
年々増加する高齢者ドライバーにより引き起こされる交通事故。昨年10月には、宮崎県で70代男性が運転する自動車が歩道を暴走、6名が死傷する痛ましい事故がありました。この男性は数年前から認知症の症状があり、複数回の交通事故を起こしていました。
死傷事故はなぜ未然に防げなかったのか。認知症高齢者の自動車運転による事故が多発する昨今、さまざまな取り組みが行われていますが、決定打に欠ける感はいなめません。
認知症ドライバーによる交通事故は減る気配を見せず…。高齢者と車との関係性を考えなおす時期!?
警視庁が2011年から2013年に発生した高速道路逆走事案についての分析結果を発表しています。それによると、全541件のうち、65歳以上の高齢者によるものが68%、認知症の疑いのあるものによるものが37%という結果がでました。

また、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の研究チームが、認知症の疑いのある高齢者の6割が自動車運転を続けているという調査結果を発表しました。
調査は、大府市と名古屋市在住の65歳以上の男女、約1万人に実施した大規模なものです。
この調査からは、認知症が出ても車の運転をやめない現状が見えてきます。
認知症が原因とみられる交通事故を未然に防ぐためには、認知症を持つ高齢者に事故の危険性を説いていく必要があります。認知症の進行はなぜ、自動車事故に繋がるのでしょうか?
認知症の原因別による症状の違いと運転行動の特徴
| アルツハイマー病 | ピッグ病 | 血管性認知症 | |
|---|---|---|---|
| 記憶 | いつ、どこで といった記憶を 思い出せない |
言葉の意味・ 物の名前が 分からず、 会話が通じない |
いつどこでといった 記憶を思い出せない |
| 場所の理解 | 侵される | 保たれる | 侵される こともある |
| 運転行動 | ・運転中に行き先を 忘れる ・駐車や幅寄せが 下手になる |
・交通ルール 無視 ・運転中の わき見 ・車間距離が 短くなる |
・運転中に ボーっとするなど 注意散漫になる ・ハンドルや ギアチェンジ、 ブレーキベダルの 運転操作が 遅くなる |
アルツハイマー型認知症の場合、自分が何処にいるかといった空間の認識ができなくなります。
そのために、行き先を忘れたりセンターラインをはみ出したりがあります。
目的地がわからなくなり、徘徊するうちに事故をセンターラインをはみ出して…という事故を引き起こす危険性があります。
ピック型では、場所の理解はできても交通ルールを理解することが難しくなるので、信号無視をしたり一方通行を逆走したりが起こります。
認知症状が進行すると車の運転ができなくなるということを、本人だけでなく家族も理解して、その事実を共有していくことが大切なことです。認知症は車の運転に必要な能力を低下させるという事実としっかりと向き合う必要があります。
2015年6月の道路交通法改正は交通事故防止の決定打になっていない!?
昨年の6月11日、道交法改正が衆院本会議で可決され、成立しました。
75歳以上の男女が対象です。
3年に1度の免許更新時に、認知機能の検査を実施し、「認知症の恐れ」と判定された場合には医師の診断が義務付けられます。
認知診断が出れば、免許停止か取り消しになります。
改正前でも75歳以上で免許を更新する人は、高齢者講習を受ける前に認知機能検査が義務付けられていました。しかし、「認知症の恐れがある」と判断されても過去1年間に信号無視や逆走などの違反がない場合は、意思の診断を受ける必要はありませんでした。
今回の改正では、医師の診断が義務付けられた上に、もしも認知症状と判断されなくても一定の違反をすれば臨時の認知機能検査を受けることも盛り込んであります。つまり、3年に1度の検査以外にも交通違反を起こす高齢者には認知症チェックを行うということです。
認知症による交通事故を減らす目的で行われた法改正。しかし、この改正には既に「事故を未然に防ぐには甘いのではないか」という疑問の声も出ています。

