三田村薫
中村淳彦取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
まずリーダーが自分自身が変わらないと。自分からの変革がないと、下につく介護職員も変わらない(三田村)
中村 三田村さんはケアマネ出身の介護コーチ、研修講師として全国の介護事業所をまわっています。著書に「介護リーダーが困ったとき読む本」があり、「コーチングで日本中の介護にかかわる方々の充実、充足をはかる」と掲げている。まずコーチングとは、なんなのでしょう?
中村
三田村三田村 コーチングはコミュニケーション。その方の目的とか目標を決めて、現状からそこに到達するため、なにをどうしていくかを考えていくこと。現状と目標のギャップを早く埋めるために、なにをどうしていきましょうかと、引きだしていくわけです。
中村 介護職向けとか、リーダー向けとかあるのでしょうか。コーチとはダメな人、できない人をできるようにするってことですよね。
中村
三田村三田村 いや、そうとは限りませんね。例えば職員のモチベーション低くて現場が円滑にまわらない、と悩むリーダーがいたと。職員にどうなってもらいたいのかを決めて、ゴール設定をするんです。ではその職員が自分で考えて行動するために、あなたはリーダーとしてどうアプロ―チをします?と問う。それを考えてもらうのがコーチングです。
中村 なるほど。コミュニケーションを深く掘るわけね。しかし、僕は介護現場でヒドイ経験をしている。問題ある職員になにか言ったら逆キレとか、さらにこじれるとか。やる気ないのは常識がないとか、人格的なことが大きい。そんな人をポジティブにさせるのは至難の業でしょう。
中村
三田村三田村 ははは、崩壊する介護現場は読みましたよ。こわい話がたくさんでした。確かに難しいのはわかります。けど、介護業界はそういう方ばかりじゃないですから。
中村 著しく多い現実はある。現場の荒れ方は尋常じゃないし、ヒドイ。業界全体の話をすれば、そういう人ばかりじゃないと蓋をするのはよくないでしょう。底上げしないと話にならない、って問題意識はずっとある。
中村
三田村三田村 やって欲しいことを伝えたからと、急にやる気がでることはありえない。魔法じゃないし。だから言い続けるしかない。リーダー研修で伝えるのは、職員に変わってもらおうとか、コントロールしようとなると、人は抵抗する。まずリーダーが自分自身でなにを変えることができるか、と。自分の行動を変えるのか、考え方を変えるのか。自分からの変革がないと、相手も変わらないよねって。
多様性の基本である「立場による違い」がわからなければ、他人のことなんかわからない(中村)
中村 介護業界って介護を変える、日本を変える、自分を変えるとか、なんか変わる、変わるって話が多すぎる。具体的に見えるように教えて欲しいけど、リーダーだろうが職員だろうが、自分を変えるって相当なことですよ。今までの人格を捨てるわけだから。
中村
三田村三田村 まあ、そうね(笑)。よく言うのは、なにか同じことが起こったとき、捉え方は人によって違う。捉え方をプラスにとるか、マイナスにとるか。自分の反応で全然違うわけ。プラスかマイナスを決めているものって、自分の体験とか経験とか。そこにまず気づこうということ。
中村 難しいなぁ、多様性を理解しようってこと? 例えばよくいるのが意識高い系おばさん。前の職場はこうだったけど、今の事業所は本当にダメみたいなことを言いまくる奴。そんなの事業所でやり方が違うのだから迷惑でしかない。で、注意したら逆キレでしょう。
中村
三田村三田村 意識高い系おばさんって、私(笑)? まあ、それはあるか。先ほど底上げと言っていたけど、中村さんは具体的に介護業界どうしたらいいと思っているの?
中村 人材に関しては、やる気がない、向いていない人を受け入れている。大前提として入口が広すぎる。全入状態で全部事業所が責任もって人材育成みたいなことは、酷。やる気ない人が変わるならコーチングしまくればいいけど、素養がなければどうにもならないでしょう。
中村
三田村三田村 人員基準があるから入職の敷居は低くなるよね。でもね、私もそうだし、実際にコーチングで変わった人はたくさんいるの。私はメチャ文句言いだった。ケアマネだったので自分の環境がうまくいかないと、会社からいろいろ言われますよね。ちゃんとしろとか、人材育成しろとか、ケアプラン数を増やせとか。
中村 コーチング前の三田村さんは、そういう一般的な会社の要求に反発していたのですか?
