介護施設における作業療法士の具体的な仕事内容
介護施設において、利用者の自立支援と生活の質の向上を目指す上で、作業療法士の存在は欠かせません。しかし、「作業療法士は介護施設で具体的にどのような仕事をしているのか」「介護福祉士との違いは何か」といった点について、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
作業療法士は、利用者一人ひとりの心身の状態や生活環境を評価し、その人らしい生活を送れるよう、専門的な視点からサポートします。介護老人保健施設でも多くの作業療法士が勤務しており、主な仕事内容は以下の通りです。
個別機能訓練計画書の作成
作業療法士は利用者の心身の状態や生活環境を評価し、個別の機能訓練計画を立案します。通所リハビリテーションの利用者の多くが個別機能訓練を受けていることからも、作業療法士が個別のニーズに合わせたプログラムを提供していることがわかります。
作業療法士は、目標設定や具体的な訓練内容、評価方法などを明確にしていきます。そして、利用者の残存機能を見極め、その人らしい生活を送るために必要な機能や動作を見立てるのです。また、利用者本人や家族の希望を聞きながら、達成可能な目標を設定し、個別の機能訓練計画を作成します。この計画に基づいて、利用者の状態に合わせた適切な訓練プログラムを提供することで、効果的なリハビリテーションを実現していきます。
認知症のリハビリテーション
作業療法の対象となっている認知症の利用者に対しては、残存機能を活かしたリハビリテーションを行います。日常生活動作の維持・向上や、楽しみや役割の創出を通じて、QOLの改善を目指していくのです。
認知症の方は、記憶力や判断力の低下により、日常生活に支障をきたすことがあります。そのため、作業療法士は認知症の特性を理解した上で、利用者一人ひとりの状態に合わせたアプローチを行う必要があります。
例えば、昔から馴染みのある作業や趣味活動を取り入れることで、利用者の意欲を引き出し、残存機能を最大限に活用しながら、日常生活動作の維持・向上を図ります。また、利用者が自信を持って活動に取り組めるよう、環境調整や適切な助言を行うことで、その人らしい生活の実現を支援します。
機能訓練の実施
作業療法士は利用者の身体機能や生活機能の維持・向上を目的に、個別や集団での機能訓練を実施します。なお、手指の運動や家事動作の練習など、日常生活に即した内容で行います。
機能訓練では利用者の状態に合わせて、身体機能や生活機能の維持・向上を目指します。作業療法士は利用者の残存機能を評価し、利用者はそれを活かしながら、日常生活に必要な動作の練習を行っていきます。
また、集団での機能訓練を行うことは、単に機能維持・向上だけでなく、利用者同士の交流を促し社会性の維持・向上も図ることができます。
作業療法士と介護福祉士の役割の違い
作業療法士と介護福祉士は、ともに介護施設において利用者の支援に携わる専門職ですが、その役割は異なります。
作業療法士は心身機能やADL(日常生活動作)の評価、リハビリテーション計画の立案と実施を専門とするのに対し、介護福祉士は日常生活全般の介助やケアを主な役割とします。 作業療法士は、利用者の心身機能や生活環境を評価し、リハビリテーション計画を立案・実施することで、利用者の自立度を高め、生活の質の向上を目指します。一方、介護福祉士は、利用者の日常生活全般の介助やケアを行い、利用者の尊厳を守りながら、安心して生活できるよう支援します。
両者の専門性を活かした連携は、利用者のQOL向上につながります。 作業療法士と介護福祉士が、互いの専門性を理解し、利用者の状態に合わせた適切な支援を行うことで、より質の高いケアを提供することができるのです。
介護施設で働く作業療法士のメリットとデメリット
介護施設で働く作業療法士のメリットとデメリットについて見てみましょう。
メリット:個別性重視のアプローチと時間的ゆとり
介護施設では、利用者一人ひとりに合わせたアプローチが可能であり、ゆとりを持ってリハビリテーションに取り組むことができます。
病院でのリハビリテーションと比較すると、介護施設では利用者と長期間にわたって関わることができます。また、利用者との信頼関係を築きやすいのも魅力の一つです。長期的な視点で利用者の状態を把握し、その人らしい生活の実現を支援できることは、作業療法士にとってやりがいにつながるでしょう。
デメリット:一人職場や介護業務兼任の可能性
一方、介護施設では作業療法士が一人職場となることも少なくありません。
専門的な相談相手がいない場合があるほか、人員配置の関係で介護業務を兼任することもあり、業務負担が大きくなる可能性があります。一人職場の場合、専門的な知識や技術について相談できる同職種がいないため、自己研鑽が重要になります。また、介護業務を兼任することで、作業療法士本来の業務に割ける時間が限られてしまう恐れがあります。介護施設の従事者は医療施設に比べて少ないのが現状です。

これらの点は、作業療法士として介護施設で働く際に考慮すべき事項といえるでしょう。
作業療法士が介護施設で求められる理由と重要性
高齢者の心身機能やADLの維持・向上、QOLの改善のために、作業療法士の専門性が介護施設で求められています。
個別性を重視したリハビリテーションの提供は、利用者の自立支援や尊厳の保持につながる重要な役割です。介護施設では、さまざまな状態の利用者が生活しています。その一人ひとりに合わせた適切なリハビリテーションを提供することで、利用者の残存機能を最大限に活用し、自立度を高めていくことが求められます。作業療法士は、利用者の生活環境や個別のニーズを理解した上で、その人らしい生活の実現を支援する専門職として、重要な役割を担っているのです。
介護老人保健施設の約90%が作業療法士の必要性を感じている(出典:日本作業療法士協会)というデータもあり、作業療法士に対する期待の高さが伺えます。作業療法士の専門性を活かすことで、利用者の生活の質の向上につなげていくことが、介護施設には求められています。
作業療法士養成校の卒業生数と介護分野の需要
介護施設における作業療法士の需要は、今後ますます高まっていくことが予想されます。しかし、作業療法士の国家試験合格者数は、年間約4,500名と、需要に対して十分とは言えない状況です。 介護分野における作業療法士の役割の重要性が認識されるにつれ、より多くの作業療法士が介護施設で活躍することが期待されます。

介護施設で働く作業療法士を増やしていくためには、養成校の定員増加や、他分野で働く作業療法士の介護分野への参入促進など、多角的な取り組みが必要になるでしょう。また、介護施設においては、作業療法士の専門性を理解し、その能力を最大限に活用できる環境づくりが求められます。
まとめ
作業療法士は、心身機能の維持・向上やADLの改善、QOLの向上を目指し、利用者一人ひとりに合わせたリハビリテーションを提供する重要な役割を担っています。
介護施設において、作業療法士は利用者の自立支援と尊厳ある生活を支える欠かせない存在です。施設運営者の方は、作業療法士の配置と連携による利用者サービスの質の向上を、転職を考える作業療法士の方は、やりがいのある職場としての介護施設への就職を、ぜひ検討してみてください。
利用者の生活の質の向上を目指し、作業療法士と介護福祉士が協働で取り組むことで、より良い介護サービスの提供につながるはずです。 今後、高齢化社会がさらに進展する中で、介護施設における作業療法士の役割はますます重要になっていくでしょう。専門職として、利用者の自立支援と尊厳ある生活の実現に貢献できる、作業療法士の活躍に大きな期待が寄せられています。
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2020年9月7日 制定