表にあるように比較的進行が遅いとされるアルツハイマー型であっても、3年間で症状は大きく進行します。
家族が気がつかないうちに認知症が進行しているケースもあり、3年に1度という認知機能検査では運転障害を引き起こしている高齢者を見逃してしまうのではという批判もなされています。
-家族でできる運転みきわめチェック-
運転免許更新時の認知機能検査では大丈夫と判断されても、3年の間に認知症状が進行するケースもあります。
「車をぶつける回数が増えた」「道を間違ってしまう」「信号無視を繰り返す」など認知症が疑われるときには、国立長寿医療研究センターや日本交通心理学会が作成した「運転をやめるタイミングを知るチェックポイント」を利用してみましょう。
| ご自身の運転状況 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 右左折のシグナル (ウィンカー)を 間違って出したり、 出し忘れたり することがある |
いつも ある |
時々 ある |
あまり ない |
全く ない |
| カーブをスムーズに 曲がれないことがある |
いつも ある |
時々 ある |
あまり ない |
全く ない |
| 歩行者、障害物、 他の車に注意が いかないことがある |
いつも ある |
時々 ある |
あまり ない |
全く ない |
| 危険な状況への とっさの対応が できないことがある |
いつも ある |
時々 ある |
あまり ない |
全く ない |
運転免許返上への道--車がなくても楽しい生活へ!
国立長寿医療研究センターが2007年に40才以上のドライバーに運転する目的と意味についてアンケートを行っています。高齢者にとって車を運転することは、食料品を購入したり病院の送迎に欠かせないものになっていることがわかります。
また、運転する意味についての質問では、75歳以上では他の年代に比べて「生きがい」と答える人の割合が高くなっています。
車を運転することが「自分のたのしみ」「自分の生きがい」「自分の自立を示すもの」を選んだ高齢者は、全体の3割を占めていました。
このことから、高齢者にとって車を運転することは、単なる交通手段としてではなく、人生を彩る「楽しいこと」になっていることが分かります。

認知症の高齢者の運転を中止させるためには、「他の交通手段」を確保するだけでなく、「運転にかわる生きがい」を探して明示する必要があるでしょう。
他の交通機関
- 地域が運営しているコミュニティバスや福祉バスを利用する
- 病院やケアハウスなどの送迎バスを利用する
- 自治体が運営する予約制乗合バスなどを利用する
- 介護タクシーや福祉タクシーを利用する
- 予約制乗合タクシーを利用する
運転にかわる生きがい
- 自治体などが運営している高齢者向けの講座
- 自治体などが運営している高齢者向けの講座
- 趣味の講座
- 運動や体操などの健康づくりの教室
- 地域の茶話会など
- 入浴温泉施設への送迎バスサービスの利用
- 老人会、シルバー人材センターへの参加
運転免許返上のモデルケース-成功3事例-
- 事例1
- Aさんは、同居している妻に物忘れが激しくなったことを指摘されて、娘夫婦が住む街に引越しを決めました。その際に、免許も返上。今は移動はコミュニティバスを利用しています。車を手放したことで維持費やガソリン代などの金銭負担が減り、旅行なども楽しめるようになったそうです。はとバスを利用して、夫婦で月に1度の旅行を楽しむ生活です。
- →認知症初期症状で転居。症状が進むことなく、日々の生活を楽しめている。毎月の旅行がよい気分転換に。車を持たないので、よく歩くようになったと聞いています。
- 事例2
- 車庫入れを失敗したり、運転中に目的地を忘れてしまうことがあったBさん。車の運転をやめることは頑なに拒否していました。ところがある日、出先で車の鍵を紛失。パニックになってしまいました。その後、家族で話し合い、基本的には市町村のコミュニティバスを利用することに。車を運転するときには、家族が同乗することを約束させました。
- →同乗する家族が運転を変わるように説得。最終的には、家族に怪我をさせたくないとBさんから免許返上の申し出がありました。
- 事例3
- 買い物にマイカーを利用していた一人暮らしのCさん。親族が心配してマイカーを手放すことを相談しました。ところが車がないと何処にも行けないと断固拒否。 その後、親族が食材や生活用品の宅配サービスを利用を提案。Cさんに代わって代行して注文することに。
- →買い物に時間を取られなくなったので、近所に住む古くからの友人とデイサービスを利用するようになったCさん。運転する回数も激減し、信頼するケアマネージャーや主治医の勧めを聞いて、免許を返上。
「車を手放すときに備えておく」ことは、高齢者だけの問題じゃない!?
しかし、上記のように上手くいくケースばかりではありません。運転免許を返上することを頑なに拒む人も多くいます。その場合は、主治医、警察署・免許セン□ターなどへ早めに相談することが大切です。
車を隠す、タイヤをパンクさせる、ガソリンを入れない、などの荒療治もありますが、被害妄想が悪化して逆効果になってしまうこともあります。まずは、専門家の意見を聞いてみましょう。
認知症による交通事故を防ぐには、発症している高齢者に車を運転させないことが重要です。
しかし、交通手段が他にない、生きがいになっている高齢者から無理やり車を取り上げるのでは、逆効果になってしまうことも。
代わりとなる移動手段を確保することや生きがいに通じる新たな楽しみを見つけることが大切になります。
市町村窓口や民間の高齢者向けサービスなども積極的に利用しましょう。
また、介護する側の私たちも、そう遠くない将来に訪れる「車を手放すとき」に備えておくことも大切です。
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2020年9月7日 制定