認知症の人の介護で官民連携が求められる理由
大学からゴミ清掃車まで、さまざまな分野で進む連携
2021年11月、神奈川県横須賀市にある神奈川歯科大に、敷地内に認知症予防・啓発の複合型施設「RB白浜館」が開設されました。同大はかねてより認知症トータルケア事業で横須賀市と連携協定を結んでおり、2022年度から本格的に稼働します。
この施設では、口腔ケアを始め、認知症のトータルケアを目指します。
認知症予防やリハビリで効果が期待されるeスポーツやカフェなどのサービスを提供したり、ボランティアを通して世代を超えた認知症の理解促進を目的にしています。
利用者の社会参加の機会や、学生がケアを学ぶ場も提供していくそうです。
このように官民が連携した認知症ケアは、全国各地に広がっています。
例えば、栃木県下野市では、認知症の人の徘徊を防止するため、ゴミ清掃車が通常業務を行いながら、施設を巡回する「ふくろうプロジェクト」が始まりました。
ゴミ清掃車が認知症ケアを行うのは、全国初の試みだそうです。
高齢化社会の進展によって、施設介護ではなく在宅介護が中心になると見込まれている中で、認知症を発症しても安心して地域で暮らすまちづくりが求められているのです。
在宅介護者の不安、需要の高まる外出支援
前述の通り、介護関係者だけでなく、地域住民を巻き込んだ、認知症の人も安心して過ごせる地域づくりが進んでいます。その背景には、在宅介護者の不安があります。不安の中には、介護そのものに関するものもあれば、要介護者の生活にまつわるものもあります。
厚生労働省の調査で、要介護度別に「在宅生活の継続に必要と感じる支援・サービス」を尋ねたところ、福祉タクシーによる「移送サービス」、通院や買い物を支援する「外出同行」の割合が多くなっています。

認知症の人の「移送サービス」や「外出」にまつわるサービスは、買い物やサロンへの参加といった、ほかの支援サービスとの関係も深く、各業種との連携によるサービスの充実が求められています。
これに関して、すでに取り組みを始めている自治体もあります。
タクシーやバスなどの既存の交通手段の見直しや、ドア・ツー・ドアの移動を可能とする「デマンド型タクシー」の普及、「地域住民同士の支え合いによる移動手段の確保」など、新たな移送手段の創出を積極的に行っているようです。
認知症における「インフォーマルケア」の重要性
福岡市で実施される画期的な外出支援策
福岡県福岡市では、超高齢社会に即した新たな社会システムづくりを加速させるため、2017年に「福岡100」というプランを策定しました。その中で認知症施策として取り組まれているのが「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」です。
このプロジェクトには九州電力や各鉄道会社などのインフラ業界の企業をはじめ、住宅・情報・金融など、さまざまな業種の企業が参加。
多職種における勉強会を通じて、支援の方針を決定しました。
その中で注目したいのが、「本人の希望を実現するプログラム(楽しくおでかけ編)」です。
このプログラムの目的は、スタッフと認知症の人が大型商業施設へと出向き、その様子から本人の心理やニーズを調査することです。
商業施設にはバスを利用し、買い物や食事などを行ってもらい、その様子を動画で撮影して、専門家による分析を行いました。
その結果、「人と一緒にいることで得られる安心感」や「ウインドーショッピングによる連想効果」など、地域や移動サービスのサポートがあれば、認知症であっても日常を楽しむことができるということが示されました。
今後、福岡市ではこれらのプロジェクトを通じて、誰もが住みやすいまちづくりを推進していくことを表明しています。
認知症の在宅介護で求められる「インフォーマルケア」
外出支援や移送サービスの充実は、介護保険制度に含まれない「インフォーマルケア」のひとつです。こうしたケアを充実させるためには、地域住民や地元企業との協力体制が不可欠だとされています。
経済産業省では、2019年に認知症ワーキンググループを立ち上げ、認知症の人が安心して過ごせる社会を樹立するため、官民連携のあり方を規定しようとしています。
同年に行われた会議では、在宅で認知症の人を介護する家族のニーズを調査しました。
その結果によると、認知症の在宅介護では「インフォーマルケア」へのニーズが高いことが示されています。
特に介護度の低い認知症の人の場合、在宅介護における支援のうち、インフォーマルケアが多くの時間を占めています。
例えば、要支援1の人の場合、「コミュニケーション」に割く時間の割合が25.8%で最多。
次いで「調理」(12.4%)、「通院の付き添い」(8.7%)、「金銭管理」(7.8%)と続きます。

調査結果からもわかる通り、認知症の人の在宅介護では、専門的な介護だけでなく、生活全般に対する支援が求められているのです。
介護をする家族を含めたトータルケアの拡充を
不足している家族介護者への支援
認知症の人に対するさまざまな支援が進む一方で、忘れてはならないのが介護をする家族への支援です。
みずほ情報総研は、独自の指標を用いて認知症の家族介護者のニーズと、それを満たす充足度を調査しました。
この調査では、アンケートで得られた結果から、どれだけ支援に満足しているかを示すギャップを数値化しています。
2.5点未満の項目は充足度が低く、数値が低ければ低いほど、サービスが不足していると想定されてます。
その中でも特に家族介護者が不足していると感じている項目は、「遠くの親戚や友人への近況連絡の支援・代行」(1.9点)、「介護者が、仕事をする時間を確保するための支援」(2.0点)「介護者が、家事等をする時間を確保するための支援」(2.1点)、「介護者が、子育てをする時間を確保するための支援」(2.1点)となっています。

また、介護保険サービスの充足度とのギャップなどを調査すると、「認知症のご家族が地域に出ていくことができる、見守り・関係づくりの支援」(1.4点)、「介護者が、仕事をする時間を確保するための支援」(1.2点)といった、家族の仕事や社会参加に対する支援において不足しているという結果となっています。
認知症カフェを活用した家族支援の展開
国は、認知症高齢者などに対応するための地域づくりの指針として、「新オレンジプラン」を策定しました。
その中で、認知症の人やその家族が地域住民や保健医療福祉の専門家と情報を共有し、お互いを理解し合うための施設として「認知症カフェの設置」を推奨しています。
認知症の人だけでなく、家族介護者への支援の拡充を図るためです。
認知症カフェは、「認知症の人が地域とかかわる機会の増加」や「地域での孤立や閉じこもり防止」、「介護者の負担感の防止」への効果があることがわかっています。
『淑大看栄紀要』に掲載された論文「民生委員からみた認知症の方と家族を支援する「認知症カフェ」の課題と意義― 医療系大学と地域住民スタッフが協働開催するカフェの運用を通して―」では、認知症カフェは介護施設とは異なり、家族介護者が気軽に相談できる窓口としての役割を果たしていると言及されています。
さらに、医療系大学との連携を通じて、学生ボランティアが参加することによって、新しい人間関係が構築できたことで、認知症の人やその家族にポジティブな効果をもたらす可能性があることがわかりました。
また、大学教員や認知症認定看護師といった「認知症の専門家がいる」という安心感や、「楽しむ、学ぶを具現化する場」という側面から、認知症カフェが「インフォーマルケア」の一環として効果を発揮する可能性が示唆されています。
認知症の人に対する、地域が一丸となったトータルケアを実現するためには、自治体や民間企業だけでなく、大学などの教育機関との連携を深めることも求められつつあるのです。
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2020年9月7日 制定