中村
三田村三田村 そう。会社はケアマネのことをまったくわかっていない、って文句を言いまくって、この地域には高齢者が少ない、ケアプラン数が増えないのは私のせいじゃないとか。ギャーギャー言っていましたよ。上司とか会社に直接ね。
中村 それは、キツイ。売上が上がっていれば我慢するけど、プラン数が少ないなら会社からすれば、最悪の職員ですね。じゃあ、今すぐ辞めれば?ってなるでしょう。
中村
三田村三田村 だから辞めるって大騒ぎしていましたよ。そんな状態からコーチングをやりだした。だんだん考え方が変わって、自分は、自分が思い込んでいることに気づかない。それまでは言われたことは無理、私が正しいと言っていた。自分一人だったから。一人だと思い込んでいることに気づかない。自分はすべて正しいと思い込んでいるわけだし。
中村 多様性の基本である立場による違いがわからなければ、おそらく他人のこともわからない。介護関係職でよく聞く不平不満ですね。そういう人はとにかく職場の雰囲気や人間関係も壊しがち。
中村改善したいことがあるなら、自分からなにかしら行動に移して不満な現状を潰していくしかない(三田村)
三田村三田村 コーチングを勉強して、違う考え方があると初めて気づいたわけです。少しづつ考え方が変わって、自分以外の人からすれば、それは違うってこともあるんだなってわかった。他のケアマネからしたら、ケアプラン数が増えるのは楽しいじゃん、みたいな話もあったし。
中村 ケアプラン数が増えれば、作業は増えるけど、新しい利用者と出会える。同じケアプラン数が増えたことでも、仕事が増えることだけに執着して不平不満をいえば、周囲や利用者は嫌な気持ちになるだけ。けど、新しい出会いと思えば好循環になる。全然違うね。
中村
三田村三田村 そうそう。自分以外の考えもあることを理解して、そういう視点もあるとわかったら、気持ちが楽になるんです。文句ばかり言っていた頃とは、心の持ちようが違う。だから、私は変わったんですよ。30代前半、12年くらい前のことですね。
中村 男性と女性で違うかな。一般的に女性は変わりたいみたいなことに柔軟、自分を否定して受け入れることができる。反面、自分も含めて中年男性はキツイ。無駄なプライドが高いし、客観性が薄いし、変わりようがない。不平不満を言うのは、圧倒的に男性のほうが多いし。
中村
三田村三田村 まあ、中村さんは無理そうです(笑)。中年男性でも変わりますよ。変わった方はたくさんいる。女性より少ないかもしれないけど、変わった事実はたくさんあるわけで。
中村 すべて自分が正しいとは思わないけど、職場に言われて自分が変わるとかありえないよね。考えられない。それは男性の一般的な傾向と思うなぁ。まあ、だから僕は向かない介護を辞めたわけだけど。
中村
三田村三田村 不満な現状がなければ、なにも変わらなくていいと思うけど、改善したいことがあるなら、自分からなにかしら行動に移すしかない。小さいことでいえば、自分から挨拶するとか、笑顔を増やすとか。やっぱり自分から動いて、不満な現状を潰していくしかないわけで。
中村 そうか。不平不満を言っているだけでは、単なる迷惑な人だからね。個人的な話だけど、介護現場やっているとき、現場は荒れまくっていたの。いったいなにが悪かったのか、今でもわからないんだよね。
中村スタッフ間のコミュニケーションがしっかりしていれば、介護の現場が崩壊するなんてことはない(三田村)
三田村三田村 現場が荒れていたって、どういうことでしょう?
中村 職員の歯止めが効かなかった。自分は多様性あるタイプで、あまりガーガー言わない。それなりに個性を尊重した。そこでイジメ、パワハラとか本当にいろいろあって、酷いのになると泥棒とか覚醒剤とか。入口が広いとか賃金が低いことも含めて、介護現場って人の悪い部分が露呈する。そういうイメージがある。
中村
三田村三田村 ははは、すごいですね。でも誰かが手を打たないと、そのままですね。放置するのは絶対にまずいですよ。
中村 で、注意したら逆キレでしょ。逆キレした職員からストーカー被害に遭ったことがあって、本当に大変だった。まあ、そういう場を作り上げた自己責任はあるけど。思えば、研修に時間や費用を割かなかった事実はある。
中村
三田村三田村 まあ、研修に時間とお金をかけるところは、ちゃんとしているっていうのは、すごくわかる。私は職業柄、研修費をかける事業所にしか行っていないじゃないですか。ちょっと余裕があるというか。なので、そこまでヒドイ話は聞かないですね。
中村 研修に投資する事業所は好循環となると、研修内容以前に三田村さんを研修講師として呼ぶまでの体制を作れるのかって話になる。介護保険改正で小規模が絞めつけられて、いい事業所と厳しい事業所の二極化が進んでいると聞くし。厳しい事業所は研修するか、しないかがポイントの一つになるわけか。
中村
三田村三田村 まあ、中村さんが辞められたように、今後は研修に手が届かない事業所はどんどん潰れるでしょうね。昨年の改正で介護は厳しいと言われだしてから、私が呼ばれる回数は増えた。研修にお金をかけようっていう事業所はかなり増えていますよ。
中村 フロアリーダーや管理職を対象にした「リーダー研修」が最も需要があるみたいですね。
中村
三田村三田村 リーダーの役割、指示指導、スタッフ教育、情報共有、リーダーシップとか、リーダーに必要なことを教えています。簡潔にいえば、介護スタッフ間のコミュニケーション。コミュニケーションがとれていれば、お聞きした事業所のような崩壊状態にはならないですよ。
中村 ちょっと予定になかった自分がけっこう喋る展開になってしまった。後半は介護コーチング、リーダー研修の具体的なことを聞かせてください。
中村
