介護保険サービスを実際に運用する市町村の課題
自治体によって差がある介護保険サービス
介護保険に関する問題が挙がると、いつも政府の問題のように思われがちですが、実は地方自治体の問題でもあります。実際に介護保険サービスを住民に提供しているのは地方自治体だからです。
例えば、介護報酬改定などは政府の方針によって行われるものですが、ケアが地域全体に行き届いていないなどの問題は主に市町村の運営によるところが大きいのです。
最もわかりやすいのは介護保険料です。介護保険料は、3年に一度、全国1,571の自治体とその広域連合が見直しを行っています。
現在最も高いのは東京都青ヶ島村で月9,800円。一方、最も安いのは群馬県草津町と北海道音威子府村で3,300円です。その差は6,500円にも及び、年間にすると78,000円にもなります。
介護保険料は、地方自治体がその年に必要と思われる総費用の半分を税金(50%)、残り半分(50%)を保険料として集めています。
また、その計算式は「自治体の介護サービス費用」÷「その自治体に住んでいる高齢者の数」で割り出され、自治体が介護施設などにお金をかけていたりすると、介護保険料が割高になる傾向があります。
例えば、全国平均を上回るペースで高齢化が進む新潟県では、施設サービスの1人当たり給付費が全国で最も高くなっています。そのため、県の平均保険料も全国平均より高い6,302円です。
介護保険料の基準が、介護サービスの質を決めるわけではありませんが、地域によって介護保険の予算や運用が異なることは明らかです。
都市部では介護難民の問題が発生
介護保険の地域差によって起こる弊害が、いわゆる「介護難民」の問題です。
一般に、介護難民とは、特別養護老人ホーム(特養)などへの入居を要しているにもかかわらず、施設に空きがなくて入居できない状態にある人のことを指すとされています。
厚生労働省の調べによると、2019年時点で要介護度3~5の特養待機者は29.2万人。都道府県別でみると、東京都が2万5千人で最高、次いで神奈川県、兵庫県、大阪府、北海道と続きます。ちなみに先述した新潟県は1万人を超えており、全国7位です。

この調査結果からわかるように、介護難民は都市部で増加する傾向にあります。都市部では高齢者人口が多いうえに地価が高いことなどから土地の確保が難しくなっているからです。
介護保険の地域差から生じる介護移住
介護移住とは?
介護難民対策の一つに挙げられるのが「介護移住」です。文字通り介護を理由に移住することを指します。
近隣に入居できる施設などがない場合、施設と職員数に余裕があって、介護サービス費用も安い地方に移住をするというのも有効だと考えられます。
日本創生会議では、老人ホームや介護人材の面で受け入れ体制を整えられている地域として、北海道函館市や福岡県北九州市など、26都道府県41地域も発表しています。
「シニアにやさしい街」をウリにする自治体も
こうした動きを受けて、民間でも介護や医療にやさしい街を格付けしています。代表的なのは日経グローカルの「シニアにやさしい街ランキング」です。
このランキングは、次のような偏差値によって格付けされています。
- 医療・介護偏差値
- 高齢者1,000人あたりの特別養護老人ホーム定員数やケアマネージャー数など12項目をもとに算出
- 生活支援・予防偏差値
- 介護の予防事業への参加状況、買い物弱者対策、成年後見制度の充実度など8項目をもとに算出
- 認知症対策偏差値
- 認知症コーディネーターの配置の有無や認知症カフェの運営状況など3項目をもとに算出
- 社会参加偏差値
- 高齢者の就労率、生涯学習やボランティアに参加している高齢者の割合など5項目をもとに算出
これら4項目の偏差値をもとに総合偏差値を出し、上位から順に並べた結果です。
1位:東京都板橋区(総合偏差値88.2)
2位:栃木県小山市(総合偏差値87.0)
3位:東京都新宿区(総合偏差値82.5)
4位:東京都荒川区(総合偏差値82.3)
5位:石川県能美市(総合偏差値81.5)
この結果によって、介護移住をしやすい街だと断言できるわけではありませんが、判断する一つの基準にはなるかもしれません。
介護移住はスタンダードになるか
政府が検討する介護移住促進政策
介護移住をめぐっては、コロナ禍以前から政府内でも議論の対象にされてきました。
2019年には、介護施設に入る高齢者への給付費を、以前に暮らしていた自治体が負担するという「住所地特例」制度の対象を拡大する議論が行われました。
先述したように、介護保険では住民票のある市町村が高齢者にサービスを給付します。しかし、介護施設の多い自治体に高齢者が集まってしまうと、その自治体の負担が重くなってしまいます。
こうした不公平感を解消するため、例外的に住民票を移す前の自治体が介護費を給付する仕組みとして「住所地特例」が設けられています。この対象を拡大するかどうか検討されていたのです。
コロナ禍などの影響によって議論は止まったままですが、今後の感染状況によっては再開される可能性はあります。
地方の活性化対策にもなる
介護保険では、住み慣れた地域でのサービス提供を目指していますが、都市部で一人暮らしとなっている高齢者などは故郷に戻って介護施設で暮らすという選択肢も考えられます。
介護サービスの充実度も老後の生活を考えるうえで大切な指標のひとつではないでしょうか。
今後2040年までは要介護者が増加していくとみられるなか、地方自治体は積極的に介護にかかわっていく必要があります。人口減少などに苦しむ自治体にとっては地域振興の一手にもなります。
要介護者になる前から高齢者に移住したいと思ってもらえるようなまちづくりができれば、より効果的な地域活性化を図れるでしょう。
さらに、私たちも自分の住んでいる地域の介護情報を積極的に入手し、自身や家族にとって最期を迎える場所を検討していくことが大切ではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定