で走れる乗り物です。道路交通法上は歩行者としてみなされるため、運転免許を持っていない人でも運転することができます。
この出荷台数増加の背景にあるのは、自動車運転免許を返納する高齢者の状況。相次ぐ高齢ドライバーによる事故の影響で、免許を返納した高齢者が自動車から電動車椅子へと乗り換えているのです。
この電動車椅子人気の過熱を受け、大手自動車メーカーであるトヨタも、2019年の東京モーターショーに電動車椅子を出展。公道で実証試験を行い、今年から2021年にかけて市場に投入をするとしています。
またJALは、2019年11月、羽田空港で障がい者や高齢者を対象とした自動運転型の電動車椅子の試験走行を実施しました。さらにANAも2020年2月に成田空港で同様の実験を行うなど、自動運転型の製品も実用化されていく見通しです。
しかし、免許が不要というその特性から、安全性に関する対策については不十分なままではないかという指摘もあります。
新しい技術で安全性を高める動き
前述のような問題はメーカーも把握をしており、電動車椅子の安全性を高めるためのシステムが開発されつつあります。
2019年10月、電動車椅子「セニアカー」を販売している自動車メーカーのスズキは、NTTコミュニケーションズとともに、搭乗する高齢者をIoTで見守る実証実験を行うと発表しました。
この実験では、セニアカーにGPSやセンサーなどを搭載し、位置情報や傾きなどのデータをNTTコミュニケーションズのクラウドに集積。家族のメールアドレスをあらかじめ登録しておき、転倒をはじめとした異常を感知した場合はメールで連絡をするというものです。
また、同年12月には、電動車椅子や関連機器の輸入販売メーカーであるとライクスジェイピーが、車椅子用ドライブレコーダーの予約販売を開始。
前と後ろの両方にカメラがあるタイプで、液晶モニターを搭載することで、事故など有事の証拠となる映像を保存できます。
そのほか、バックモニターとしても活用できます。
危険性についての指摘が多く挙がるなかで、自動車の安全対策からの流用や、最新技術を用いたものまで、メーカーはさまざまな方向性の対策を打ち出しているのです。
交通機関を中心に進むバリアフリー化
車椅子需要の拡大に対応すべく、公共交通機関を中心とするバリアフリー化も推進されています。
国土交通省は、新幹線をバリアフリー化すべく、2019年12月に、鉄道事業者や障がい者団体で構成する「新幹線のバリアフリー対策検討会」を設置。
さらにその下に「新幹線のバリアフリー ソフト・ハード対策検討WG」というワーキンググループを設置し、今年1月に会合を実施しています。
3月には、赤羽一嘉国土交通大臣が定例会見のなかで、こうした新幹線のバリアフリー化に関する中間とりまとめの内容について言及しました。
ハード面では、座席を取り外すことで車椅子のまま快適に乗車できるフリースペースの設置、ソフト面では、車椅子に対応する座席の販売を従来の電話や窓口に加え、ウェブでも行えるようにするなどの対策が示されました。
近鉄日本鉄道も、2月に国内初となる特急列車の車椅子対応席のネット販売を開始するとしています。
首相官邸からは、空港への車椅子に対応するリフト付きバスや、ユニバーサルデザインタクシーなどの導入支援が発表されています。
しかし安全性や利便性には不安も…
安全基準が守られていない車椅子があると判明
一方で、車椅子の安全性は度々問題となっています。
3月19日、国民生活センターは、2014年3月から2020年1月までに手動車椅子の破損についての相談が95件寄せられ、そのうち危害や危険の生じた事例は30件だったことを発表しました。

さらにそのうち2件が重傷を負うほどの事故で、2014年10月に60代の女性、2018年6月に50代女性が被害者となりました。
詳細を見ると、60代女性は、玄関のスロープで車椅子右側の前輪が脱落し、壁に激突。足の打撲と肋骨の圧迫骨折を負いました。50代女性は車椅子に座って背もたれに寄りかかった際にパイプが折れ、車椅子ごと後ろへ転倒。肋骨にひびが入るなどの重傷でした。
これを受け、同センターは3万円未満の車椅子6商品について耐久テストを実施。そのうち3商品について、JIS(日本産業企画)の規定する安全基準に達していないことが発覚しました。
3商品はいずれも、JISや製品安全協会のSGマークを取得していなかったそうです。重傷事故との関連はわからないとされていますが、この耐久テストで同じ価格帯でも耐久性に差があることがわかったのです。
同センターは業界団体に改善を求めるほか、消費者にもJISマークやSGマークのある商品を選び、メンテナンスや点検を行うように呼びかけています。
自動車事故の際の死亡リスクが高い
車椅子自体のことだけでなく、車椅子の人を移送する際の安全性も問題となっています。
2019年10月、北海道北斗市の介護施設が自動車で車椅子の利用者男性を送迎する際、車内で車椅子が倒れ、男性が意識不明の重体になる事故が発生。
原因は、車椅子を固定するバンドのフックをかけ忘れたまま車を走らせていたことだったとされ、施設は利用者の新規受け入れを停止する行政処分を受けました。
また同年11月には、富山県富山市で、車椅子の利用者男性を乗せたデイサービスの車が、軽自動車と交差点で衝突。利用者の男性が死亡する事故が起きています。
さらに同日に同じく富山市で、デイサービスの送迎車と乗用車が衝突する事故が発生し、車椅子で移送されていた女性が死亡しています。
この事故では、死亡した女性のほかにも、運転手や施設のスタッフ、送迎中の高齢者4人が乗っていました。にもかかわらず、同乗のスタッフは無傷、高齢者4人は軽傷で、車椅子の女性だけが死亡していることが問題視されました。
亡くなった女性は腰が曲がっていたことから、首にベルトがかからず、腰だけを固定する2点式のシートベルトを使用していました。しかし事故の衝撃によってシートベルトがずれたことで、胸部を圧迫されたり前後に揺さぶられたことが死亡の原因とされています。
もともと、車椅子にはひじ掛けや、その下の衣類の巻き込みを防ぐためのスカートカードと呼ばれる板がありました。このスカートカードとシートベルトとの相性が悪いことについて指摘が多くあり、送迎の安全対策にはまだ課題が残るのが現状です。
車椅子に優しいはずのUDタクシーが乗車拒否
こうした事故のリスクもあってか、UD(ユニバーサルデザイン)タクシーでの「車椅子の乗客拒否」が問題となっています。
UDタクシーとは、車椅子の人や妊婦さん、子連れの方を含むすべての利用者にとって利用しやすいデザインのタクシーのことです。
障がい者団体であるDPI本会議は、昨年10月、車椅子利用者120人を対象に調査を行いました。
その結果、全体の27%となる32人が、車椅子のまま乗車できるはずのUDタクシーで乗車拒否されたことがあると回答したのです。

中には、運転手が車椅子の利用者を車内に登場させるためのスロープの使い方を知らなかったという例もあり、同団体は国土交通省に改善を求めています。
この問題について、2018年には国土交通省が乗車拒否を行わない旨の通達を出していましたが、いまだに解決されていない現状が露わとなったのです。
上で紹介した車椅子の安全対策なども大きな問題ですが、車椅子の人を素直に受け入れられない環境や個人の意識があることも解決すべきこと。
バリアフリーや安全の確保などの環境を整えるだけでなく、こうした周知などの活動についても、政府が有効な施策を打ち出すことが期待されています。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 6件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定